一つひとつの治療に、患者さんにとって最善の選択肢がある

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一つひとつの治療に、患者さんにとって最善の選択肢がある

目の前の「人」に寄り添い、後進の育成にも力を注ぐ小林一樹先生のストーリー

国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 診療部長/泌尿器科部長
小林 一樹 先生

「人の役に立ちたい」という思いから、天職にたどり着いた

私が医師を志すようになったのは、高校生の頃でした。人の役に立ちたいという思いを持っていたことから、将来の夢として医師を考えたことがきっかけです。できれば医者になりたい、という漠然とした理由ではありましたが、実際に医師になってみると、幸いにもこの仕事は自分に向いていると感じました。

たとえば、夜間に緊急の呼び出しを受けて私が感じることは、頼りにしてもらえたという喜びです。それこそ医師になったばかりの頃は、病棟の看護師から呼び出されて、患者さんへの対応を頼まれるたびに、嬉しかったことを覚えています。頼られたり、感謝されたりすることが嬉しいと感じるタイプだったからこそ、医師に向いていると思えたのかもしれません。

元々、強く希望して泌尿器科医の道を選んだわけではなかったものの、大学病院に勤めた際、腎臓がんを専門とする教授のもとで学び、学位を取得したこともあって、泌尿器科こそが自分の経験をもっとも活かすことのできる分野であると考えるようになりました。泌尿器科医になってからは、腎がん、前立腺がん、膀胱がんなどの泌尿器科がんの診療に、とくに力を入れて取り組んできました。患者さんと一緒にがんと闘い、乗り越えていくことに、大きなやりがいを覚えています。

日々の診療では、目の前の患者さんにとっての最善が何か考える

私が診療するときは、主に2つのことを心がけています。ひとつは、患者さん一人ひとりに適した医療を専門家として提供すること。もうひとつは、自分や家族だったらその医療を受けたいだろうかという視点を持ち続けることです。

たとえば、若年の患者さんと高齢の患者さんでは、診療の方針が大きく異なることがあります。当科で行っている前立腺がんのロボット手術に関していえば、ご高齢で心筋梗塞を起こしたことがある患者さんの場合、手術を実施しないことも選択肢のひとつです。人生観やライフスタイルも、患者さんによって異なると思います。たとえば、5年生存率が80%の治療と50%の治療のどちらを選ぶべきか検討するとき、エビデンスレベル(科学的根拠の信頼性の度合い)では前者のほうがよいと考えられます。しかし、患者さんのなかには、5年生存率よりも体への負担のほうが気になるというような方もいらっしゃいます。病気の状態と患者さんの考えを踏まえて、どのような選択がご本人のためになるのか、診察のなかで総合的に考えるようにしています。

また、横須賀共済病院の医師のひとりとして、自分や家族が受診したいと思える病院づくりに努めています。重い病気にかかった患者さんが、病院に命を預けるかどうかを決心するとき、「その病院は一番安心できる病院なのだろうか」と、考えるものではないでしょうか。少なくとも私自身は、一番安心できる病院にかかりたいと思っています。そのため、病院や診療科の体制づくりにおいて、自分や家族がかかりたいと思えるような医療を提供できるように努めています。具体的には、治療において何らかの判断が必要になるとき、「自分だったらその治療を望むだろうか?家族だったら、どうしてほしいと思うだろうか?」という視点で考えたうえで、専門的な判断をするようにしています。

実際に、院内の先生が当科を受診して大がかりな手術を受けてくださったときは、信頼していただけたのだと思えて、嬉しかったものです。

患者さんに喜んでもらえることが私の原動力

私が手術を担当した患者さんから、「自然排尿できるように再手術を受けたい」という相談を受けたことがあります。その方は、自然排尿ができる人工膀胱増設の手術でしたが、命に関わる合併症の治療を優先したため、何とか一命はとりとめたものの、人工膀胱が使えない状態になっていました。合併症があり患者さんの希望通りの手術をするのは危険だと判断した私は、「退院後、1年間元気だったら手術を考えましょう」と伝えました。

翌年、患者さんは元気な様子で受診されましたが、私は、やはり手術はおすすめできないと伝えました。生活が不便になったとしても命には代えられないと考えていたからです。しかし、患者さんは、「自分の人生だからこれでいい。先生に命を任せる」と、きっぱりとおっしゃいました。

結局、患者さんの希望通り再手術を行いました。患者さんが高いリスクをのんでくださったからこそ実現した手術です。手術を無事に終えることができたことも幸いでしたが、とくに患者さんから、「本当に嬉しい。自然排尿できるようになってよかった」と喜んでいただけたことに、大きな達成感がありました。

泌尿器科部長として後進の育成にかける思い

若手の指導を務める立場になってから、私が持っているスキルや経験は、できるだけ若手に伝えていきたいと考えるようになりました。自分の持っているものを全部教えたい、チームとしての総合力を向上させたいという思いから、若手医師には手術の担当を積極的に任せるようにしています。たとえば、尿路結石に対する手術は、すでに私よりも高い技術を持つ若手がおり、安心して任せることができています。膀胱がんに対する膀胱全摘術のロボット手術など、より高い技術が必要になる手術については、私が手術に立ち会って教えるように努めています。

また、若手の医師には、医師として求められる一定の知識を担保するため、まずは学会に参加したり、研究成果を発表するための論文を執筆したりして、しっかりと勉強していただきたいと思っています。当科では、各医師の診療方針について尊重することを心がけており、個人の判断に任せることも多いです。私の診療方針から学ぶところがあれば取り入れて、ほかの方法が患者さんのためになると考えたときは、自信を持って検討してもらえればと思います。自分の経験だけで判断するのではなく、過去のデータをもとに冷静に判断することも大切です。

リスクの高い大掛かりな手術については、知識や技術が身につくまでには時間がかかると思いますが、若手がいち早く成長できるようにサポートしていきたいと思います。

どなたに対してもやさしい医師を目指して

私の診療の基本は、患者さん一人ひとりに対してやさしくありたいということです。たとえば、外来では、看護師の厳しい口調が聞こえてくることや、ほかの医師が淡々と患者さんに対応する様子を見かけることがありますが、本人に悪気がなくても、不快と感じる患者さんはいらっしゃるのではないでしょうか。病院は、不安な思いを抱えた患者さんが「お願いします」といって受診される特殊な環境だからこそ、医療従事者は温かい態度で接することが大切です。私は、当科の医師が配慮に欠けていると感じたら、「さっきの対応は間違っていたよ」と、できるだけ一対一で本人に伝えるようにしています。今後も泌尿器科の医師として臨床の現場に立ち続け、患者さんの気持ちに寄り添った医療を提供していきたいと思います。

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