概要
肛門陰窩炎とは、肛門付近に存在する小さなくぼみに便などが詰まり、炎症が起こる病気です。別名、肛門小窩炎と呼ばれることもあります。
直腸と肛門の境目である歯状線上には、肛門陰窩と呼ばれる小さな浅いくぼみが6~11個前後存在します。肛門陰窩炎では、多くの場合、複数のくぼみに炎症が起こります。
肛門陰窩炎による代表的な症状は肛門の痛みです。また、肛門の違和感や不快感のみにとどまるケースもあります。
直腸側にできる内痔核(いぼ痔)や、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)など、他の肛門の病気を併発することもあります。
※肛門陰窩炎という病気の概念について
肛門陰窩炎を専門的に扱った研究は多くはなく、専門家の間でも疾患概念は明確に統一されていないのが現状です。
原因
肛門陰窩炎の原因は、1mmほどの浅いくぼみである肛門陰窩に便などの汚物が詰まることです。特に下痢や軟便のときなど、便が軟らかい傾向にあるときに起こりやすいといわれています。
肛門陰窩炎は、若い人から高齢者まで広い年齢層で起こりうる病気です。また、男女比は明確なデータが存在するわけではありませんが、男性に多い傾向があるといわれています。
なお、肛門陰窩からさらに奥に汚染や細菌が進入し、肛門腺という部分に感染が生じると、肛門周囲膿瘍と呼ばれる膿を持った腫れが生じることがあります。肛門陰窩炎に引き続いて肛門周囲膿瘍や痔瘻が生じることもあるため、適切な治療を受けて、感染の成立を予防することが大切です。
症状
肛門陰窩炎では、以下のような症状がみられます。
- 肛門痛
- 肛門の違和感
- 不快感
- かゆみ
- 肛門陰窩の変形
代表的な症状は肛門痛で、長時間座っているときなど、安静時にも重い痛みが続くことがあります。痛みの種類は鈍い痛み、軽い痛み、ズキズキとしみる痛みなど多様です。
診察時に肛門指診を行うと圧痛が生じたり、本来は軟らかい組織が硬くなる硬結が認められたりすることもあります。
検査・診断
肛門陰窩炎などの肛門疾患では、問診、視診、触診(肛門指診)、肛門鏡検査などが行われます。
問診
肛門痛や違和感、肛門のかゆみなどがある場合は、問診で医師に伝えましょう。痛み症状はいつ頃から始まり、どのように持続しているのか、最近の便の状態はどうか、便の色に変化はないか、といった情報も診断のために役立ちます。
視診
肉眼で肛門周囲の状態を確認する検査です。
触診・肛門指診
指を用いた診察のことです。直腸と肛門の境界線(歯状線)上を押し、圧痛が起こるかどうかを確認します。
肛門鏡による診察
肛門鏡という医療器具を使い、肛門管の中を観察する検査です。肛門陰窩炎の場合、肛門陰窩に性状より深い陥凹や変形を確認できることがあります。
治療
まず薬物療法で治癒を目指し、段階に応じて他の治療法も検討していきます。
薬物療法
炎症や痛みを抑えるために、消炎鎮痛剤が処方されます。薬のタイプは内服薬と坐薬あるいは軟膏があります。
薬剤の使用と並行して、肛門部を清潔に保つよう心がけることも重要です。
手術
炎症が複数の肛門陰窩に多発的に起きている場合や、変形・圧痛が強く、高度の炎症が起こっていると考えられる場合には手術を行うこともあります。肛門陰窩炎の手術は、局所麻酔を用いて外来で行う場合と、入院し、腰椎麻酔を用いて行う場合があります。
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