概要
肺吸虫症とは、吸虫とよばれる寄生虫が肺に侵入することで発症する病気です。
日本でみられる肺吸虫症には、ウエステルマン肺吸虫症と宮崎肺吸虫症の2つがあります。これらの肺吸虫は淡水産のカニやイノシシの肉などに寄生しており、加熱が不十分なものを食べることで感染します。治療は、寄生虫を駆除する薬物療法を行います。
衛生環境の整備が進み、日本で寄生虫に感染する事例は少なくなっていましたが、近年、食生活や海外渡航の多様化、ペットからの感染などにより増加傾向にあります。
原因
肺吸虫症は主に感染源となる食材の摂取が原因となります。
宮崎肺吸虫とウエステルマン肺吸虫は、淡水産のカニ(サワガニ、モクズガニなど)、イノシシの肉やシカの肉などに寄生しており、これらを加熱が不十分なまま食べることで感染します。感染した肺吸虫の幼虫や卵が体内で成長し、肺に病変を作ることで発症します。
症状
肺吸虫が体内に侵入し移動する際に、下痢や腹痛、発熱、蕁麻疹などの症状が現れます。進行すると、咳や胸の痛み、血痰などの症状がみられるほか、肺の一部に穴が開いて空気が漏れる“気胸”が生じたり、胸水がたまったりする場合もあります。
さらに肺吸虫が脳に移行すると、けいれん発作や視覚障害、麻痺などの症状のほか、言葉がうまく話せない・言葉を理解できないなどの症状が現れる失語症がみられることもあります。
検査・診断
肺吸虫症が疑われる場合、以下のような検査が必要になります。
画像検査
胸部X線などによる画像検査で肺の外側に水がたまっていたり(胸水)、肺がしぼんでいたり(気胸)しないかなどの異常所見を確認します。ただし、肺吸虫症に特異的な画像所見はありません。
鏡検
鏡検とは、顕微鏡を使用して、採取した検体に原因となる病原体が存在するかを確認する方法です。鏡検で痰、糞便、気管支肺胞洗浄*液の中などに肺吸虫の虫卵が確認できれば確定診断となります。
*気管支肺胞洗浄:気管支鏡を用いて肺中に生理食塩水を注入し、回収した液体を調べる検査。
血液検査
血液検査では、末梢血好酸球の増加や血清IgE値の上昇がみられます。また、血清や胸水中の抗体検査は診断の補助に有用です。
治療
抗寄生虫薬による薬物療法を行います。肺吸虫症にはプラジカンテルが第一選択薬となります。
予防
日本では寄生虫に感染する事例は少なくなっていましたが、近年、食生活の多様化などにより感染する事例が報告されています。肺吸虫症を予防するためには、サワガニやイノシシの肉、シカの肉などは中心部に火が通るよう十分に加熱して食べるようにしましょう。
また、汚染された食材を調理した器具を介して感染することもあるため、シカの肉などを調理した包丁やまな板などでそのまま生野菜などを切ったりせず、調理器具の洗浄や消毒などの対策を心がけましょう。
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