甲状腺機能亢進症は悪化させれば甲状腺クリーゼを起こす可能性のある疾患です。代表的なのがバセドウ病で、患者さんの男女比は女性が男性の5倍から10倍です。しかし甲状腺クリーゼになる女性は男性の3倍から5倍以下というデータがあります。つまり男性の発症率が高いと考えられます。その理由について、和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 赤水尚史先生にお話をうかがいました。
バセドウ病の患者さんの男女比からすると、男性の方が甲状腺クリーゼの発症率は高いのは事実です。しかし、その原因はわかっていないのです。甲状腺機能亢進症などが治療されていなかったり、そのような病気のコントロールが薬の中断などで充分でなかったりするときに甲状腺クリーゼが起こりやすいことが原因として考えられます。男性の方が割と仕事が忙しいことも多く、病院に行けないという事情もあるのかもしれませんし、指示通りに薬を飲まず治療を中断してしまっているということもあるのかもしれません。
つまり、性別的な素因ゆえに発症率が高いわけではないとみられますから、きちんと通院・服薬をして病気をコントロールすれば予防できると思います。
甲状腺クリーゼは甲状腺ホルモンが過剰になって、身体がその影響に対応する限界点を越えたときにバランスが崩壊し、異常が出ます。その限界点に行くまでに発熱や頻脈などの予兆があることも多いので早めの受診は有効です。
甲状腺クリーゼになる可能性のある方は手術をしたり抜歯をしたりする前には検査を行い、甲状腺ホルモンの値が高いときは避けなければいけません。
たとえば抜歯の場合、出血を抑えるため血管を収縮させるカテコールアミン(カテコラミン)を使うことがあります。この薬には交感神経を刺激する作用があるのですが、甲状腺ホルモンと刺激しあうのでクリーゼの誘因になることがあります。
いずれにせよ、ストレスのかかるような治療をするときには甲状腺を正常値にする必要があります。
医師の注意も有効です。甲状腺クリーゼの20%は基礎的な甲状腺疾患の未治療状態で発症していますが、治療開始後1年以内にも発症は集中しています。これは治療を中断したケースが多いのです。以前は原因が感染症といわれ、治療の中断が原因として多いという指摘はされていませんでした。
こうした意味で、医師が患者さんにいかに治療を中断させないようにするかということが、予防策としてとても重要になってきます。
また患者さんが救急に運び込まれてきたとき、その患者さんに甲状腺疾患があるかどうかを診断し、甲状腺にまつわる持病を持っていた場合は、注意する必要があります。
家系的に甲状腺疾患を持っておられるケースもあるので、ご家族に患者さんがいないかどうかを確認するのも有効です。頻脈が普段から起こるバセドウ病の患者さんでも、1分間に130回までは脈を打ちません。ですから130回を超えれば甲状腺クリーゼである可能性が高いと考えられます。そのようなことが分かれば血液検査をして甲状腺クリーゼかどうかを正確に判断できるまでの時間が短縮されて、効果的な治療が選択できると思います。
医療法人神甲会 隈病院 院長
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