概要
縦隔は、左右の胸膜腔の間に存在する部位の名称であり、心臓、大血管(大動脈、肺動脈、大静脈)、食道、気道、胸腺、自律神経系とその間隙を占める結合織およびリンパ組織により構成されています。
生理的には空気が存在しない縦隔内に、空気が入り込んだ状態が縦隔気腫です。かつては縦隔内に炭酸ガス(酸素)を注入して腫瘍を造影する検査が行われたこともあります。
原因
発症の原因
縦隔の空気の由来は、頸部(咽頭、喉頭)、気管から肺門までの気管支、食道、肺組織、後腹膜腔からの場合もあります。青年期~壮年期に好発し、壮年期以降はまれです。何らかの原因による肺胞内の圧力の上昇や肺胞隔壁の炎症、線維化により肺胞を形成している肺胞隔壁の構造が破壊されることがあります。
この結果、空気が肺胞隔壁に流入し、続いて肺の周りを覆っている胸膜の下へと到達します。さらに空気は気管支に沿って縦隔内に到達して、縦隔気腫を起こします。
原因疾患
新生児では、出生時、人工蘇生、人工呼吸、小児期では、呼吸器感染症、喘息など肺胞内の圧力上昇に起因するものが多いです。成人では喘息発作時や前述したように肺胞壁に炎症や線維化を起こす間質性肺炎という状態を起こしている場合に縦隔気腫を発症することがあります。
基礎疾患を持たずに発症する特発性縦隔気腫は、何らかの原因により肺胞内圧の急激な上昇により肺胞壁が破れることで発症します。痩せ型の体型に多いとされ、先天的な要因が影響していると考えられています。胸部外傷により気管・気管支に断裂が生じたときには大量の空気が縦隔に流入して、高度の縦隔気腫を起こす場合もあります。
症状
自覚症状としては、胸痛、胸部不快感と呼吸困難が多いです。激しい咳嗽発作に引き続き、胸痛、背部痛、咽喉頭部痛、頸部痛を生じます。圧迫感、胸内苦悶、嚥下障害などが起こることがあります。
強度になれば、循環器系の障害も加わります。特に乳幼児では、胸郭外への空気の漏出の障害により空気が縦隔内にとどまり、縦隔内圧の上昇をきたし、静脈還流の障害、心拍出量の低下、循環不全を呈することがあります。
検査・診断
胸部レントゲン検査では、軽度では変化を認めないこともありますが、縦隔の拡大や上縦隔、心臓辺縁に空気層が認められます。胸部CT検査では縦隔内に空気を認めることがあります。CT検査は胸部X線検査ではっきりしない場合でも、気腫の広がりが明らかになり、基礎疾患の検討のためにも必須の検査といえます。
治療
原因疾患と重症度により治療が異なります。縦隔内の空気は増量しなければ数日で吸収されるため、空気の貯留が少ない場合は治療の必要はありません。
特発性縦隔気腫は安静のみで治癒するものが多いです。呼吸困難、胸痛の強い場合は、対症療法を行いながら、原因疾患の治療を行います。咳に対して鎮咳薬と不快、不安に対する鎮静薬投与が行われる場合もあります。縦隔気腫に伴う静脈還流障害を認める場合は、皮膚に切開を行って縦隔内の空気を排出するドレナージ治療を行います。
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