黄色靭帯骨化症とは、背骨に位置する靭帯が骨化することで、足のしびれなどの症状が現れる疾患です。黄色靭帯骨化症の根治的な治療は、現状では骨化を取り除く手術になります。東京医科歯科大学医学部附属病院の大川 淳先生は、「黄色靭帯骨化症の手術は確実性が何よりも重要である」とおっしゃいます。それは、なぜなのでしょうか。
また、今後の新たな治療法には、どのようなものが期待できるのでしょうか。今回は、同病院の大川 淳先生に黄色靭帯骨化症の手術や薬剤治療から新たな治療の可能性までお話しいただきました。
黄色靭帯骨化症の症状や診断に関しては、記事1をご覧ください。
現状では、黄色靭帯骨化症の根治的治療は、骨化を取り除く手術になります。骨化した場合、脊髄神経と密着している場合も多く、手術には慎重さが求められます。慎重に実施しなければ神経を痛め、場合によっては手術を受ける前よりも症状が悪化するケースもあるからです。
神経を傷つけた結果、後遺症として重度の神経麻痺が残る可能性は、全体の2〜3%ほどになります。このような事態を防ぐために、黄色靭帯骨化症の手術では、顕微鏡を用い細かい部分まで確認しながら、確実な施術を実施します。
黄色靭帯骨化症の手術は、一般的に3時間ほどです。入院期間は2週間ほどであることが多いでしょう。安静期間は術後の2〜3日ほどですが、手術による傷が治るまでに2週間程度を要します。背骨を切開し骨を削るため術後の約1週間は痛みがありますが、多くの方は術後1週間で歩行することが可能です。
しかし、強い麻痺がある方や歩行が困難な方であると、歩行訓練などのリハビリに1〜2か月ほどを要するケースもあります。
神経の麻痺は手術をしたからといって必ずしもすぐに回復するわけではありません。月単位で回復する場合が多く、的確なタイミングの手術が非常に重要になります。
黄色靭帯骨化症の根治的治療はお話ししたように手術になるのですが、しびれが強い場合には神経に由来する痛みを軽減する薬を適応することがあります。神経のしびれの場合、通常の痛み止めを服薬したとしても効果がありません。神経に由来するしびれ・痛みに効果がある薬を服薬する必要があります。
また、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう:加齢によって背骨の神経の通り道が自然に狭くなることによって生じる疾患)に適応されている血行を改善する薬が使われるケースもあります。血行がよくなることで神経につながる血液の流れが改善されるため、神経の状態もよくなる効果があります。
これらの薬剤による治療は、しびれや痛みをとることが目的の対処療法になります。薬剤を投与している途中でも骨化は進行するため、進行の程度を確認する定期的な検査が必要です。
靭帯が骨化しやすいかどうかは、体質が大きく影響するといわれています。そのため、手術によって骨化を取り除いたとしても、ほかの靭帯が骨化することがあります。症状が現れている場所の治療をしても5年後や10年後にほかの場所に骨化が生じるケースがあるのです。
このため、一度治療を受けたとしても年に1回は骨化がないか定期的に確認する必要があるでしょう。
黄色靭帯骨化症は、広い意味でロコモティブシンドローム(運動器の障害のために歩行など移動機能の低下をきたした状態)の一つと分類することができると考えています。
特に高齢者になると、四肢の運動機能を維持しないことで、体力は徐々に低下していきます。背骨の病気で歩けなくなり行動範囲が大幅に狭くなると、肺の疾患に罹患したり、嚥下(えんげ:食物を飲み下す働き)の問題が出たり、運動量が減少することで血圧が高くなるなどの状態に陥ることもあるでしょう。
元気に動くことができる健康寿命を維持するためには、四肢の運動機能を損なわないよう的確に対処する必要があります。
黄色靭帯骨化症であれば、手術を受けるタイミングに注意する必要があるでしょう。的確なタイミングで手術を受けることができれば神経麻痺が治るからです。
近年、主に骨粗しょう症の患者さんを対象に、骨を作る薬が登場しました。これは、服薬することで徐々に骨が増えていく薬剤です。しかし、骨を作らないようにする薬の開発は、非常に困難であるといわれており、現状では開発されていません。
2017年には、京都大学iPS細胞研究所の研究チームが、筋肉の中に骨ができる疾患であり、難病に指定されている進行性骨化性線維異形成症(FOP)の治療薬の候補を、iPS細胞を使って発見したことを発表しました。さらに、臨床試験を開始することが既に発表されています。
この取り組みによって、将来、骨を作ることを抑える薬が開発されれば、黄色靭帯骨化症への適応も期待できるのではないでしょうか。現状では、黄色靭帯骨化症では手術のみが根治的な治療になりますが、今後は、服薬すれば骨化が治まり靭帯に戻るような薬が開発されれば理想的であると考えています。
黄色靭帯骨化症の患者さんは、日常生活のなかで特に制限はありません。しかし、手術前の患者さんのなかで骨化が進行しているような方であると、転倒をきっかけに急速に症状が悪化してしまうことがあります。そのため、転倒には十分な注意が必要であるでしょう。
繰り返しになりますが、黄色靭帯骨化症は、一度診断されたら定期的な検査が重要になります。それは、治療を受け骨化がなくなったとしても、他の場所に再発する可能性があるからです。
また、治療方針や手術のタイミングを判断する専門家の存在は、重篤な状態を防ぐことにつながるでしょう。背骨の専門家とともに適切な治療を受け、健康寿命を維持していただきたいと考えています。
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