概要
メビウス症候群とは、眼球を外側に動かす外転神経や顔の表情を作る顔面神経に生まれつき麻痺がある病気です。
笑ったり泣いたりしているのに表情が変わらない、瞬きをしない、眉毛が動かない、目が外側に動かないなどの症状がみられます。症状の種類や程度は人によって異なりますが、呼吸障害やドライアイ、骨の異常、てんかん、聴覚障害、知的能力障害などを伴う場合もあります。神経麻痺が生じる原因は明らかになっておらず、根治的な治療法は確立されていません。そのため、治療としては症状を和らげる対症療法が中心となります。
メビウス症候群は難病指定を受けている病気の1つで、全国におよそ1,000人の患者がいると推定されています。
原因
メビウス症候群の原因は明らかになっていませんが、赤ちゃんが胎内にいる段階で小脳や脳幹の発達異常が生じたり、脳神経核の血流が不足したりすることが原因ではないかと考えられています。
ほとんどが遺伝することなく単発で発症しますが、まれに家族内に複数発症することも報告されており、遺伝子変異の可能性も示唆されています。
症状
メビウス症候群では、眼球運動の異常と顔面神経麻痺がみられます。
眼球運動の異常の例としては、目を外側に動かすことができず、動くものを見る際に目で追わずに首を回して見る様子がみられます。
顔面神経麻痺については、表情を変えることが難しいため、笑ったり泣いたりしているのに表情が変わらない、瞬きをしない、眉毛が動かないなどの症状が現れます。また、顔面神経は涙腺を刺激する役割も担っていますが、異常が生じることで、食事中などの顎の動きにより涙が出ることもあります。
メビウス症候群では外転神経や顔面神経以外にも、下顎神経や舌神経が麻痺することもあります。その場合、口が大きく開けられなくなったり、舌の動きが悪くなったりするため、哺乳や嚥下(口の中の食物を飲み込むこと)がしにくくなります。
そのほか、以下のような症状を伴うこともあります。
- 呼吸器症状:喘鳴(呼吸時にゼイゼイ・ヒューヒュー音がする)、過換気(過呼吸)症状
- 涙の分泌量低下によるドライアイ
- 胃食道逆流症(黒色の嘔吐、鉄欠乏性貧血、体重が増えないなど)
- 筋力の低下、骨の変形、脊柱が曲がる側弯症
- てんかん、自閉症スペクトラム症、聴覚障害、知的能力障害
など
検査・診断
メビウス症候群は、以下のような症状から神経の麻痺を確認することで診断されます。
- 表情が変わらない(表情に乏しい)
- 眉間を触っても目を閉じない
- 動くものを目で追うときに目を動かさず首を回して見る
また、脳の一部が石灰化を起こしていたり、脳神経が形成されていなかったりすることもあるため、これらを確認するために頭部CTやMRIが行われる場合もあります。
画像検査は、メビウス症候群と似た症状が現れるほかの病気の可能性を除外するためにも有用です。
治療
メビウス症候群の根治的な治療法は確立されていません。そのため、たとえばドライアイには点眼薬を用いるなど、症状を抑える対症療法が治療の中心となります。
また、メビウス症候群では哺乳や嚥下が難しくなることがあるため、哺乳障害に対してはチューブを利用した経管栄養や、胃ろう*の造設を行うこともあります。呼吸障害では在宅酸素療法、気管切開、在宅人工呼吸管理を行うことがあります。
そのほか、骨の異常には装具の使用や手術など、症状に応じた治療が行われます。メビウス症候群は症状の現れ方が人によってさまざまで、同じ神経の麻痺であっても治療介入を要する場合もあれば経過観察となる場合もあります。
*胃ろう:口から食事をとるのが難しい人も栄養をとれるよう、胃に穴を開けて専用チューブを通し、栄養を投与する方法。
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