概要
巨大リンパ管奇形とは、リンパ液で満たされた「嚢胞」と呼ばれる構造物が大きな塊を作って生じる病変のことを指します。全身どこにでも発症する可能性はありますが、首や脇の下に生じることが多いです。
特に首に生じた巨大リンパ管奇形では、美容的な観点以外にも周辺に存在する構造物を圧迫することになり、呼吸困難や嚥下障害などの生命にかかわる症状を誘発します。こうした病気は、日本においては難病指定を受けており、全国で600名ほどの患者さんがいらっしゃることが推定されています。
巨大リンパ管奇形に対する治療としては、手術的に摘出することもありますが、薬を病変部位に注入して治療する方法がとられることもあります。
原因
巨大リンパ管奇形では、リンパ液で満たされた嚢胞と呼ばれる構造物が巨大化した状態を指します。血液の流れは、動脈から毛細血管、静脈を通して全身を循環しています。一部の血液成分はこうした血流のながれる血管から染み出し、「リンパ液」として全身に存在することになります。
リンパ液中には、タンパク質やリンパ球、病原体や異物が流れています。リンパ液の流れの途中にはリンパ節が存在しており、リンパ節では病原体が捕獲され体から取り除かれることになります。全身末梢から始まったリンパ液の流れは合流を重ね、最終的には静脈管と呼ばれる部位から血液と混じることになります。
巨大リンパ管奇形とは、こうしたリンパ液の流れる「リンパ管」の一部が水風船のように袋状に膨らんでいることから発症します。水風船様の膨らみのことを「嚢胞」と呼び、大小さまざまなサイズを呈する嚢胞が塊状に集うことから巨大リンパ管奇形は発生します。
しかしながら、なぜこうした嚢胞が形成されるようになるのか、現在のところ確定的なものは同定されていません。巨大リンパ管奇形は胎児期の頃から発生することもありますが、妊娠期間中の生活スタイルや遺伝などとの関連は強くはないと考えられています。
症状
巨大リンパ管奇形は、多くの場合頚部に発生します。胎児期の頃から巨大リンパ管奇形を指摘できることもあれば、年齢を少し経てから発症することがあります。巨大リンパ管奇形の多くはお子さんにみられます。 巨大リンパ管奇形は見た目にそれと同定できるほど大きく、首を動かしたりするのに障害となることがあります。
頚部には、気道や食道といった重要な構造物が存在していますが、巨大リンパ管奇形がこうした部位に発生をすると、呼吸や飲み込みに影響を及ぼすことになります。 経過中には、嚢胞中に出血や感染症を来すこともあります。出血や感染を来すと病変部位の痛みが生じるようになり、皮膚の発赤や腫脹も強くなります。
なお、巨大リンパ管奇形は首以外にも生じることがあります。首の場合ほど症状は明らかではなく、たとえばお腹のなかであれば腹痛や嘔吐などの症状をきっかけに診断されることがあります。
検査・診断
巨大リンパ管奇形の診断は、超音波検査・CT・MRIといった画像検査が主体になります。これら画像検査は、巨大リンパ管奇形を診断すると同時に、その他の腫瘤性病変を除外することを目的とします。
またMRIでは周囲の血管、神経、気管、食道などの周辺構造物との位置関係を詳細に把握することが可能であり、その後の治療方針の決定にも大きく寄与することになります。
また画像検査以外に、嚢胞の中身がリンパ液であることを確認するために、リンパ管奇形に針を刺し内容物を採取する検査が行われることもあります。その他に、リンパ管シンチグラフィや内視鏡検査、透視検査といった検査も必要に応じて行われることがあります。
巨大リンパ管奇形の治療方法として手術が選択されることがあります。手術では病変部位を摘出することになり、摘出した組織を用いて病理学的な検査を行うこともされます。
治療
巨大リンパ管奇形の治療方法は、大きく分けて手術と硬化療法があります。手術療法では、病変部位そのものを摘出することになります。手術療法でうまくすべて切除できれば短期間のうちに治癒をすることも期待できます。しかし周囲の血管や神経、重要な構造物(気管や食道など)と複雑に絡んでいることもあり、根治が難しいこともあります。
硬化療法では、病変部位に抗悪性腫瘍剤を注入し嚢胞に炎症・癒着を促すことになります。この結果、リンパ液が貯留する空間が減ることになり、巨大リンパ管奇形が縮小します。
以上のような治療を行っても、巨大リンパ管奇形が完全に治癒しないこともあります。その場合は、ある程度の段階までで治療介入を中断することになります。感染や出血などで症状が増悪することもあるため、外傷などには注意をすることになります。
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