概要
副甲状腺機能低下症とは、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌またはその作用が低下することにより引き起こされる病気です。この病気では、低カルシウム血症や高リン血症が起こり、さまざまな症状が現れます。低カルシウム血症では、口周りや手足のしびれ、テタニーと呼ばれる神経症状がみられます。
発症の主な原因としては、副甲状腺や頚部の手術後の合併症、放射線照射の影響、あるいは悪性腫瘍の浸潤などが挙げられます。また、遺伝子異常によるPTH分泌低下や、原因の不明の症例も存在します。さらに、PTHの分泌は正常であるにもかかわらず、臓器のPTHに対する反応性が低下する偽性副甲状腺機能低下症という状態も知られています。
治療では、活性型ビタミンD3製剤を使用し、血液中のカルシウム濃度を上げる治療が行われます。適切な治療を継続することで症状は改善し、大多数の方は通常の日常生活を送ることが可能となります。
原因
副甲状腺は甲状腺の後方に位置する4つの小さな臓器で、それぞれ数mm程度の大きさしかありません。この臓器から分泌されるPTHは、骨や腎臓に作用して血液中のカルシウム濃度を調節する役割を担っています。
副甲状腺機能低下症は、このPTHの分泌あるいは作用が低下することで発症し、その結果として低カルシウム血症や高リン血症が引き起こされます。
副甲状腺機能低下症の原因は多岐にわたります。最も多いのは、ほかの病気や治療などが原因となる二次性副甲状腺機能低下症です。これは頚部手術後や放射線照射の影響、悪性腫瘍の浸潤、肉芽腫性疾患、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病などにより、副甲状腺が破壊されることで発症します。
従来、原因不明とされてきた特発性副甲状腺機能低下症については、近年の研究の進展により、自己免疫異常、副甲状腺の形成不全を引き起こすさまざまな遺伝子異常、カルシウム感受性の異常、PTH遺伝子異常など、より詳細な分類が可能となりました。ただし、現在でも原因を特定できない症例は特発性副甲状腺機能低下症として診断されています。
また、PTH分泌量は正常であるにもかかわらず、骨や腎臓での作用が不十分なために低カルシウム血症などをきたす状態は、偽性副甲状腺機能低下症として区別されています。
症状
副甲状腺機能低下症では低カルシウム血症や高リン血症が起こり、これに付随する症状が認められます。
低カルシウム血症による主な症状として、口周りのしびれや感覚異常が現れ、筋肉の持続的なこわばり(テタニー)やけいれんがみられます。また、腹痛のほか、抑うつ状態や倦怠感などが生じることもあります。重度な場合には、気管支けいれんや昏睡(意識不明)をきたします。さらに、カルシウム値とリン値の積(掛け合わせた値)が高い状態が続くと白内障を発症するリスクが高まります。また、遺伝子異常などそれぞれの病因によって異なりますが、心臓の奇形、難聴、成長障害、慢性皮膚粘膜カンジダ症、顔貌異常、肥満などがみられることもあります。
検査・診断
副甲状腺機能低下症の診断は、症状と検査所見に基づいて行われます。
下記の症状のうち少なくとも1つがみられ、検査所見の全てがみられる場合は副甲状腺機能低下症と確定されます。症状がない場合でも、検査所見を全て満たせば副甲状腺機能低下症の可能性が高いと判断されます。
症状
- 口周りや手足などのしびれ、感覚の異常
- テタニー
- 全身けいれん
検査所見
- 低カルシウム血症かつ、正リン血症または高リン血症
- eGFR:30mL/min/1.73m2以上
- 副甲状腺ホルモン:30pg/mL未満
ほかの病気などを原因とする二次性副甲状腺機能低下症の可能性もあるため、診断の際は頚部の手術や放射線照射がなかったか、悪性腫瘍の浸潤、肉芽腫性疾患など原因となり得るほかの病気がないかを調べる必要があります。
治療
二次性副甲状腺機能低下症である場合は、原因となっている病気の治療を行いますが、遺伝子異常によるものや原因不明な特発性副甲状腺機能低下症に対しては、根本的な治療は存在しません。
副甲状腺機能低下症による症状の多くは低カルシウム血症によるものであるため、活性型ビタミンD3製剤を使用して血中のカルシウム濃度を上昇させる治療が行われます。また、治療に伴う尿中カルシウム排泄量の増加は、尿路結石や腎機能低下を引き起こす可能性があります。このリスクを最小限に抑えるため、活性型ビタミンD3は必要最小限の投与量に調整され、一般的にカルシウム製剤の併用は行われません。
ただし、テタニーや全身けいれんといった急性症状がみられる場合には、早急にカルシウム値を上昇させるためにグルコン酸カルシウムの静脈投与が行われます。
多くの副甲状腺機能低下症では根本的な治療が難しいため、発症後は生涯にわたって治療を続ける必要があります。
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