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大動脈解離の診断と予後において重要となるもの

大動脈解離の診断と予後において重要となるもの
安達 晃一 先生

横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長

安達 晃一 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年02月05日です。

大動脈解離は救命に緊急を要することが多い危険な病気ですが、さらに、診断が困難であるという特徴があります。それは、典型的な症状である胸や背中の痛みはほかの病気と混同しやすく、判断が難しいからです。そのため、適切な診断にはCT検査が非常に重要になるといいます。さらに、再発防止のためには手術後の定期的な検査が欠かせません。

また、大動脈解離の手術により救命された患者さんの多くは社会復帰を果たしますが、脳合併症により後遺症が残る可能性もゼロではありません。体の麻痺などの後遺症は患者さんの予後(手術後の状態)に大きく影響しますので、注意が必要です。

今回は、このような大動脈解離の診断や予後について、引き続き横須賀市立うわまち病院の心臓血管外科部長・安達 晃一先生にお話しいただきました。

大動脈解離の診断は、古くから課題となってきました。というのも、大動脈解離の典型的な症状である胸や背中の痛みから本疾患の可能性を見極めることは非常に困難だからです。このため、昔はその症状から心筋梗塞(しんきんこうそく)を疑われることはあっても、大動脈解離を連想する医師は多くはいませんでした。

しかし近年では、CT検査の普及と医療機関や医師への啓発が進み、それにより診断率も向上しています。また、救急隊員への教育もなされるようになり、症状が見られる患者さんを大動脈疾患の治療ができる医療機関に最初に搬送するなどの進歩も見られるようになりました。このように、胸や背中の痛みを訴える患者さんに対して大動脈解離を疑う体制は整ってきたと感じます。

CT画像
白い部分に大動脈解離が見られるCT画像の例(安達晃一先生ご提供)

具体的に、大動脈解離の診断においてはCT検査(X線を利用して体の内部を画像化する検査)が非常に重要になります。CT検査のほかにも、X線検査や超音波検査による診断を受けることは可能ですが、単純にこれらの検査で血管の状態を把握することは難しく、症状から病気を連想できないと診断が困難になります。ですから、疑わしい症状の患者さんはCT検査を受けることが確実な診断につながるため、何よりも重要となります。

緊急の治療を要する急性大動脈解離の診断時には、病態がどのようになっているかをその場で判断しなければなりません。まず、大動脈の破裂・出血により心機能が低下する心タンポナーデというショック状態になっていないかを判断する必要があります。さらに、大動脈弁(だいどうみゃくべん)(心臓の出口にあり全身に血液を送り出す弁)の逆流がないかどうかを診ることが重要です。ほかにも、冠動脈に閉塞(へいそく)がないか、意識があるか、腹部や足に血流障害がないかなどを判断し、速やかに治療をする必要があります。

救急車

合併症が何もなく比較的安定している状態で手術を実施できる方もいらっしゃいますが、大動脈が破裂しショック状態の患者さんや冠動脈の閉塞が見られる方の場合は救命率も下がってしまいます。このような方は、繰り返しになりますが、できるだけ速やかに手術をすることが何よりも重要です。

このように特に症状が進行している患者さんに対しては、記事1『急性大動脈解離の手術法と今後の展望――より安全な治療を目指して』でご紹介したような大動脈解離が生じた部分を人工血管によって閉鎖する手術だけでは治療が完了しないことがほとんどです。たとえば、大動脈弁を人工弁と交換したり、冠動脈バイパスを追加したりするなど、付加的な治療を行う必要があります。

基本的に大動脈解離の患者さんで救命された方の多くは、後遺症がなければ社会復帰を果たしています。

後遺症が残る可能性は全体の10〜20%ほどといわれてますが、そのもっとも大きな要因は脳合併症です。大動脈解離の患者さんの中には、解離が首の血管まで及んでしまった結果、脳の血流障害を起こす方がいらっしゃいます。その中でも、脳梗塞(のうこうそく)を起こす可能性がもっとも高く、確率としては10%ほどといわれています。脳梗塞になると、意識が戻らない方や体に麻痺が残る患者さんが多く、患者さんの予後に大きく影響してしまうため注意が必要です。

脳のイメージ

手術が成功し社会復帰を果たした後も、再発防止のためには定期的な検査を受け、大動脈の拡大がないかを調べることが重要になります。検査では、大動脈の太さが調べられ、手術後に大動脈の径が4.5cm以上の方は、さらに拡大が進み再手術が必要になる可能性が高くなります。大動脈の径が3cm以下で済んでいる方の場合は、再手術の可能性は非常に低いといえるでしょう。

大動脈の径が3cm以下で拡大が見られないような方は、病態が安定していることが多いため、年に1度のCT検査による経過観察をします。一方、大動脈の拡大が確認されていたり、4cm以上の大動脈の径がある方は、手術後半年から1年ほどは必ず定期的にCT検査を受ける必要があります。そうして経過を確認しながら、症状によっては再手術が必要になることもあります。

大動脈解離の治療は、今後はより患者さんにとって負担の少ない低侵襲(ていしんしゅう)の方向へ向かうと思います。これは、手術時間を短縮することや手術範囲を小さくすることを意味します。

特に、今後はさらに高齢の患者さんが増えることが予想されます。私の知る限り、大動脈解離の手術を受ける患者さんの平均年齢はここ10年で5歳ほど上がっています。

高齢者の患者

高齢の方の場合、複合的な病気が多く、1つの手術で済むことはほとんどありません。弁膜症と大動脈の手術を同時に実施したり、冠動脈と大動脈の手術を並行したりするなど、複合的な手術が非常に多くなります。このような複合的な手術をいかに安全に短時間で終わらせることができるかが、今後はより重要になるでしょう。

安達先生

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