肺水腫は、「心原性肺水腫」か「非心原性肺水腫」かによって、治療方針が変わります。そのため救急の現場で、迅速かつ正確に原因の究明を行い、治療を決定することが重要です。記事2では、熊本大学医学部附属病院で行っている検査法や治療法、とくに心原性肺水腫の患者さんに対するNPPV療法について熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授の辻田賢一先生にお話を伺いました。
*肺水腫の原因や特徴的な症状、肺水腫の予防については、記事1『肺水腫の原因や症状とは?発症を予防するためにできること』をご覧ください。
呼吸困難や低酸素状態といった肺水腫が疑われる症状で来院した場合、まずは肺水腫の診断と、原因疾患の特定のために心電図検査、超音波検査、胸部レントゲン撮影など、あらゆる検査を行います。
肺水腫自体の診断においては、胸部レントゲン写真の所見で比較的容易に診断をつけることが可能です。
以下が実際の肺水腫の患者さんのレントゲン写真です。肺水腫に罹患している場合、正常の胸部レントゲンと比較して、心陰影の拡大や両側肺野の血管陰影増強がみられることが特徴です。
また肺水腫では、聴診器を当てると胸全体に「ゴロゴロ」という音がすることが特徴です。
さらに詳細な検査を行う場合には、血液ガス分析を行います。血液ガス分析では、動脈血を採取し、血液中に含まれる酸素や二酸化炭素の量などを測定します。肺水腫の患者さんの場合は血液中の酸素量が少ない「低酸素血症」が認められます。
肺水腫は、病院へ救急搬送されてきたときには緊急を要する状況であることが多いので、酸素吸入や薬物治療など、複数の治療を併用して行います。
薬物治療については、肺水腫の原因となった疾患に対する薬剤を投与する必要があり、医師には現場での迅速な原因究明が求められます。
実際には以下のような薬剤を投与します。
※利尿剤
肺胞内に貯留している水分の代謝を助けるために、排尿を促す利尿薬を投与します。利尿薬は、肺水腫の原因疾患にかかわらず幅広く使用する薬剤です。
※強心剤
心原性肺水腫の場合に、心臓の動きを助けるために使用する薬です。強心剤は記事1『肺水腫の原因や症状とは?発症を予防するためにできること』でも述べた、心臓のポンプの機能が低下している「収縮不全」の心不全には効果がありますが、高齢者に多い「拡張不全」の心不全には効果がみられません。
そのため強心薬を使用する際には、心不全の原因が「収縮不全」か「拡張不全」なのかを見極める必要があります。
※抗生物質や抗炎症薬
非心原性肺水腫の場合で、肺炎や敗血症など何らかの菌が感染したことが原因であるときに使用します。心原性肺水腫の場合も、肺炎の合併率が高いことが知られています。抗生物質を使用する際には、細菌検査などで感染している菌を特定したうえで、薬剤を選択する必要がありますが、肺水腫と肺炎の合併例などでは経験則に基づいた治療を行うこともあります。
薬物療法の他には、呼吸困難の症状を緩和させるために、酸素療法を行います。なかでも、心原性肺水腫で起こる呼吸困難の場合は「NPPV:Non-Invasive Positive Pressure Ventilation(非侵襲的陽圧換気)」が治療の第一選択となります。
NPPVは人工呼吸の一種ですが、通常の人工呼吸のように気管への挿管の必要がなく、マスクの装着だけで行うことができる非侵襲的(患者さんの肉体的負担が少ない)な人工呼吸です。
心原性肺水腫では、心機能が低下することで左室の圧力が上がります。すると肺静脈の圧力も上昇し、肺がうっ血して肺胞内に水分が溢れ出します。その水分から肺水腫をきたし、呼吸困難などの状況に陥ります。
このように、心原性肺水腫では肺静脈の圧力が上昇することで、肺胞内との圧力にアンバランスが生じます。このアンバランスによって、肺胞が虚脱(空気が抜けて潰れてしまうこと)し、水分が溢れ出てくる状態となるのです。
この圧力のアンバランスをなくすために、NPPVで気道から肺胞内に持続的に陽圧をかけます。NPPVによって血管と肺胞内の圧力の差が縮まって酸素化が改善されれば、肺胞内から水分が出てくる状況を防ぐことができるのです。
NPPVは気管挿管を行う必要がないので、それに伴う気道の損傷などの合併症を回避することができます。また、人工呼吸器関連肺炎(挿管による人工呼吸で発症することがある)のリスクを減少させられる点もメリットです。
加えて、NPPVは付け外しが簡便なマスク式のため、患者さんは非装着時、会話をしたり、食事ができたりすることも大きなメリットであると考えます。
NPPVは患者さんへの負担が少ない治療法ですが、デメリットもあります。
まずは、マスクを装着することへのストレスや不快感から、患者さんが自分でマスクを外してしまう可能性があることです。また、マスクから漏れた空気が目に当たると、結膜炎やドライアイになることもあります。
NPPVはマスクによる非侵襲的な方法であるため、NPPVで管理できる範囲には限界があります。NPPVを使用しても症状が改善しない場合は、気管挿管や気管切開を行います。
気管挿管では、口から気管内へ直接チューブを挿入して留置します。この処置によって気道が確実に確保され、酸素濃度や気道内の圧力をコントロールできます。
また、口からのチューブの挿入が難しいときには、気道とその上部の皮膚を切開して直接管を挿入する気管切開を行います。
肺水腫の治療を行ううえで大切なことは、高度な医療設備とチーム医療であると考えています。
繰り返しになりますが、肺水腫は生命の危機にかかわる疾患であり、迅速かつ高度な処置が行える医療機関で、一刻も早く治療を行うことが大切です。
さらに、肺水腫は胸水の貯留(肺の外側に水が溜まること)を合併していることがあります。その場合、肺水腫の治療に加えて、胸水を抜くためのドレナージの治療を並行して行う必要もあります。医療機器やスタッフが充実した医療機関であれば、こうしたさまざまな治療を同時に行うことができます。
熊本大学医学部附属病院では、2017年1月に心臓血管センターを立ち上げました。心臓血管センターでは、肺水腫をはじめとした重篤な疾患に対し高度で迅速な治療を行うことができる診療体制を整えています。また、臨床工学技士が24時間常駐してNPPVの調整を行うことで、NPPV療法に伴う合併症の減少に努めています。
もともと心臓の調子が悪い方や、慢性的な息苦しさが続いている方は、早期に医療機関を受診することはもちろんですが、万が一のときに備え、当院のように循環器医療が整った医療機関をあらかじめ知っておくことも重要です。
熊本大学病院 心臓血管センター長、欧州心臓病学会 (特別正会員 FESC
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