インタビュー

子どもが誤嚥したとき―どのようなときが危険なのか

子どもが誤嚥したとき―どのようなときが危険なのか
多賀谷 貴史 先生

国立成育医療研究センター 救急診療科

多賀谷 貴史 先生

この記事の最終更新は2016年08月06日です。

誤嚥(ごえん)とは、何らかの異物が誤って気道(空気の通り道)に入り込んでしまった状態です。誤嚥は上気道異物と下気道異物の2種類に区別され、いずれの場合も緊急の医療介入が必要となります。特に上気道異物では、急速に呼吸停止から心停止へ至る危険性が高く、ご家族による応急処置がお子さんの命を救うために必要となります。今回は子どもの誤嚥について、国立成育医療研究センター救急診療科の多賀谷貴史先生にお話しいただきました。

特に6歳未満の子どもは喉頭(こうとう:のど仏にあたる部分)の防御反射が弱く、誤嚥をきたしやすいと考えられています。

誤嚥は異物が停滞した位置により、上気道異物(じょうきどういぶつ)と下気道異物(かきどういぶつ)の2種類に分けられます。上気道とは鼻腔・咽頭・喉頭までのことを指し、下気道とは気管から気管支、細気管支、呼吸細気管支といった、喉頭よりも下の部分にある気道を指します。

頭部縦断画像
頭部縦断画像

窒息した状態が長引くと心停止になる可能性もあります。誤嚥による上気道異物は非常に危険な状態です。実際、毎年50名近くの子どもが上気道閉塞のために窒息死しており、なかでも0~3歳の誤嚥の割合が高くなっています。上気道異物は下気道異物に比べて致死的になるケースが多いことも特徴です。

上気道異物の原因として多いのはあめ玉、グミ、果物や野菜(イチゴ、りんご、ぶどう、ミニトマト、たくあんなどの漬物)、お菓子(お団子、カップゼリー)などで、基本的に口に入るサイズのものであれば事故の原因になります。また食物のみでなく、スーパーボール、ゴム風船、木製のおもちゃなども、誤嚥の原因として報告されています。特に直径1~4㎝のものは誤嚥しやすいため注意が必要です。

乳歯が生えそろう時期は3歳頃であり、それ以前の子どもは食物を与えられたまま丸呑みしようとします。このため、口に入るサイズのもので窒息してしまうと考えられています。

4歳以降では、食べ物よりも、スーパーボールなどの玩具の誤嚥が多くなります。

下気道異物の症状としては咳嗽(がいそう:咳のこと)、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーする症状)、呼吸障害などがみられます。誤嚥した直後は20%程度の確率で無症状ですが、時間が経つにつれて、肺炎などの症状が現れることがあります。

下気道異物はほとんどの場合、3歳以下の子どもに起こります。主な原因物質はピーナッツなどのナッツ類や枝豆などの豆類です。節分の時期は患者さんが増加する傾向にあるため、豆まきの際は十分注意するようにしてください。

救急車が来るまでの間、窒息の応急処置を行います。

●上気道異物で窒息してしまったときの対応

  • まずは119番通報をします
  • 意識の確認をします
  • 意識が無ければ心肺蘇生を行います。意識があり、自分で力強い咳ができ、異物を吐き出す努力をしている場合には妨げずに、そばにいて状態を監視してください。意識があっても、声が出せない、あるいは呼吸ができない場合は、重度の気道閉塞がありますので、以下の手順で閉塞の解除を試みる必要があります。
  • 1歳未満であれば胸部突き上げ法と背部叩打法を交互に行います。異物が除去できるまで、または乳児が反応を示さなくなるまで、背部叩打法と胸部突き上げ法をそれぞれ最大5回行う手順を繰り返します。

*胸部突き上げ法

股から背中に手を挟み込むようにして、腕で体を、手のひらで頭をしっかり支えます。蘇生処置の胸骨圧迫と同様に、両乳頭を結ぶ線の少し下を2本指で強く圧迫します。

胸部突き上げ法
胸部突き上げ法

*背部叩打(はいぶこうだ)法

子どもの頭を下にして、股のほうからお腹側に手を通して手のひらで顎を支えます。子どもの頭を体よりも低くして、もう片方の手の平の付け根で、肩甲骨の間の辺りを数回強く叩きます。

廃部叩打法
背部叩打法

 

1歳以上であればハイムリック法(腹部突き上げ法)を行います。

背後から抱きかかえるようにして胴に両腕を回します。片方の手で拳を作り、拳の親指側を腹部中央で、へそのやや上に押し当てます。もう一方の手を拳の上に置き、腹部を上に向かって突き上げ圧迫します。

ハイムリック法
ハイムリック法
ハイムリック法詳細
ハイムリック法詳細

これを、異物が除去できるまで、または意識がなくなるまで繰り返します。

上記手順で異物が除去できず、意識がなくなった場合は心肺蘇生を開始してください。

圧迫部位は胸骨の下半分です。小児(1歳以上)では両手(体格によっては片手)で、乳児(1歳未満)では2本指で行います。

圧迫は1分間当たり100~120回のテンポで行い、30回胸部圧迫をしてから2回人工呼吸を行うことを繰り返します。

胸の厚さの約1/3沈み込む程度に圧迫してください。圧迫と圧迫の間は胸が元の高さに戻るように、十分に圧迫を解除することが大切です。

心肺蘇生を行っている途中で異物が見えた場合は、それを取り除きます。見えない場合は、異物をさらに押し込む可能性があるため、やみくもに口の中を探ってはなりません。また異物を探すために胸骨圧迫を長く中断するのは避けてください。

実際の場面では、これまで述べたことを、全て正確に行うことは難しいかもしれません。しかし、手順や手技は完璧でなくとも、覚えていることをわずかでも実施してあげることが子どもの命を救うことにつながります。

下気道異物は、上気道異物のように急激な心停止を招く可能性は低いものの、気管支内視鏡による検査および摘出が必要となる緊急事態であることは変わりありません。下気道異物が疑われる場合も直ちに救急車を呼びます。

上気道異物の場合は、喉頭鏡という器具を用いて観察を行い、異物が確認できる場合は摘出します。異物が確認できない場合は、気管挿管が必要となることや、気管支鏡を用いて除去を試みなければならないこともあります。

下気道異物の場合は全身麻酔下に気管挿管を行い、気管支鏡の観察下に摘出を行います。

また、年長児であれば成人と同様に、親指と人差し指で喉をつかむ「窒息のサイン」と呼ばれる仕草をすることもあります。

窒息のサインの図
窒息のサインの図

一方、下気道異物の症状としては咳嗽(がいそう:咳のこと)、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーする症状)、呼吸障害などがみられます。下気道異物は、上気道異物のように急速に心停止を招く可能性は低いものの、気管支内視鏡による検査および摘出が必要となる緊急事態であることは変わりありません。上気道異物であるか下気道異物であるかに関わらず、誤嚥が疑われる場合は、119番通報をしてください。

 

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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