概要
中隔視神経形成異常症とは、透明中隔(左右の側脳室前角を隔てる膜)欠損と視神経低形成に、下垂体機能低下症を伴う先天的異常が生じる病気です。下垂体機能低下症では、分泌が障害されているホルモンに対応した症状が見られます。また、精神運動発達遅延を伴うこともあります。病気の発症には遺伝子や環境因子などの関与が疑われていますが、完全に病気の原因が解明されている訳ではありません。
中隔視神経形成異常症は難病指定を受けている病気のひとつであり、日本において135名の報告があります(2019年時点)。しかし、正確な患者数は不明であるとの報告もされています。
中隔視神経形成異常症に対して根本的な治療法は現在のところ存在しておらず、症状に応じた支持療法が中心となります。
原因
中隔視神経形成異常症は、一部の症例では、HESX1、SOX2などの遺伝子変異が報告されていますが、多くは原因不明の孤発例であり、若年出産や母体の薬物、アルコール曝露による環境因子の影響が推測されています。いくつか遺伝子異常が病気の発症に関わっていると考えられていますが、中隔視神経形成異常症発症例の全体から見るとまれな原因であると考えられています。これらの遺伝子はいずれも胎児期の眼や下垂体、視神経などの発生に深く関与しています。これら遺伝子に異常が生じることから、視神経や下垂体などの発達に障害が生じることになり、結果として中隔視神経形成異常症を発症します。
中隔視神経形成異常症では、脳の構造物の中で、透明中隔、視神経、下垂体に障害が生じることがあります。そのほかにも脳梁、視交叉など、身体の正中部に存在する構造物に異常を生じることもあります。脳は通常左右2つに分かれていますが、脳を2つに分ける過程に異常が生じた結果、こうした構造異常を発症することになります。
下垂体からは副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン、プロラクチン、抗利尿ホルモン、オキシトシンがそれぞれつくられ、分泌されています。中隔視神経形成異常症では、これらの中のホルモン分泌が低下することも特徴です。
症状
中隔視神経形成異常症は、視神経や視交叉と呼ばれる眼に関連した神経に障害が生じる病気です。そのため、視力障害や眼振(眼球がけいれんしたように動いたり揺れたりすること)といった症状がみられます。
また、下垂体機能低下症に関連した症状をみることもあります。原因で述べた通り、下垂体から分泌されるホルモンにはいくつかの種類が存在しますが、どのホルモンが影響を受けるかによって生じる症状は異なります。なかでも成長ホルモン分泌が影響を受けることが多く、低身長になります。そのほか、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンの分泌障害を発症することもあります。低血糖や低血圧など重篤な症状を見ることもあります。さらに、二次性徴に影響がおよぶこともあります。
脳の構造異常を伴う病気であり、精神運動発達に障害が生じることもあります。異常を受ける構造物に応じて症状の程度には差があります。てんかんをきたすこともあります。
検査・診断
中隔視神経形成異常症では、脳の構造異常(特に正中部の)が主体となる病気です。このことから、脳MRI検査にて、透明中隔、脳梁、視交叉などに構造異常が存在するかどうかを確認します。また、眼底検査で視神経の形成が正常よりも衰えているかどうかを確認することも重要です。
中隔視神経形成異常症では、ホルモン分泌障害を伴うこともあります。下垂体からのホルモン分泌が障害を受けていることを確認するために、各種ホルモンの測定や負荷試験などを組み合わせてホルモン障害が起きているかどうかを調べます。さらに中隔視神経形成異常症ではてんかんを発症することもありますので、脳波検査でホルモン障害などの可能性を疑うことになります。
多くの場合は、家族歴もなく弧発例として病気は発症しますが、まれに病気の発症に遺伝子異常が関連していることもあります。こうした異常の有無を調べるために、遺伝子検査が併用されることもあります。
治療
中隔視神経形成異常症に対して確立された根本療法は存在せず、症状に合わせた支持療法が中心となります。視覚障害や精神発達遅滞に対して、早期の段階からの療育、リハビリテーションが必要とされます。下垂体機能の低下症状に対しては、低下しているホルモンの補充療法が行われます。たとえば成長ホルモンが低下している場合は成長ホルモンが投与されますし、副腎皮質刺激ホルモンが低下していればステロイドの補充が行われます。てんかんの発症例に対しては、抗てんかん薬が使用されます。
中隔視神経形成異常症の治療に関しては、各分野の専門家が医療体制を敷くことがとても重要です。
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