概要
一般的に、胎盤は経腟分娩後10分程度の間に娩出されることが多いのですが、30分以上経過しても出てこないと出血のリスクが上昇するため、子宮底圧迫、用手剥離などを行います。こうした処置をおこなっても胎盤が娩出されない、もしくは胎盤の一部が子宮のなかに残ってしまった状態のことを、胎盤遺残や胎盤残留と呼びます。
また胎盤遺残に近い病気として胎盤ポリープがあります。
原因
胎盤遺残は原因によって、嵌頓胎盤、付着胎盤、癒着胎盤に分類可能で、それぞれ症状や治療方法が異なります。
嵌頓胎盤
胎盤娩出前に子宮口が閉じてしまい、子宮の中に胎盤が残ってしまう状態です
付着胎盤
胎盤が単純に子宮内にとどまっていますが、用手剥離をすれば剥離可能です
癒着胎盤
胎盤の一部がもともと子宮の筋肉の中に食い込んでしまっていて、胎盤の本体が出てきた後に一部が残っている状態です
症状
胎盤遺残の主な症状は分娩後出血です。分娩後出血は、時期によって産褥早期出血(分娩後24時間以内)と産褥晩期出血(分娩後24時間以降)に分類されていて、胎盤遺残はどちらの時期にも出血の原因となり得ます。
産褥早期、晩期のいずれにおいても、生命に関わるほどの多量の出血をきたすことがあるため、血圧、脈拍、意識状態などに注意を払いながら、迅速な診断治療を行う必要があります。
検査・診断
胎盤遺残の検査方法は、産褥早期出血と産褥晩期出血で異なります。
産褥早期出血における検査
産後早期に出血が持続する場合、胎盤遺残に限らずさまざまな原因を考える必要がありますが、主に
などの可能性を考えながら検査します。これらの原因を区別するために、まずは子宮底を触診して子宮の収縮状態を評価します。
次に腟鏡診で子宮頸管や腟内に裂傷があるかどうか、流れてくる血液が凝固するかしないかなどを確認します。子宮の収縮が良好で、裂傷からの出血がなく、流出する血液がサラサラしていなければ、超音波検査を行います。超音波検査により、子宮破裂や子宮内反がなく、胎盤そのものや胎盤の一部が残っていることが疑われる場合、胎盤遺残による出血を考えます。ただし、分娩直後では子宮の中に溜まっている血液の塊との区別が難しい場合もあり、遺残している組織が大きくなければ超音波検査による胎盤遺残の診断は難しくなります。
他にも、超音波カラードップラーによる血流の評価や、娩出された胎盤に欠損がないかも含め、総合的に判断します。
産褥晩期出血における検査
胎盤遺残は産褥晩期出血の原因として重要です。
経腟超音波検査で子宮内腔に遺残組織で認めることや、超音波カラードップラーで遺残組織に豊富な血流があれば診断可能です。より正確な評価を行うためには、造影MRIが有用です。
また子宮鏡で子宮腔内を観察して診断することもあります。
治療
胎盤遺残の治療方法は複数あり、病状などに応じて適した方法が選択されます。
嵌頓胎盤の娩出
胎盤がすでに子宮筋から剥がれているにもかかわらず胎盤が娩出されない場合、子宮を圧迫しながら臍帯を牽引します。この時、無理やり臍帯を牽引すると子宮内反を起こすことがあるので注意が必要です 。
胎盤用手剥離
子宮の中まで手を挿し入れ胎盤を用手的に子宮壁から剥離する方法です。子宮の圧迫などをしても胎盤が娩出されない状況下で実施します。痛みを伴うため、鎮痛剤を投与しながら行うこともあります。
子宮内掻爬
胎盤の一部が遺残していることが疑われる場合、鉗子を用いて子宮の中に残ってしまった組織の排出を試みます。超音波検査で胎盤の位置を確認しながら行うこともあります。なお、遺残胎盤に血流が多い場合は、不用意に掻爬すると止血困難な出血を招くことがあるので、その場合は、掻爬をせず、他の方法を試みます。
子宮動脈塞栓術
これまでに述べた方法で止血ができなかった場合、下肢動脈からカテーテルを入れ、子宮へ流入する子宮動脈に塞栓物質を注入して塞いでしまうことが可能です。子宮への血流がかなり減少するため高い止血効果が期待できますが、子宮へのダメージも伴うと考えられていることから、専門施設で行うべき方法です。
子宮鏡下経頸管的切除術
産褥晩期出血のみに適応される、子宮内腔をカメラで観察しながら、遺残した組織を切除するという方法です。
術中術後の出血をコントロールするため、子宮動脈塞栓術を行った後で手術を行うこともあります。
子宮全摘術
子宮を摘出することで胎盤遺残からの出血を止めます。
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