概要
直腸脱とは、大腸の一部である直腸が肛門から脱出してしまうことです。厳密には、直腸壁全体が肛門から脱出して外に出ている“完全直腸脱”と、直腸の粘膜だけが肛門の外に出ている“不完全直腸脱”、そして、腸重積*が生じているものの肛門からは出ていない“不顕性直腸脱”があります。単に“直腸脱”という場合、一般的に“完全直腸脱”を指します。
直腸脱は子どもから大人まで幅広い年齢で生じる可能性があります。子どもの場合は発症に男女差がほとんどありませんが、中高年以降になると女性の患者が圧倒的に多く、特に60~70歳代の女性に起こりやすいといわれています。なお、若い患者で直腸脱を発症する人は慢性的な精神疾患にかかっている場合が多いとされています。
*腸重積:腸管の一部が周辺の腸管に引き込まれるようにして重なってしまうことをいう。嘔吐や腹痛、血便などがみられる場合もある。
原因
直腸脱が生じる原因はまだはっきりと分かっていませんが、複数の異常が関係して発症すると考えられており、発症に至る経緯は患者によってさまざまです。
直腸脱が生じやすいリスク因子としては生まれつきの体の特徴のほか、若い患者では排便習慣に何らかの問題があることや、精神疾患などが挙げられます。特に排便にかかる時間が長い人や、排便の際に強くいきんでいる人は、直腸脱を起こしやすいと考えられています。一方で高齢の患者の場合は、加齢や出産により骨盤底筋が弱くなることが影響していると考えられています。
症状
直腸脱の主な症状は肛門から直腸が飛び出すことと、それに伴って肛門が閉まらなくなって便が漏れること、そして排便・排尿障害などをきたすことです。初期段階では、排便などでいきんだときに直腸が出ることが一般的で、いきむのを中止すれば直腸も元に戻ります。しかし、進行すると歩いているときや入浴中などにも直腸が飛び出すようになり、手で押し込まないと戻らなくなってしまいます。また、直腸が飛び出した状態でむくむようになると手で戻すことが難しくなり、医療機関で腰椎麻酔をかけて戻す場合もあります。この状態を嵌頓といいます。
直腸が外に飛び出すときは、肛門に痛みが生じるほか、直腸から出血が生じたり直腸とともに便や腸の粘液が出てきてしまったりすることもあるため、違和感や不快感を強く抱く人も少なくありません。また、粘液や便の漏れに伴い悪臭をきたすため、外出を控える人もいます。
そのほか、排便しようとしてもうまく便が出ず、残便感が残ったり、排尿時にも違和感を生じたりする例があります。
検査・診断
直腸脱が疑われる場合、まずは視診が検討されます。視診で直腸の脱出が確認できれば診断につながりますが、体勢などによっては脱出しないこともあるため、座った状態でいきんで直腸が出るか確認します。なお、診察でうまく直腸の脱出が確認できない場合でも、直腸が脱出したときの写真を患者自身が撮影・提供することで、診断がつくことがあります。
なお、直腸脱のように肛門から体の一部が出てきてしまう病気として、痔核が挙げられるため、両者を見分けることが大切です。また女性であれば直腸瘤、膀胱瘤、子宮脱、小腸瘤などを合併しやすいため、これらの病気を生じていないかについても確認します。
そのほか、以下のような検査が検討されることがあります。
排便造影検査
お尻から専用のバリウムを注入し、それを排泄する様子をX線で連続撮影することによって便の排泄の状況を確認する検査です。また、近年はこの検査の代わりに3D-CT検査やMRI検査を行う医療機関もあります。
肛門内圧検査
肛門に細い管を挿入し、肛門を閉じる圧力を測定する検査です。直腸脱が生じている場合、圧力が低下している傾向にあります。
大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡(いわゆる大腸カメラ)を挿入し、大腸の内部を観察する検査です。特に肛門から飛び出した直腸にびらんや発赤など、何らかの病変がみられる場合に行われることがあります。ただし、体に負担がかかりやすい検査でもあるため、患者の年齢や全身状態に応じて実施するか慎重に検討されます。
治療
直腸脱では手術治療によって直腸を縫い止めたり、メッシュを用いて固定したり、飛び出した直腸を切除したりして直腸が飛び出ないようにし、便の漏れや排便障害などの改善を目指します。
実際の術式や治療内容は、患者の全身状態や直腸脱が起こった原因、直腸脱の程度などによって異なります。大きく区分すると、陰部と肛門の間にある“会陰”から治療を行う“経会陰手術”と、開腹手術や腹腔鏡下手術などお腹から治療を行う“経腹手術”があります。
一般的に経会陰手術は腰椎麻酔や局所麻酔で行うことができるため、経腹手術の負担に耐えられない可能性のある高齢の患者や、ほかにも病気があり全身麻酔が難しい患者などに検討されます。ただし、経腹手術と比較すると再発率が高いともいわれています。経腹手術は全身麻酔で行われますが、近年腹腔鏡下手術が行えるようになったことで、より体への負担がかかりにくく、入院期間も短く済むようになってきています。
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