概要
乳児痔瘻とは、赤ちゃんの肛門の周囲に膿がたまり、その膿が排出される出口ができる病気です。主に生後1か月から1歳未満の赤ちゃんに発症する病気で、そのほとんどが男児に発症するという特徴があります。発症の約8割は生後6か月未満で、患者の9割以上が男児と報告されています。
成人の痔瘻は多くの場合で自然に治らず手術が必要になりますが、乳児痔瘻は1歳前後から2歳頃までに自然治癒することが多いため、まずは薬などを用いた手術以外の治療(保存的治療)を検討します。再発しやすい病気のため治癒するまでに時間を要する場合もありますが、過度に心配せず、医療機関を受診し、適切な治療を行いながら経過を見守りましょう。
原因
乳児痔瘻の発症には、乳児期特有の便の状態および免疫機能の未熟さ、男児に特徴的なホルモンバランスの変化などが関係すると考えられていますが、詳しい原因については分かっていません。
便の状態や免疫力の未熟さ
肛門の内側には、肛門陰窩という小さなくぼみがあります。乳児期は便が柔らかく排便の回数も多いため、このくぼみに便が入り込みやすく、また免疫機能が未熟であることから、細菌感染を起こしやすいと考えられています。

ホルモンバランス(ミニ思春期)
男の赤ちゃんには生後数か月の時期(生後1週間~6か月ほど)に、一時的に男性ホルモン(テストステロン)の値が上昇する「ミニ思春期」と呼ばれる時期があります。このホルモンバランスの変化が乳児痔瘻の発症に関係している可能性が指摘されており、乳児痔瘻が男児に多く見られる理由の1つと考えられています。ただし、いずれの要因も発症のしくみを完全に説明できるものではありません。
症状
乳児痔瘻の主な症状は、細菌感染により肛門の周辺部位が赤く腫れたりしこりができたりして皮膚の下に膿が溜まること(肛門周囲膿瘍)と、膿が皮膚を破り排出されて瘻管(トンネルのような通り道)と瘻孔(出口)ができることです。
膿瘍は肛門の左右(時計でいう3時・9時の方向)にできることが多く、おできのような赤い腫れが見られます。膿が溜まっている間は患部に痛みが生じ、発熱を伴うこともあるため、赤ちゃんが排便やおむつ替えをする際に激しく泣いたり、不機嫌になったりします。溜まった膿が排出されると一時的に腫れと痛みはひきますが、瘻孔が残ることで再び細菌感染を起こし、腫れと排膿を繰り返しやすいため、注意が必要です。
検査・診断
乳児痔瘻は多くの場合、問診や視診(患部を見て確認すること)、触診(患部を触って確認すること)などの診察を行うことで診断が可能です。血液検査や画像検査は通常必要ありません。ただし、再発を繰り返す場合や典型的でない経過の場合には、後述する別の病気がないかを調べるために血液検査などを行うことがあります。
治療
乳児痔瘻の治療では、大人の痔瘻のように瘻管を切開・切除する根治術を行うことはほとんどありません。基本的には漢方薬や抗菌薬の投与、膿瘍のまわりを軽く押して膿を出す処置(圧迫療法)を行い、必要な場合にのみ切開による排膿を行って、自然治癒を促します。1~2歳を過ぎても再発を繰り返す場合には、手術適応となる場合もあります。
薬を用いた内科的治療
抗菌薬の内服や塗布により、膿瘍の炎症を抑え、膿の貯留を防ぎます。抗菌薬の投与は従来から行われている治療です。しかし肛門局所での効果が限定的な場合があり、内服により腸内細菌のバランスが崩れて下痢を招くこともあるため、近年は炎症が強く発熱を伴う場合などに短期間使うことが一般的です。また、膿の出口が形成されて治療が難しくなることもありました。その場合、従来は膿の出口を掻き出す治療が行われていましたが、痛みを伴い、頻繁な通院が必要で、赤ちゃんと家族の負担が大きいことが課題でした。近年では、膿が溜まった状態から漢方薬を使用することで、痛みや負担の少ない形で治療を進めることが増えています。あわせて、下痢や便秘は症状を悪化させることがあるため、便の状態を整える整腸剤を併用することもあります。
漢方薬は主に2種類で、1つ目は「排膿散及湯」と言い、鎮痛・排膿の作用があります。患部が赤く腫れて痛みが強い時期(急性期)に使います。2つ目は「十全大補湯」で、体力を補い、免疫のはたらきを整える作用があるとされています。排膿がなくなり患部の腫れが治まったときに使うことで、再発の予防を目指します。
漢方薬は苦いため、飲ませるための工夫が必要です。たとえば、少量の水を混ぜて頬の内側に付けてから飲み物で流す、お湯で溶かしたものをスポイトで吸って口の奥に落とす、乳児用の服薬ゼリーを使用するといった方法があります。
排膿を促す処置
基本的には、漢方薬を用いるなどして切開を回避して治療を行いますが、腫れが大きく痛みを生じている場合や、抗菌薬や漢方薬を投与しても症状が治まらない場合には、皮膚を少し切開して膿を出す処置を行うことがあります。切開して膿を出した後も、漢方薬による治療は継続します。
清潔の保持
赤ちゃんが排便した後は、優しくお尻を洗い流して、清潔な状態を保ちます。ぬるま湯を使い、シャワーで洗うか座浴(洗面器などにお湯をはり、お尻を洗う方法)を行うとよいでしょう。また、下痢や便秘が続くと悪化しやすいため、便の状態にも気を配りましょう。
根治術を検討するケース
月齢の低い赤ちゃんに対する全身麻酔はリスクを伴うこと、術後の患部の管理が難しいこと、将来的な肛門機能への影響が不明瞭であることなどから、できるだけ根治術を避けます。そのうえで、1~2歳を過ぎても再発を繰り返している場合には、瘻管を開放する手術(瘻管開放術)を検討することもあります。手術の時期に決まった基準はなく、可能であれば学童期まで成長を待ってから行うこともあります。
注意が必要なケース
頻度はまれですが、乳児痔瘻と似た症状(膿瘍や瘻孔など)を伴う別の病気(慢性肉芽腫症などの生まれつきの免疫の異常や、クローン病など)が存在するため、それらの病気を見逃さないよう注意が必要です。たとえば、2歳を過ぎてから発症した場合や重症で治りにくい場合、手術を行っても治らずに再発を繰り返す場合、あるいは膿瘍のほかに潰瘍(えぐられたような深い傷)やむくんでいる皮垂(スキンタグ:皮膚が余ってしわになった状態)を伴う場合などは、あらためて詳しい診察を受けることが推奨されます。
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