概要
臀部の化膿性汗腺炎とは、お尻や肛門周囲の毛包に炎症が起こり、赤みや痛みを伴うしこりや皮膚の下に膿が溜まる膿瘍などの症状を繰り返す病気です。毛包とは、毛の根元にある毛根を包み込む組織で、毛を産生する役割をもっています。
この病気は化膿性汗腺炎の比較的多い型で、進行すると傷の治癒過程で皮膚が厚くなり傷あと(瘢痕)が残ったり、膿を排出するために皮膚に異常な空洞(瘻孔)が形成されたりします。一般的な化膿性汗腺炎は腋や足の付け根、乳房の下などに症状が現れますが、臀部の化膿性汗腺炎は基本的にお尻や肛門周辺にのみ症状が現れる型を指します。
この病気は男性に多くみられ、肛門周辺の皮膚に膿を排出する異常な管ができる痔瘻を合併しやすいことが知られています。
治療としては、一般の化膿性汗腺炎と同様に抗炎症作用のある抗菌薬や生物学的製剤による薬物療法のほか、患部を切開して膿を排出したり、患部を切除したりする外科的治療が実施されます。
原因
臀部の化膿性汗腺炎は、毛包の詰まり(閉塞)から始まるとされています。以前は毛包の細菌感染が主な原因と考えられていましたが、近年の研究により、生体防御システムである自然免疫の過剰な反応が関与している可能性が指摘されています。ただし、詳しいメカニズムについてはまだ明らかになっていません。
また、発症の要因は、大きく分けて遺伝的要因と環境的要因があります。遺伝的要因としては、γセクレターゼ遺伝子の変異が挙げられます。この遺伝子の異常により、皮膚の免疫反応に変化が生じることが分かっています。
環境的要因としては、喫煙と肥満が影響すると考えられています。たばこに含まれるニコチンは毛包の閉塞を引き起こしやすく、炎症反応を助長します。また、肥満は皮膚への物理的な負担を増加させるだけでなく、炎症を引き起こす物質の分泌も増やすことが報告されています。これらの要因が相互に影響し合い、発症につながると考えられています。
症状
臀部の化膿性汗腺炎は、お尻や肛門周辺に赤みを伴うしこりや膿瘍ができることで始まります。この症状は一時的なものではなく、長期間にわたって繰り返し発生し、徐々に悪化する傾向があります。
時間の経過とともに、複数のしこりが互いに融合して広範囲に広がります。病状が進行すると皮膚に瘢痕が残ったり、膿が排出される瘻孔が形成されたりすることもあります。症状が進むと、お尻の痛みにより長時間座れなくなったり、衣服に膿がついて汚れたり、膿の臭いが気になるなど、日常生活にも支障をきたすことがあります。
この病気は一過性のおでき(炎症性粉瘤)と見間違われやすく、また認知度も低いため、正しい診断がつくまでに数年かかることも少なくありません。さらに、症状の一部が有棘細胞がんなどの悪性腫瘍に進展するリスクもあるため、これらの症状が繰り返し出現したり、長期間持続したりする場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
検査・診断
臀部の化膿性汗腺炎の診断では、問診と視診が行われます。医師は診察の際、お尻や肛門周辺に特徴的な症状がみられるかを確認します。具体的には、しこりや膿瘍の有無、また進行した場合に現れる瘢痕や瘻孔の数や範囲を調べます。特に、これらの症状が半年の中で2回以上繰り返し出現している場合、臀部の化膿性汗腺炎である可能性が高いと判断されます。
治療
臀部の化膿性汗腺炎の治療は、主に薬物療法と外科的治療が行われます。どちらが優れているということはなく、患者の症状や生活スタイルに合わせて組み合わせて治療します。
薬物療法
治療の初期では抗炎症作用のある抗菌薬による治療を行います。外用薬としてクリンダマイシンを使用し、内服薬としてはクリンダマイシンやドキシサイクリンを使用します。これらの治療法で十分な効果が得られない場合には、生物学的製剤の使用を検討します。具体的には、アダリムマブやビメキズマブといった注射薬を使用して治療を行います。症状が進行すると効果が低下するため、できるだけ早く治療を開始することが重要です。
外科的治療
外科的治療では、患部を切開して膿を排出する処置や、瘻孔などの病変を外科的に切除する手術を行います。この病気は再発しやすいという特徴があるため、病変を完全に除去するために切除範囲が広範囲になることもあります。切除後は通常、皮膚を縫い合わせて傷口の治癒を待ちます。ただし、傷口が大きく単純な縫合が難しい場合には、皮膚移植を検討することもあります。
「臀部の化膿性汗腺炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします