概要
陰嚢水瘤とは、精巣を包んでいる膜の中に水がたまって陰嚢が腫れる病気のことです。
乳幼児によくみられる病気の1つであり、胎児期に精巣を包む膜がうまく形成されずに腹膜(お腹の臓器を包んでいる膜)とつながった状態になっていることが原因で発症します。発症したとしても痛みなどの症状を伴うことはなく、成長とともに精巣を包む膜と腹膜とのつながりが閉鎖されて陰嚢の腫れは改善していくことがほとんどです。しかし、3〜5歳頃になっても改善しない場合は手術が必要になることもあります。
一方、陰嚢水瘤はまれに腹膜とつながった部位から腸などが陰嚢内へ飛び出す鼠径ヘルニアを発症することもあるため注意が必要なケースもあります。
原因
陰嚢水瘤は陰嚢内に水がたまる病気のことです。
胎児期に精巣を包む膜の形成に異常が生じることが原因で発症します。精巣はお腹の中で形成され、鼠径管と呼ばれる股の組織の隙間を通って陰嚢内へ下降していきます。この際、精巣はお腹の臓器を包む腹膜と呼ばれる膜と共に陰嚢内へ下降していくため、お腹の中と陰嚢は腹膜を通してつながった状態になっています。
このように腹膜が陰嚢内へしっぽのように飛び出す部分を“腹膜鞘状突起”と呼びますが、腹膜鞘状突起は精巣を包む膜のみを残して次第に小さくなっていき、生まれる頃には消失して腹膜と陰嚢とのつながりはなくなります。
しかし、この腹膜鞘状突起が消失しない状態で生まれると、お腹の中と陰嚢がつながった状態となるため陰嚢内に水がたまって腫れを引き起こすのが陰嚢水瘤です。腹膜鞘状突起が太く開いていると腸が飛び出す鼠径ヘルニア、細く開いて腸が通ることができないくらい細いと水瘤となります。
なお、腹膜鞘状突起が消失せずに残った状態になる原因は現在のところ解明されていません。また、陰嚢水瘤は成人が発症するケースもあり、多くは原因不明とされています。
症状
陰嚢水瘤は精巣を包む膜に水がたまることで陰嚢が腫れる病気のことです。
しかし、鼠径ヘルニアや精巣上体炎などのように痛みを伴うことはなく、“腫れ”以外の症状が現れることはありません。
一方で、腹膜鞘状突起の隙間が広い場合には、その部位からお腹の中の腸や脂肪などが飛び出す鼠径ヘルニアを併発することも少なくありません。
検査・診断
陰嚢水瘤が疑われる場合は以下のような検査が行われます。
身体所見の観察
陰嚢水瘤は常に大きく腫れているので、触診でほぼ分かります。陰嚢内に水分のみが貯留するため、暗い室内で陰嚢に懐中電灯やペンライトで光を当てると赤く透けて見えるのが特徴です。
画像検査
陰嚢内に水以外の腸や脂肪などが入り込んでいないことや精巣腫瘍などがないことを確認するために超音波検査を行います。鼠径ヘルニアなど別の病気が考えられる場合はMRIなどの画像検査を行うこともあります。
治療
通常、陰嚢水瘤は特別な治療をしなくても成長とともに腹膜鞘状突起が自然に閉鎖していくことで改善していきます。しかし、3〜5歳頃になっても症状が改善しない場合や鼠径ヘルニアを合併している場合は、自然に治る見込みは低いため腹膜鞘状突起の付け根を縛ってお腹の中と陰嚢のつながりを閉鎖させる手術を行う必要があります。
また、原因がはっきり分からない成人の陰嚢水瘤に対しては陰嚢に針を刺してたまった水を抜く治療を行うことがあります。
予防
陰嚢水瘤の原因となる腹膜鞘状突起の残存が生じる明確な原因は不明であるため、現在のところ発症を予防する方法はありません。
陰嚢水瘤が精巣の発達を妨げることはないとされていますが、中には鼠径ヘルニアを合併することもあり、まれに精巣腫瘍なども考えられますので陰嚢の腫れがみられる場合は痛みなどを訴えていなくても早めに医師に相談するようにしましょう。
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