インタビュー

ミオクロニー欠神てんかんの症状と原因

ミオクロニー欠神てんかんの症状と原因
小国 弘量 先生

TMGあさか医療センター てんかんセンター顧問

小国 弘量 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月23日です。

小児てんかん症候群のひとつ、ミオクロニー欠神(けっしん)てんかんは、特徴的な発作を主症状とする極めてまれな病気です。患者数は非常に少ないものの、一歩ずつ研究は進んでおり、近年では発作以外の症状から、ミオクロニー欠神てんかんを2分類する考え方も提唱されています。ミオクロニー欠神てんかんの特徴的な発作や、その他の症状とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。TMGあさか医療センター・てんかんセンターで顧問として診察にあたられている小国弘量先生にお伺いしました。

ミオクロニー欠神(けっしん)てんかんとは、子どもに発症する小児てんかんのひとつです。世界的にみても患者数は非常に少なく、日本でも発症頻度は極めてまれです。

発症年齢は11か月~12歳と幅広く、女児に比べて男児にやや多い傾向があります。

ミオクロニー欠神てんかんの主な症状は、「ミオクロニー欠神発作(けっしんほっさ)」と呼ばれる特徴的な発作です。また、ミオクロニー欠神発作のほかに、全身けいれんや精神遅滞の合併など、多様な症状を併存する例もあります。また、抗てんかん薬の使用で症状がおさまる例もあれば、薬に反応が乏しく、長期に治療が必要となる例もあります。

ミオクロニー欠神発作(けっしんほっさ)とは、突然に四肢、特に両肩や上腕を中心とした上肢筋肉の収縮が起こり「ピクッピクッピクッ」と1秒間に3回ほど、リズムを刻みながら上方向へと動く発作です。このとき、患者さんの意識はくもった状態になり、呼びかけに反応しなくなったり、肩を叩いても振り向かなくなったりします。ミオクロニー欠神発作は10秒~60秒ほど持続したあと突然に終了し、すぐに元通り活動できるようになります。この発作では、下肢(下半身)の症状もみられますが、立っているときに起こった場合でも、転倒する危険性は低いとされています。

素材提供:PIXTA

ミオクロニー欠神発作は、1日に数回、多いときには1日に数十回起こります。また、睡眠中に起こることもあります。転倒の危険性は比較的少ない発作様式ではあるものの、発作が多い日は、外出や階段昇降を控えるといった注意が必要です。

ミオクロニー欠神てんかんという名称は、ミオクロニー欠神発作という発作様式を持つてんかんの総称です。

しかし、実際のミオクロニー欠神てんかんには、特徴的な発作以外の症状(全身けいれんや精神発達遅滞など)が強く現れるものと、現れたとしても軽度にとどまるものとがあります。そのため、近年ではミオクロニー欠神てんかんを以下2グループに分類しています。

このグループのミオクロニー欠神てんかんは、ミオクロニー欠神発作以外の症状がほとんどないものを指します。比較的軽いミオクロニー欠神てんかんと捉えることもでき、発作が抑制されて実際に病気のないお子さんと同じように学校生活を送られている患者さんもいます。この

グループの平均的な発症時期は学童期前期であり、次に述べるグループに比べて遅いことがわかっています(発症年齢は7歳頃)。

このグループでは、ミオクロニー欠神発作だけでなく、精神発達遅滞、身体奇形、全身けいれんなど、さまざまな病態・症状を併せ持つミオクロニー欠神てんかんのことです。染色体に異常がみられたという症例報告もあり、「ミオクロニー欠神てんかんに他の症状を伴うのか」あるいは「生まれつき持っていた病気にミオクロニー欠神発作を伴うのか」を明確に区別することはできません。

赤ちゃんと、小学生くらいの子ども

発症年齢は特発性グループに比べて早く、乳幼児期に診断がつくケースもあります。ミオクロニー欠神てんかんの発症年齢が11か月~12歳と幅広い理由は、同じ名称で括られる1つのてんかんのなかに、印象の異なる2つのタイプが含まれているためであると考えられます。

ミオクロニー欠神てんかんに伴いやすい症状のひとつに精神発達遅滞があります。特に症候性グループと考えられる患者さんに多くみられ、なかには生まれつきの障害がみられる例もあります。また、特発性グループでも発作が止まりにくい「治療抵抗性」といわれるタイプの場合、発病後年数が経過してから精神発達遅滞の症状が現れることもあります。

行動障害や発達障害は、ミオクロニー欠神てんかんだけでなく、小児てんかん全般に合併しやすい症状です。てんかんの発病以前からADHD(注意欠陥・多動性障害)を持っていることもあります。

また、ミオクロニー欠神てんかんそのものではなく、抗てんかん薬の影響により、集中力や行動に影響が生じることもあります。そのため、薬物治療を行うときには、発作を抑えることだけでなく副作用も考慮に入れ、病気の経過や患者さんの状態を慎重に観察していくことが大切です。

ミオクロニー欠神発作をもつ症例の約3分の2は、何らかの他の発作型を合併しているといわれています。合併する発作のうち約半数は、全身けいれんです。このほか、転倒発作などの多様な発作が現れることがあります。

(Bureau M, Tassinari CA.  Myoclonic absences and absences with myoclonias.  In; Bureau M, Genton P, Dravet C, Delgado-Escueta AV, Tassinari CA, Thomas P Wolf P, eds. Epileptic syndromes in infancy, childhood and adolescence, John Libbey Eurotxt 2012;297-304.)

全身けいれんを合併しているミオクロニー欠神てんかんは、治療抵抗性であることが多く、合併していない例に比べて発作が止まりにくいといわれています。

患者さんの成長に従い、発作様式にも変化が生じ、主症状がミオクロニー欠神発作から全身けいれんに変わっていくケースもあります。このような病像の変化は、思春期を経て脳そのものが変化していくためであると考えられます。ミオクロニー欠神発作だけではなく、何種類ものてんかん発作が現れる「レノックス・ガストー症候群」に変わることもあります。

レノックス・ガストー症候群とは:先天的な脳の異常や外傷などにより、多様なてんかん発作が現れるてんかんのこと。

ミオクロニー欠神てんかんの原因は、他の原因不明のてんかんと同様わかっていません。

ただし、ミオクロニー欠神てんかんの「なりやすさ」を強める因子については、明らかになっている部分もあります。

ミオクロニー欠神てんかんの患者さんを対象とした家族歴の調査では、約20%にてんかん(てんかん全般)の家族歴がみられたということがわかっています。

(Bureau M, Tassinari CA.  Myoclonic absences and absences with myoclonias.  In; Bureau M, Genton P, Dravet C, Delgado-Escueta AV, Tassinari CA, Thomas P Wolf P, eds. Epileptic syndromes in infancy, childhood and adolescence, John Libbey Eurotxt 2012;297-304.)

約20%という数値は、てんかんの世界においては高い数値といえます。このことから、ミオクロニー欠神てんかんの発症には、遺伝的素因が関与しているのではないかと考えられます。ただし、特定の遺伝子異常などが原因となり発症する病気とは異なり、ミオクロニー欠神てんかんは家族歴を含む複数の因子が関与して起こる一般的なてんかん同様に「多因子遺伝」の病気であるという考え方が一般的です。

ミオクロニー欠神てんかんは、いわゆる「メンデルの法則」に則って親から子へと遺伝する遺伝性疾患とは異なります。前項でも述べたように、複数の因子が複雑に絡み合って発症すると考えられているため、学問的には多因子遺伝疾患という枠組みで捉えられています。

しかし、個別の事例をみていくと、同じミオクロニー欠神てんかんを兄弟で発症したという症例の報告も存在します。

(Cherian A, Jabeen SA, Kandadai RM, Iype T, Moturi P, Reddy M, Kanikannan MA, Borgohain R, Padmanabhan S. Epilepsy with myoclonic absences in siblings.Brain Dev. 2014;36:892-898.)

現在報告されている兄弟発症例は、世界でもこの1件のみです。しかしながら、全体の患者数が少ないため、1件の報告がある以上、遺伝する可能性を100%否定することはできないといえます。

考え方としては、「ミオクロニー欠神てんかんは、基本的には遺伝性の病気ではないものの、ごくまれに遺伝する可能性もある病気であると捉えることが適切だと考えます。

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