概要
白癬は、“皮膚糸状菌”と呼ばれるカビが皮膚の表面、爪、毛などに感染することによって引き起こされる病気です。白癬は多くは同居家族から、あるいはスポーツ活動などを通じてヒトからヒトへと接触感染しますが、最近ではコンパニオンアニマル(ペット)からの感染例も知られるようになりました。
白癬は体の表面から見え、またかゆみを伴うことも多いため、“水虫”、“たむし”、“いんきんたむし”、“しらくも”など多くの呼び名がつけられ、世間で広く認知されている病気です。しかし、同じような症状でも皮膚糸状菌が原因ではない、つまり白癬でない場合もしばしばあります。したがって、視診だけでは診断の難しい病気で、診断の確定には真菌検査による菌の検出が必要です。
原因
白癬は、カビの一種である皮膚糸状菌(白癬菌)が皮膚の表面、爪、毛に感染することによって引き起こされます。
日本には10種類ほど皮膚糸状菌が存在することが分かっています。皮膚糸状菌はケラチンと呼ばれる皮膚の最外層にある頑丈なタンパク質を溶かして成長することができます。ケラチンはほかの生物にはなかなか消化できませんが、これを栄養にできるのが皮膚糸状菌の最大の特徴です。
皮膚糸状菌の感染経路は接触感染です。ヒトやペットから住環境に落ちた菌が床、足ふきマットやスリッパなどを介して主に家庭内で間接的に感染するケース、柔道などの格闘技で皮膚同士が接触する、手の白癬などから自分の体表を触って広げる、あるいはペットなどに直接接触して感染するケースが挙げられます。
症状
白癬は菌が感染する部位によって、また個人の免疫や局所の皮膚の状態によって症状が大きく異なり多彩です。
白癬の中でもっとも患者数が多いのは足白癬(いわゆる水虫)で、国民の4人に1人が足白癬であろうと推測されています。趾の間、足の裏、かかとなどに感染し、発赤、小さな水疱や角質の剥がれ、びらんが現れます。
かゆさはさまざまで悪くなるときに強いかゆみを伴う一方、まったくかゆみがない場合もあります。手にも同様に手白癬が生じることがあります。四肢から体幹、顔面に発症するものは体部白癬(いわゆるたむし)、股を中心に生じたものは股部白癬(いわゆるいんきんたむし)といいますが、赤い皮疹が輪になって周囲に広がり、真ん中はしばらくすると少し治ってくることがあります。これらはいずれも強いかゆみがあります。
頭の白癬(いわゆるしらくも)はあまりかゆみがなく、フケが出たりその部分の脱毛が生じたりします。頭では時に急に膿んできて強い痛みが出たり、頭頚部のリンパ腺が腫れて痛んだりすることがあります。
そのほか、足や手白癬から爪に広がって爪白癬になる場合があります。超高齢化の進行で爪白癬の増加が懸念されています。
爪白癬では爪が白色や黄色に濁って見えるようになります。爪白癬が進行すると、爪の厚みが増し、ぼろぼろになって崩壊していきます。爪が分厚くなると靴などに押されて痛みが出ることがあります。
検査・診断
診断を確定するには、症状が起きている部位に原因菌が存在することを証明することが必要です。そのため、皮膚科外来では皮膚表面の角質、爪、毛など白癬が疑われる部位の組織の一部を取り真菌検査を行います。組織を取るといっても、通常は病巣の上の角質を剥がしたり、毛を2~3本抜いたり爪を切ったりする程度で、出血するような検体採取ではありません。真菌検査はまず顕微鏡で観察する“直接検鏡”を行います。場合によっては培養検査を行うこともあります。
白癬が疑われてもよく似た症状を示す病気はたくさんあり、白癬の症状も多彩なため、技術力のある皮膚科専門医などを受診することが大切です。
治療
基本的に皮膚糸状菌に効果のある抗真菌薬の塗り薬を患部に適切に使用することによって改善します。足のかかとなど皮膚の角質が厚い部分に生じた場合や体の広範囲に生じて十分な外用ができない場合、爪・毛に感染した場合は塗り薬だけでは効果が不十分なことが多く、抗真菌薬の飲み薬が必要になることもしばしばです。
治療期間は症状によってさまざまです。体部白癬や股部白癬であれば塗り薬を2週間ほど使用すれば治ります。しかし、足白癬はかゆみがない部分にも菌が拡散していることが多いため、爪先から趾間、足底、かかとやアキレス腱の部分まで、最低でも4週間にわたる抗真菌薬の塗布が必要となります。量的には10gのチューブを7~10日で塗り切ることになります。足白癬を放置して爪白癬になると、内服抗真菌薬でも3~6か月、外用抗真菌薬では1年は継続する必要があります。
予防
感染予防には感染源の治療による菌量の減少がもっとも効果的です。特に足白癬は家庭内での感染が多いため、同居家族の足白癬の適切な治療が最優先になります。あわせて足ふきマットやスリッパの洗浄、床の掃除を行うことになりますが、白癬患者が菌を散布している条件下ではいくら清潔に気を付けても同居者に菌が付着することを予防することはできません。一方、病巣への抗真菌薬の外用がはじまると、散布される生きた菌の量は劇的に減少することが知られています。
そのほか、靴の着用で足の湿度が高い人に白癬の割合が高いこと、健康サンダルによる擦れがかえって白癬の治療を妨げること、角質に傷をつけると菌の侵入が早まることが知られています。足の乾燥に留意し、角質に傷をつけないフットケアの実践が大切です。
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