概要
猫ひっかき病とは、バルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)という細菌(以下、バルトネラ菌)による、ヒトと猫との間で相互に感染し得る病気です。バルトネラ菌に感染した猫に引っかかれたり咬まれたりすることでヒトに感染します。
海外の調査では、米国の猫の14〜50%がバルトネラ菌を保有しているといわれていますが、猫に症状が現れることはまれです。なお、“猫ひっかき病”という病名ですが、バルトネラ菌を保有する犬やノミから感染するケースもみられます。
猫に咬まれたり引っかかれたりしてバルトネラ菌に感染すると、傷口が3~10日以内に腫れ、2週間以内に発熱や周囲のリンパ節の腫れがみられるようになります。傷口付近のリンパ節が腫れると、圧迫されるような痛みを伴うこともあります。
治療を行わなくとも自然に軽快することが多いですが、急性脳症や心内膜炎といった合併症を引き起こし、重症化することがあります。
猫ひっかき病は世界中で発生している病気です。日本でも特に西日本の比較的暖かい地域で多い傾向があり、季節的には夏から初冬に多く報告されます。要因として、猫に付着するノミの繁殖や、外を出歩く猫同士の接触でノミが拡散されることで猫の間で広がり、ヒトに接触する機会が増えることが考えられています。
原因
猫ひっかき病は、バルトネラ菌を保有している猫に咬まれたり、引っかかれたりすることで感染します。また、傷口をなめられることでも感染する可能性があります。
猫に直接咬まれたり引っかかれたりするだけでなく、バルトネラ菌に感染した猫の血を吸ったノミに刺されて感染することもあります。飼い猫がいる場合は、定期的にノミの駆除を行うことが推奨されます。
症状
バルトネラ菌に感染後数日で傷口の腫れがみられ、周辺リンパ節の腫れ、発熱、筋肉痛、頭痛、だるさ、食欲不振などが生じることもあります。リンパ節の腫れは傷口付近に生じやすく、手に傷がある場合は腋窩(腋の下)のリンパ節が、足に傷がある場合は足の付け根のリンパ節が腫れます。
多くの場合、このような全身症状が出ても軽症で済み、無治療でも自然に回復しますが、症状が消失するまでに数週間から数か月かかることもあります。
後天性免疫不全症候群など、免疫機能が低下する病気がある人が猫ひっかき病を発症すると重症化するリスクがあります。重症化すると、急性脳症、髄膜炎、心内膜炎といった重大な合併症を引き起こし、無治療の場合、致死的になることもあります。
検査・診断
病原体検査
血液検査では、バルトネラ菌に対する抗体を測定します。リンパ節から採取した体液を用いたPCR検査も可能です。免疫機能が低下している場合や、重症化した場合には採取した血液から細菌を増殖させる培養検査を行い、菌の種類を同定することもあります。
治療
猫ひっかき病の主な治療法は抗菌薬の投与です。エリスロマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリンなどが選択されます。自然に治ることが多いため、投薬を行わないこともあります。
予防
猫ひっかき病を予防するには、猫に引っかかれるような状況をつくらないことが求められます。
猫を飼っている方は猫の感染を防ぐためになるべく家の外に出さないようにし、猫に傷を舐めさせない、猫の爪は定期的に切る、ノミは定期的に駆除するといった工夫も大切です。
もし、猫に咬まれたり引っかかれたりした場合はすぐに傷口を洗い、リンパ節の腫れや発熱、頭痛などの症状が続く場合は医療機関の受診がすすめられます。
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