こつばんぞうきだつ

骨盤臓器脱

最終更新日:
2023年01月24日
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2023/01/24
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概要

骨盤臓器脱とは、子宮・膀胱・直腸といった骨盤臓器の位置が徐々に下がり、腟から体の外へと出てきてしまうことをいいます。“性器脱”と呼ばれることもあり、出産を経験したことのある方を中心に中高年の女性に起こりやすい病気の1つです。

骨盤臓器(子宮・膀胱・直腸)は骨盤底筋と呼ばれる筋肉やその周辺にある靱帯(じんたい)などによって支えられています。しかし、何らかの理由でその筋肉や靱帯が緩んでしまうと、徐々に臓器の位置が下がり、最終的に腟から体の外へと脱出してしまいます。これを“骨盤臓器脱”といいます。

骨盤臓器脱そのものが命に関わることはほとんどありませんが、臓器が体の外に出ることにより感染を引き起こしたり、下腹部の違和感などが生じ、生活に支障が出たりする可能性があります。

種類

骨盤臓器脱は脱出する臓器に応じて、以下のような種類があります。

  • 膀胱瘤……膀胱が垂れ下がり、腟から飛び出した状態
  • 直腸瘤……直腸が垂れ下がり、腟から飛び出した状態
  • 子宮脱……子宮が腟から飛び出した状態
  • 腟断端脱……子宮とつながっていた腟の断端が裏返った状態で腟から飛びだした状態。特に子宮摘出の手術を受けた方に起こり得る

単一の臓器のみが脱出していることはあまりなく、複数の臓器が併せて脱出する傾向にあります。なお、もっとも頻度が高いのは膀胱瘤といわれています。

原因

骨盤臓器脱は骨盤臓器を支える骨盤底筋などの筋肉や靱帯などが緩んでいくことによって生じます。筋肉や靱帯が緩む主な原因として、経腟分娩(出産)や加齢が挙げられます。

そのほか、慢性的な咳や便秘のある方、重たい荷物を持つ職業に就いている方、肥満体型の方も腹圧がかかりやすく、骨盤臓器脱が生じやすいといわれています。なお、出産経験のない方でも体質的に骨盤臓器脱になりやすいという方もいます。

症状

骨盤臓器脱の主な症状として、臓器の下垂症状と排尿・排便症状が挙げられます。

下垂症状

初期段階の骨盤臓器脱は無症状であることがほとんどです。しかし、進行すると下腹部や腟に何かが降りてきているような違和感が生じたり、入浴時に腟からピンポン玉のように腟壁が飛び出し、触れたりするようになってきます。これらの症状は基本的に横になって眠っているときには生じず、立って活動を開始してしばらく経過したタイミングで起こりやすいことが特徴です。

さらに進行すると、常に股の間に何かが挟まったような感覚があるほか、腟壁が常に飛び出した状態になり下着に擦れて出血するなど、歩行が困難になる方もいます。

排尿・排便症状

急に排尿したくなったり、排尿の頻度が高くなったりすることがあるほか、逆に尿が出にくくなったり、尿が残っている感じ(残尿感)がすることもあります。

いずれの場合も夜間や起きたばかりのときは排尿に関する症状を感じにくく、午後や夕方になるにつれて症状が強くなる傾向があります。重症例では、尿管が引っ張られることにより尿が腎臓などにたまる“水腎症”を引き起こすこともあります。また、直腸瘤が生じていると便秘や便が出にくくなる場合もあります。

検査・診断

骨盤臓器脱が疑われる場合、まずは問診で妊娠・出産歴やこれまでにかかったことのある病気、飲んだことのある薬、生活習慣、症状などを確認します。そのうえで内診や尿検査、画像検査などを行うことが一般的です。

内診

腟鏡という医療器具を用いて腟の内部を観察し、どの臓器の位置が下がってきているのかを確認します。また病気の重症度も確認します。

そのほか、あえて咳をしてもらったり、力んだりしてもらったりして、臓器が脱出した状態を確認します。

尿検査

骨盤臓器脱を生じると、尿がうまく排泄できなくなることにより尿路感染症を引き起こすこともあるため、尿検査を行います。加えて、排尿の勢いを調べる“尿流測定”や膀胱の中に残っている尿を調べる“残尿測定”なども検討します。

画像検査

超音波検査やMRI検査を用いて臓器の位置を確認します。そのほか、“膀胱尿道造影検査”という造影剤を使ったX線検査(レントゲン検査)を実施し、膀胱瘤の重症度を確認することもあります。

治療

骨盤臓器脱の治療方法としては、保存療法と手術療法が挙げられます。

保存療法

骨盤底筋体操

軽症で生活への支障が少ない骨盤臓器脱の場合、体操を行うことで骨盤底筋を強化し、症状の緩和を目指します。

ペッサリーリングの挿入

ペッサリーリングと呼ばれる器具を腟の中に入れることによって、骨盤臓器の脱出を防ぐ治療方法です。手術と異なり外来で治療を受けられますが、数か月おきに器具の交換が必要となるほか、腟内に炎症が生じておりものが増えたり、不正出血が生じたりする恐れがあります。

手術療法

骨盤臓器脱を根治する治療方法は手術療法で、生活に支障が生じている例や合併症のある例では手術が検討されます。手術にはさまざまな方法があり、子宮脱の場合には子宮そのものの摘出が検討されることもあるほか、膀胱瘤直腸瘤の場合には臓器を適切な位置に固定したり、腟壁を補強したり、閉鎖したりすることも検討されます。また近年は、メッシュ(網目状の膜)を体に埋め込むことで骨盤臓器脱を防ぐ治療方法も登場しています。

これらの手術治療は、開腹手術や腟から手術を行う“経腟手術”などによって行うことが一般的です。開腹手術の場合、近年はより体に負担のかかりにくい腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術(あるいはロボット支援下手術)も検討されるようになりました。

予防

骨盤臓器脱の予防方法としては、骨盤底筋体操が挙げられます。日頃から腟や肛門(こうもん)を締める体操をこまめに行うとよいとされています。

特に閉経後の女性で過去に2回以上出産の経験がある方、日頃から重いものを持つ習慣のある方は骨盤臓器脱が生じやすいため、予防を心がけることが大切です。

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骨盤臓器脱を得意な領域としている医師

  • JAとりで総合医療センター 泌尿器科 部長

    • 骨盤臓器脱
      • 手術療法
    • 腎臓がん
      • 手術療法
      • 腎温存療法
    • 尿路結石
      • 手術療法
      • 薬物療法
  • 東京女子医科大学附属足立医療センター 骨盤底機能再建診療部 教授/診療部長/泌尿器科 教授

    • 骨盤臓器脱
      • 経腟メッシュ手術(TVM手術)・ロボット支援下仙骨腟固定術などを骨盤臓器脱の部位・重症度・患者背景によって、症例にあった術式を決める。

      骨盤臓器脱には、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤、膣断端脱などがある。

    • 腹圧性尿失禁
      • 骨盤底筋訓練・薬物療法に加え、中部尿道スリング手術であるTVT手術やTOT手術でスポーツができるようになることを目指す。
    • 過活動膀胱
      • 抗コリン薬やβ₃作動薬による薬物療法を行う。内服薬で効果不十分や副作用で継続できない難治性過活動膀胱には、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を外来にて行う。
    • 間質性膀胱炎
      • 原因不明の頻尿・膀胱痛を排尿日誌や膀胱鏡で診断をつけ、経尿道的に膀胱水圧拡張術やハンナ病変を焼灼するハンナ型間質性膀胱炎手術を行う。食事療法やDMSO膀胱内注入療法も併用する。
  • 明理会東京大和病院 院長

    • 子宮内膜症
      • 患者さんの症状や挙児希望の有無に応じて、腹腔鏡手術からホルモン療法まで個別化して選択しています。特にチョコレート嚢胞に対する卵巣機能温存手術や深部病変摘出術に積極的に取り組んでいます。
    • 子宮腺筋症
      • 月経困難症、過多月経などの症状や病巣のサイズなどで、ホルモン療法や子宮全摘術、病巣除去術まで選択しています。
    • 子宮筋腫
      • 子宮全摘出術や子宮筋腫核出術を、腹腔鏡や子宮鏡などの内視鏡を用いて手術しています。特に子宮全摘出術ではロボット手術やお腹に傷が残りにくい経腟的腹腔鏡下子宮摘出術にも取り組んでいます。
    • 卵巣機能不全
      • 各種ホルモン検査、経腟超音波などを用いた正確な診断のもと、患者さんのライフステージに応じてホルモン薬を中心とした薬物療法を使い分けています。
    • 骨盤臓器脱
      • リハビリ科による骨盤底筋訓練や当科で開発した自己管理用ペッサリーなどの保存的療法から、ロボット支援下仙骨腟固定術や腹腔鏡下腟断端挙上術、全腟閉鎖術などの手術療法まで、あらゆる骨盤臓器脱に対して病態や症状に応じて治療法を提供しています。