インタビュー

甲状腺クリーゼとはどんな病気?甲状腺中毒症をベースにした難病

甲状腺クリーゼとはどんな病気?甲状腺中毒症をベースにした難病
赤水 尚史 先生

医療法人神甲会 隈病院 院長

赤水 尚史 先生

この記事の最終更新は2016年02月25日です。

バセドウ病など、甲状腺の病気がうまくコントロールできず、さまざまな臓器に障害が起こる難病が「甲状腺クリーゼ」です。診断基準が整理されたのも最近のことで、まだまだ分からないことが多いようです。この病気について国際的にも先頭に立って解明・治療に取り組んでいる和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 赤水尚史先生に、お話をうかがいました。

甲状腺機能亢進症などの甲状腺ホルモンが過剰になる病気が治療されていなかったり、そのような病気のコントロールが薬の中断などで充分でなかったりするときに、突然さまざまな臓器に障害が起こり、生命に危険が及ぶ状態のことをいいます。「クリーゼ」はドイツ語で英語の「crisis(クライシス:危機)」と同じ意味で、つまり内分泌の異常による危機的な状況をさします。

甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症の代表例がバセドウ病です。甲状腺の腫(は)れや、動悸などが起こり、上の瞼(まぶた)が腫れる眼瞼(がんけん)腫張や瞼が上の方に引っ張られて目が大きくなったように見える眼瞼後退が起こることもあります。

参考記事:「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は女性に多い病気―概要・原因・検査

甲状腺機能亢進症など体内の甲状腺ホルモンの値が高く「甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンが増えて体重減少・全身倦怠感・手のふるえ・動悸・息切れ・脈が速くなるといったような症状が出ること)」になるベースがあり、何らかのストレスが加わった場合に起こります。また甲状腺機能亢進症ではなくても別の病気などの治療のために処方されていた甲状腺ホルモン剤が原因で甲状腺中毒症になることもあります。

甲状腺クリーゼは過剰な甲状腺ホルモンの作用に対応するための身体の仕組みが限界を越えて機能せず、緊急治療が必要となります。しかし、詳しい発症のプロセスは分かっておらず、厚生労働省には難治性疾患の一つに指定されています。

甲状腺中毒症に何らかの誘因が加わり発症するのですが、先に述べたような甲状腺の病気に直接関わりのあるケースとしては薬の不規則な服用や中止・甲状腺の手術・甲状腺ホルモン製剤の大量の服用などがあります。

一方、甲状腺に直接関係しない誘因もあります。甲状腺中毒症になるベースがある場合は、感染症・甲状腺以外の臓器手術・外傷妊娠・分娩・副腎皮質機能不全・ヨウ素系造影剤投与・脳血管障害・肺血栓・塞栓症・虚血性心疾患・抜歯・強い情動ストレスや激しい運動などにより甲状腺ホルモンが過剰になって発症することもあります。

甲状腺機能亢進症などの病気がある場合で何らかの感染症にかかって発熱したときは、それは危険のサインです。バセドウ病の場合、微熱が出ることはありますが、38度を超えることはあまりありません。バセドウ病の患者さんで、はっきりした感染症を合併していないのに38度以上の発熱がある時は、必ず医師の診断を受けてください。

また、血管や心臓などは甲状腺ホルモンの影響を受けやすい循環器です。重度の頻脈や不整脈が出てきたときは甲状腺中毒症状が重症化している可能性があるので、すぐに病院へ行きましょう。

甲状腺クリーゼは、頻脈の程度が大きく、心房細動など不整脈の合併の多いことが特徴です。心エコーや血液検査で心不全の有無や重症度▽胸部X線やCTによる心臓が大きくなる心拡大の程度▽肺に多量の水がたまる胸水や肺水腫などのチェック…が、早期発見・治療につながります。

日本での患者数に関しては2012年6月に私たちのグループ(日本甲状腺学会「甲状腺クリーゼの診断基準の作成と全国調査」班)が発表した資料があります。その中の「甲状腺クリーゼ全国疫学調査」で1463施設を対象にした第一次調査(2009年1月~6月)によると、推計患者数は04年から08年までの5年間で1283人となっています。つまり年間では257人が発症しています。1年で10万人に0.21人、全甲状腺中毒症患者では450分の1(0.22%)の発症割合になります。

実は事前の予想では年間100人以下でした。しかし、調査の前(2008年1月)に私たちのグループが診断基準(第1版)を出した以降は、医師の甲状腺クリーゼへの意識も変化したのか、診断率が上がり調査期間中も当初は100人くらいだったのが基準の公開前後を境に増えていきました。以前は診断基準も明確ではなかったのです。

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