概要
濾胞性リンパ腫は、細菌やウイルスなどに対処する白血球の一種、リンパ球ががん化した病気です。リンパ球のなかでも、体内に侵入した病原菌を排除する抗体を作るB細胞(Bリンパ球)にがんが生じます。正常なB細胞は、骨髄で成熟し、体内で細菌などの抗原に暴露されると、リンパ節や脾臓などで抗体を産生・分泌します。また、再度同じ抗原が体内に侵入した際に、より素早く免疫反応を起こせるように、最終的にメモリーB細胞へと変化します。
しかし、このB細胞ががん化すると、リンパ球が無制限に増殖し、リンパ節やリンパ組織に腫瘍を形成します。このため、リンパ節の腫れなどが見られますが、そのほか自覚症状は乏しいことも特徴です。また、濾胞性リンパ腫は、年単位でゆっくりと進行する低悪性度のリンパ腫で、抗がん剤が効きにくいことが知られています。発生頻度の性差はなく、60歳代以降の高齢者で増加傾向にあり、子どもや若年成人での発生はまれです。
原因
bcl-2というがん遺伝子の異常により、B細胞が無秩序に増殖することで濾胞性リンパ腫が生じます。また、この根本的な原因は、いまだ解明されていません(2019年時点)。しかし、bcl-2というがん遺伝子の異常は濾胞性リンパ腫の患者さんの約80%で確認することができ、リンパ腫細胞の染色体異常との関連が示唆されています。ただし、この異常自体は健康な方の血液や、反応性に腫大したリンパ節からも見られることがあるため、更に何らかの要因が加わることが病気の発症につながると考えられています。そのうち、いくつかの危険因子として、過剰な飲酒や喫煙などの生活要因、HIV/AIDS、自己免疫性疾患、薬物投与といった免疫機構の抑制された状態との関連が考えられています。
症状
頸部、腋下、鼠径部などのリンパ節の腫れを除いて、ほとんどの場合は無症状です。そのため、病期が進行してからようやく判明する場合もあります。同じリンパ性組織である脾臓が腫大する場合もあり、その際は腹腔内での機械的な圧迫による腹部膨満感、食欲不振、便秘、排尿障害などが起こる場合があります。血液系の悪性腫瘍に特徴的な、いわゆるB症状(微熱、倦怠感、寝汗、意図しない体重減少)を診断時に生じている例もあります。
検査・診断
腫大したリンパ節を手術で切除し、それらを顕微鏡で観察し、細胞表面分子による分類などを行って診断します。濾胞性リンパ腫では、リンパ腫が体内のどの部分を侵しているかによってステージを確定し、リンパ腫が存在する組織を顕微鏡で観察してグレードをつけます。グレードは1~3の段階に加えて、3を更に3aと3bに分けて考えます。病気の進行が早く悪性度が高い場合は、中悪性度リンパ腫と同程度の治療を行うことが推奨されます。予後は、発症時のいくつかの臨床的要素、検査結果を加味したFLIPIという方法で予測をします。
治療
リンパ腫の一般的な傾向として、悪性度が低く進行が緩やかなほど治療が効きにくく根治が困難で、逆に悪性度が高いほど進行が早いものの根治できる可能性が高いと考えられます。低悪性度に分類される濾胞性リンパ腫は、無症状のことも多く、進み具合も緩やかですが、根治は望めません。しかし、病気をコントロールして、長期にわたって病気と付き合っていくことが可能な場合もあります。
治療の目的は、リンパ節、脾臓の腫大による症状の緩和と、より悪性度の高いリンパ腫への進展を防ぐことです。主な治療法は、経過観察、放射線療法、分子標的薬であるリツキシマブ単剤療法、リツキシマブ併用化学療法に分けられます。これらは、腫瘍量をひとつの判断基準とし、そのほか患者さんのもともとの健康状態や、症状の有無などを考慮し相談しながら治療方針を決定していきます。
症状がなくグレードも低い場合は経過観察となる場合があり、定期的な診察と血液検査で病気の進行具合を確認します。症状がある場合、ステージ1やステージ2では、基本的に局所的な放射線治療を行います。病変自体が大きい場合はリツキシマブ併用化学療法と放射線治療を組み合わせて行うこともあります。
ステージ3、ステージ4で症状がある場合は、リツキシマブ併用化学療法を行い、患者さんの元々の健康状態が優れない場合には、比較的副作用の少ないリツキシマブ単剤療法で治療することもあります。
治療開始後は、血液検査やPET検査などを行い、腎機能や肝機能に問題が出ていないか、治療効果がどの程度あるかを確認します。悪性腫瘍の治療は日進月歩であるため、治療方針に関しては担当医師とよく相談のうえ決定することが大切です。
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