概要
濾胞性リンパ腫は、白血球の一種であるB細胞(Bリンパ球)ががん化する病気です。B細胞はリンパ節などの濾胞(袋状や球状の組織)の中にあり、通常、体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を排除する抗体を産生・分泌します。しかし、がん化した場合はリンパ節や骨髄などに異常なB細胞が増殖して、腫瘍が生じます。一般的に進行は年単位で緩やかですが、再発と寛解を繰り返すといわれています。近年、罹患数は増加傾向にあります。
濾胞性リンパ腫のうち、約90%の患者では特定の遺伝子(染色体)に異常が生じ、BCL2と呼ばれるタンパク質の過剰発現が認められるといわれています。さらに、そのほかの遺伝子異常が加わることで、発症につながると考えられています。
主な症状は痛みのないリンパ節の腫れですが、進行すると“B症状”と呼ばれる発熱や体重減少などの全身症状が現れる場合もあります。診断にはリンパ節の生検が必須です。濾胞性リンパ腫と診断された場合には、画像検査や骨髄検査などが行われ、病気の広がりの程度によって、病期(ステージ)は大きく限局期と進行期に分類されます。
治療方針はステージや症状の有無などによって、経過観察から薬物療法、放射線療法、造血幹細胞移植まで多岐にわたります。また、再発・難治例に対しては、CAR-T細胞療法や二重特異性抗体薬などの新たな治療法が登場しています。
原因
濾胞性リンパ腫の発症には、遺伝子の異常が関与していると考えられています。最も特徴的な原因は、遺伝子を構成する染色体のうち、第14番染色体と第18番染色体の一部が切断され入れ替わる“t(14;18)(q32;q21)転座”です。この転座は、日本の濾胞性リンパ腫患者の約90%に認められ、細胞死(アポトーシス)を抑制するBCL2タンパク質が過剰に発現します。その結果、がん化したB細胞が死滅せずに体内に蓄積し続け、さらに、KMT2DやCREBBP、EZH2などの遺伝子異常が加わることで濾胞性リンパ腫を発症するといわれています。
症状
初期段階の濾胞性リンパ腫では主な症状として、首、腋の下、足の付け根(鼠径部)などのリンパ節に腫れが生じますが、痛みを伴わないことが一般的です。胸腹腔内(胸・お腹の中)のリンパ節に腫れが生じた場合も、痛みは現れにくいといわれています。進行は年単位で、ゆっくりと濾胞性リンパ腫が広がっていきます。
病気が進行すると、以下のような全身症状(B症状)が現れることがあります。
B症状
- 38度以上の原因不明の発熱
- 寝具を変えるほどの大量の寝汗(盗汗)
- 半年間で10%以上の体重減少
さらに腫れが大きくなり、周囲の臓器を圧迫するとむくみや麻痺、尿が出にくくなることがあるため、治療が必要となる場合があります。また、赤血球や血小板などの産生に関わる骨髄に病変が及んだ場合は、貧血や出血傾向(血の止まりにくさ)がみられることもあります。
検査・診断
確定診断
濾胞性リンパ腫の確定診断には、腫瘍を手術で取り出し、顕微鏡で調べるリンパ節生検が行われます。顕微鏡下では、異常な細胞構造(濾胞構造)の増殖やt(14;18)(q32;q21)転座などが見られます。また、細胞の形に基づき、悪性度の低いものから順にグレード1、2、3A、3Bに分類します。特にグレード3Bは、比較的進行の速いリンパ腫として治療が必要となるため、この区別は重要とされています。
ステージ
確定診断後、濾胞性リンパ腫のステージを調べるために、主に以下の検査が行われます。ステージはアン・アーバー(Ann Arbor)分類に従って、I、II、III、IV期の4つに分けられることが一般的です。さらに、ステージI、IIはがん細胞の広がりが一部に限られているため限局期、ステージIII、IVは広範囲のため進行期とも呼ばれます。70~85%の患者は、進行期の段階で濾胞性リンパ腫と診断されるといわれています。
- 画像診断(PET-CT検査、CT検査など)……全身のリンパ節や臓器へのがん細胞の広がりを検出
- 骨髄検査……骨盤の骨(腸骨)から骨髄液や組織を採取し、骨髄へのがん細胞の広がりの有無を検査
予後予測モデル
ステージとは別に、濾胞性リンパ腫の予後を予測するため、濾胞性リンパ腫国際予後指標(FLIPI2)などが用いられることがあります。予後予測因子の1つであるβ2ミクログロブリン値とヘモグロビン値は、血液検査によって調べられます。
予後不良因子
- 年齢……61歳以上
- β2ミクログロブリン値……正常上限超え
- ヘモグロビン値……12g/dL未満
- 最大のリンパ節病変の長さ……6cm超え
- 骨髄浸潤……有
当てはまる因子が0の場合は低リスク、1または2の場合は中間リスク、3以上は高リスクに分類されます。
治療
濾胞性リンパ腫の治療方針は、ステージ、腫瘍量(腫瘍の大きさやがん細胞の多さ)、症状の有無によって決定されます。
限局期(ステージIまたはII)
病変が一部に限局している場合、主に放射線療法が推奨されていますが、進行期と同様の治療が行われることもあります。
進行期(ステージIIIまたはIV)
無症状で腫瘍量が少ない場合
直ちに治療を行わず、注意深く経過を観察する“watchful waiting”という方針が採られることがあります。治療が行われる場合は、リツキシマブ(抗CD20抗体薬)の単剤投与が選択肢となります。
症状がある、または腫瘍量が多い場合
薬物療法が標準的な治療法です。リツキシマブまたはオビヌツズマブ(抗CD20抗体薬)と、複数の細胞障害性抗がん薬(CVP療法やCHOP療法、BR療法など)を組み合わせた治療が行われます。また、再発を防ぐため、抗CD20抗体薬による維持療法が行われることもあります。
再発・難治性
再発した場合や治療効果が不十分な場合、放射線療法や抗CD20抗体薬を用いた薬物療法のほか、以下の例のようなさまざまな治療法が検討されます。
特に再発を繰り返す場合では、当初は効果の得られた治療法でも、再発後は以前と同様の治療効果が得られなくなることがあります。そのため、それまでの治療内容や、患者本人の希望、体の状態などを鑑み、治療法が選択されます。2026年時点ではCAR-T細胞療法や二重特異性抗体薬などの新たな治療法が選択肢に加わっています。
造血幹細胞移植
薬物療法後に、赤血球や白血球などに分化する前の細胞である“造血幹細胞”を静脈から投与する造血幹細胞移植が検討されることがあります。
CAR-T細胞療法
患者自身のT細胞(免疫細胞)を取り出し、がんを攻撃するように遺伝子を作り変えて戻す治療法です。複数(2種類以上)の治療法を行ったことのある患者に対して選択肢となります。
抗CD20抗体薬や細胞障害性抗がん薬以外の薬物療法の例
リツキシマブと併用して、染色体異常をもった造血幹細胞の増殖を抑える免疫調節薬(レナリドミド)が用いられることがあります。ただし、レナリドミドは胎児に影響を与える可能性があるため、妊婦は使用できません。
二重特異性抗体薬は、がん細胞とT細胞の両方に結合し、患者自身の免疫力でがんを攻撃させる薬です。2026年現在、皮下注射あるいは点滴で静脈に投与するモスネツズマブ(点滴の場合、グレード1~3Aのみ適応)と、皮下注射を行うエプコリタマブが、再発または難治性の濾胞性リンパ腫で保険適用となっています。
造血幹細胞移植やCAR-T細胞療法、二重特異性抗体薬などは治療費が高額となりますが、ひと月の医療費が上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される“高額療養費制度”という制度があります(2026年時点)。上限額は年齢や所得によって異なるため、加入している公的医療保険の窓口で確認してみましょう。
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