
赤ちゃんが生まれたとき、親御さんが真っ先に確認するのは「元気かどうか」ですが、次に確認するのは「男の子か女の子か」ではないでしょうか。ところが、およそ5,000~6,000人に1人の赤ちゃんは、外性器の特徴から男女を判別することが難しい状態で生まれることがあります。性分化疾患(DSD)について、国立成育医療研究センター 内分泌・代謝科の鹿島田健一先生にお話を伺います。
赤ちゃんのもとになる受精卵は卵子と精子からできますが、もともと男女の違いはありません。この受精卵がお母さんのお腹の中(胎内)で赤ちゃんになる間に男性女性の区別がはっきりし、性が決まります。これは主にお腹の中で浴びる男性ホルモンの量によって決まるのですが、さらには生まれた後も思春期を経て男性らしさや女性らしさを獲得していきます。この全ての過程を広く定義して「性分化」といいます。
性分化疾患(DSD:Disorder of Sex Developmentもしくは Differences in Sex Development)は、胎内での性分化が一般的な形と異なり、典型的に進まない状態を指します。
たとえば、上記の段落で述べた性分化の過程を少し狭めて「生まれるまでの性決定」と解釈した場合、生まれたときに外性器の特徴で性を判別することが難しい、もしくは生まれるまでに何らかの理由で性分化の過程がうまくいかず医療的な対応を必要とするお子さんがいらっしゃいます。また、本来の性染色体の組み合わせ(核型)とは異なる性をもって生まれてくるお子さんもいらっしゃいます。このような場合を性分化疾患(DSD)と定義しています。
多くの場合、下記のイラストのように外性器の発育が非典型的であることや、性腺(卵巣・精巣)の発生過程になんらかの問題があるという特徴を持ちます。ちなみに「非典型的」は「基準となる形(典型)から外れている状態」と考えていただくとよいでしょう。
DSDは、「インターセックス」や「半陰陽」と呼ばれた時代もありました。しかし、「性分化疾患を病気として捉えず差別意識のきっかけをつくらない」という当事者の方々の意見もあり、現在では国際的に「DSD/ Disorder of Sex Developmentもしくは Differences in Sex Development(性の発達に関連する疾患)」という言葉が使われています。
DSDでは外性器や生殖に関する問題以外は医学的に特に問題とならないことが多く、社会人として通常の生活ができる方がほとんどであると考えています。
ヒトの性は、46本ある染色体のうち、性を司る2本の性染色体の組み合わせによって決まります。性染色体の組み合わせが「X」「Y」だと男性に、「X」「X」の組み合わせだと女性になります。
性分化の過程では、まず性染色体の組み合わせに応じて「性腺」がつくられます。たとえば染色体がXYの組み合わせであれば性腺は精巣が、XXであれば卵巣がつくられます。「性腺」は、配偶子(精巣→精子・卵巣→卵子)を作ると同時に性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)を産生します。胎内では特に男性ホルモンが作用すると男性型の内性器と外性器に、男性ホルモンの作用がないと女性型の内性器と外性器に形作られます。これが性分化のしくみですが、この流れのどこかが一般的な形とは異なるために、生まれるまでに性腺や内性器と外性器の発育が非典型的になってしまうことがあります。このような現象をDSDと位置付けているのです。
ここで少しだけ、内性器、外性器の発生についてお話しします。「発生」とは、1個の受精卵から身体ができるまでの過程を指す言葉です。ここでは「内性器、外性器のつくられ方」と考えていただければと思います。
内性器とは体内にあり、外部に露出していない性器を指します。女性では腟・子宮・卵管、男性では前立腺・射精管・精嚢・精管・精巣上体などです。内性器とは逆に、外性器は体外にあらわれている性器を指します。具体的には男性では陰茎(ペニス)・陰囊、女性では陰核・陰唇(大陰唇・小陰唇)・腟前庭などです。
内性器、外性器は胎生期に形作られますが、原則としてこれらは、性腺が精巣であるかどうか、つまり精巣から分泌されるホルモンの有無で決まります。これらに卵巣から分泌される女性ホルモンは寄与しません。もう少し具体的に述べると、胎児期に精巣からは主に2つのホルモンが分泌されます。アンドロゲン(テストステロン、男性ホルモン)と抗ミュラー管ホルモンです。アンドロゲンは主に3つのはたらきをします。
また抗ミュラー管ホルモンは、ミュラー管という子宮のもととなる臓器を退縮(縮小)させます。精巣から分泌されるこれら2つのホルモンが存在しないと、逆のことが生じます。
さらに抗ミュラー管ホルモンの非存在下では、ミュラー管が発達して子宮が形成されます。これがすなわち女性型の内性器、外性器になるのです。
国立成育医療研究センター 内分泌・代謝科 診療部長
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