子宮脱が起こった場合、便秘や体重増加など症状を悪化させる因子を防ぐとともに、適切な治療が必要です。子宮脱の治療方法には骨盤底筋体操やペッサリー療法などがあり、症状の程度に応じて選択されます。重症になると仙骨腟固定術などの手術が適応となる場合もあります。この手術は腹腔鏡を用いて体にかかる負担を抑えながらできるようになったほか、最近ではロボット支援下でも行われるようになりました。今回は、JAとりで総合医療センター 泌尿器科 部長の川村 尚子先生に、子宮脱の予防と治療法について詳しくお話を伺いました。
特に痛みなどの症状がないからといって子宮脱を放置していると、子宮が腟から外に出たまま戻らなくなってしまいます。この病気が命に関わることはありませんが、進行すると歩行困難や、下着に擦れて出血や痛みが生じる、出たままの感覚が不快である、といったような日常生活での困り事が増えてきます。QOL(Quality of life:生活の質)を維持するためにも、放置せずに受診することをおすすめします。
子宮脱の予防や、症状を改善するために患者さん自身が日常生活でできることが大きく3つあります。体重を増やしすぎない、重すぎるものを持たない、便秘の状態でいきむような腹圧がかかる動作や習慣を控えることです。これらは治療を行う前段階に限らず、実際に治療を開始してからも気を付けることが大切です。
軽い運動は行うことが推奨されます。適度な運動は子宮脱の予防や改善につながる場合もあります。運動の中でも“骨盤底筋体操”は、骨盤臓器脱の悪化を防ぐ効果があります。
症状が軽症から中等度の患者さんには、骨盤底筋を強くする骨盤底筋体操が効果的です。悪化しなければ、少々症状があってもすぐにペッサリー療法(子宮が落ちてこないよう腟にリング状の医療機器を装着する治療法。詳細は後述)や手術をしなくても大丈夫だろう、という方に適応となります。骨盤底筋体操はあくまでも悪化を防ぐ効果を期待して行うもので、根治を目指す治療法ではありません。また、即効性があるわけではありません。治療ではなく、悪化を予防するための方法と考えていただくことが必要です。子宮脱のほか尿漏れの改善にもつながります。
基本的な骨盤底筋体操としては、腟を締める体操を行います。“腟を締める”というイメージが湧きにくいようなら、お尻の穴を締めるイメージをしてみてください。座っても、立っても、寝た状態でもできますし、お風呂の中で腟を触りながら実践する方法もあります。自分が「一番効いていそうだな」と思う、無理がない姿勢で行うのがよいといわれています。
具体的な方法としては、腟やお尻の穴を数十秒間ギュッと締めて、リラックスします。これを1日10回~20回くらい、疲れない程度に行います。締めている間も息は止めず、リラックスしてください。当院では、簡単なパンフレットも用意して骨盤底筋体操の方法をご説明しています。
骨盤底筋体操だけでは改善が難しく、症状が中~重症で手術が難しい方に対しては、ペッサリー療法が適応となります。腟の中にペッサリーというリング状の医療機器を入れて臓器を持ち上げ、体外に子宮が出てくるのを防ぎます。通常、約3か月に1回程度のペースで交換のための通院が必要ですが、指導を受ければ自分で着脱することもできます。自己着脱のメリットは、交換することでペッサリーを長期間挿入していると起こり得るトラブルを減らせる点や、性交時に自分自身で取り外しを行える点などが挙げられます。
一方でペッサリー療法には、おりものが増える、性交痛が起こる、尿漏れが起こるといったデメリットがあるほか、サイズが合わないなど体格によってはうまく装着できない方もいらっしゃいます。また、一生定期的な交換をし続けるのは難しいため、何年かペッサリー療法を行っている方の中には最終的に手術を行う方もいらっしゃいます。
ペッサリー療法を行っても子宮脱によって日常生活に支障が残る場合、手術を検討します。方法は何種類かありますが、患者さんの症状に合わせたものを選びます。ここで各手術の方法について、具体的な方法やメリット・デメリットをご紹介します。
従来から行われている手術法です。腟を切開して出ている子宮を摘出し(腟式子宮全摘術)、前後の腟壁や靱帯を切り取って縫い合わせ、緩んだ腟壁を狭くします(腟壁形成術)。手術経験があり開腹手術が難しい方や、糖尿病や自己免疫疾患など感染リスクが高い方にも適応となります。腟を切り取って縫うためお腹に傷は残りませんが、術後は腟がやや狭くなり、性交渉がしにくくなる可能性があります。
メッシュを膀胱や直腸と腟の間に入れて、緩んだ筋肉を支えて子宮が下がらないようにする方法です。英語表記を略して“TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術”とも呼ばれます。術後の痛みが少なく、術後の回復も速やかであるとされています。
しかし術後に性交痛などの合併症が起こることが報告されており、現在世界的にはあまり主流の方法ではありません。日本では、適応がある方には行われることもあります。
メッシュを用いて下がっている子宮や腟を仙骨に固定する方法です。開腹手術でも行えますが、腹腔鏡を用いる場合もあります。腟を切らずにお腹から行う手術になるため、年齢が若い方など腟を温存したい方に向いています。また、腹腔鏡を用いた場合は手術の傷跡が小さく済むメリットがあります。
開腹手術を複数回行った経験がある方の場合、腹部の組織同士で癒着(本来くっついていないところが炎症などのためにくっついてしまうこと)が発生している可能性があるため、この方法は難しいことがあります。また、当院の腹腔鏡下手術では頭の位置を25度くらい下げて行うため、眼圧が高い方や緑内障の方には基本的に適応となりません。
近年では、ロボットを用いた“ロボット支援下仙骨腟固定術”も行われています。日本では2020年4月より保険適用となったことに加え、ロボットの操作性の向上も相まって、ロボット支援下で子宮脱が手術可能となる施設は増えてきているように感じます。
当院では腹腔鏡下、ロボット支援下のどちらの方法でも対応しています。どの治療法にも適応やメリット・デメリットがありますので、自分にとって納得がいく方法を選んでいただきたいと思います。
JAとりで総合医療センター 泌尿器科 部長
川村 尚子 先生の所属医療機関
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