患者さんに寄り添い回復を支える医師に

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患者さんに寄り添い回復を支える医師に

「病気が治るとはどういうことか」を問い続ける宮原 啓史先生のストーリー

千葉市立海浜病院 循環器内科 統括部長
宮原 啓史 先生

患者さんの元気な姿を取り戻せる医師に

かわいがってくれていた祖母が病気にかかることが多く「お医者さんになって診てくれたらうれしいな」という言葉を幼い頃からよく耳にしていました。身近に祖母のような病気がちの方がいたこともあり、病める方をそばで支えることができる医師になりたいと考えるようになりました。3、4歳の頃から医師になりたいと思っていたためほかの職業を考えたことがなく、初志貫徹し医師になるために勉強をしてきました。

循環器内科には、つい先ほどまで元気だったにもかかわらず体調が急変し、命の危機に瀕して救急車で運ばれて来る患者さんが多くいらっしゃいます。学生時代の実習では、そういった患者さんが治療を受けてすっかり元気に回復し、自分の足で歩いて家に帰られる姿をたくさん見てきました。そんな患者さんの姿に感銘を受けて、私もそういう治療に携わりたいと思い循環器内科を専門として選択しました。

診療科にかかわらず病院にはさまざまな病状の患者さんが来られます。治療は患者さんにとってよい結果になるときもありますし、時には期待にそぐわない結果になることもあります。一緒に治療をしていくなかではさまざまな場面がありますが、やはり患者さんやご家族に「ありがとう」と言っていただける瞬間には「医師をやっていてよかったな」ととてもうれしい気持ちになります。

“回復のお手伝い”という謙虚な姿勢で患者さんに向き合う

私は、医師は手技や手術によって患者さんの“病気を治している”のではなく“患者さんが自らの力で回復されるのを助けている”のだと考えています。手術で病気の原因になっている箇所を切除したり、カテーテル手術で詰まった血管を治療したりすることは患者さんが回復されるために必要なことですが、それらの治療によって患者さんの回復をお手伝いしているものと考えています。

私が研修医だった頃、強い治療を行ってもなかなか治療効果が出にくい患者さんがいらっしゃいました。そのような患者さんの苦しい思いを聞くのは本当にたまらなくつらいことでした。患者さんの病気を治すことはもちろん「患者さんのつらい気持ちや苦しさを何とか共有して軽くしてあげられないだろうか」と思うようになりました。

そういった経験もあり、“病気を治す”というのは単に治療を施すだけではないのではないか、“病気が治る”とは一体どのようなことなのだろう、といつも自分に問うようにしています。たとえば(しん)(きん)(こう)(そく)を患っていた患者さんが治療から20数年後に心不全を起こすことがあります。心筋梗塞は心不全の原因になり得ますから、20数年前の病気が完全に治ったと安心してはいけないと思いますし、だからこそ私たちはその時の手術がうまくいったから終わりではなくその後、患者さんにどのように寄り添っていくかを考えないといけないなと感じます。医師がしていることはあくまで患者さんを支えることですので、医師になって何年経っても謙虚な姿勢で患者さんに向かい合うことを大切にしています。

また、うまくいかなかったときにどうしてうまくいかなかったのかを振り返るだけでなく、予定どおりでも、なぜ予定どおりにいったのかを慢心せず振り返ることでよりよい診療を追求しています。

退院後の生活まで支えることもやりがいの1つ

治療の結果、患者さんが元気に回復されてお帰りになる瞬間にたくさん立ち会えることが、私を含めた医療スタッフ全員のやりがいではないかと思います。

私が医師になったのは1999年ですが、社会の高齢化に伴い当時よりも患者さんの平均年齢は上がってきています。当院には80歳代後半、時には90歳代の患者さんも受診されます。地域の医療連携の中心を担い地域医療を守る病院として患者さんの思いに寄り添って治療を行うだけではなく、退院後のご本人の身の回りのことや介護に関してもスタッフ全員で気を配りながら患者さんを支えられるところにやりがいを感じています。

医療スタッフは医師だけでなく看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリテーション技師、ソーシャルワーカーなど、さまざまなプロフェッショナルによって構成されています。循環器内科では毎朝スタッフ全員が集まって、入院患者さん全員についてカンファレンスを行い、よりよい治療方針を全員で検討しています。医師のみでなく医療スタッフ全員が患者さんにとってよりよい医療とは何か、退院後の医療や介護はどうあるべきかについて真剣に話し合っています。

当院では2020年4月から心臓血管外科の診療が開始され、循環器内科を受診される患者さんの治療の選択肢が大幅に広がりました。これまで手術が望ましい患者さんには手術が可能な病院に転院していただく必要がありましたが、現在は同じ施設内で治療を行えるようになりました。毎週定期的に循環器内科と心臓血管外科、臨床工学科などのスタッフで患者さんにとってよりよい治療方針について話し合い、方針を決定しています。このことは患者さんにとって非常にメリットが大きいのではないかと感じています。

地域の医療を守り続けるため後進の育成にも尽力

当院は地域の医療を支える病院として、これからも皆さんの健康を守っていかなくてはなりません。私は医師になって25年になりますが、自分が一線で患者さんの治療に尽力しながらも今後の地域の医療を守るためにも後進の指導に力を入れています。

循環器内科は検査や手術などに関してかなり専門的な知識や技術を必要とすることが多いため、これまでは研修医の先生方はなかなか挑戦する機会がなかった領域かと思いますが、当科では研修を希望する研修医の先生には多くの経験を積んでいただけるように、担当指導医が共に丁寧に指導を行っています。現在当科には日本循環器学会認定 循環器専門医や日本心血管インターベンション治療学会認定 心血管カテーテル治療専門医を保持している4名の医師が在籍しています(2023年3月現在)。全員がカテーテル治療などの技術を有し、ECMO(エクモ)などを必要とする重症の病状の患者さんにも対応できる体制を整えています。今後は新たに新設された集中治療科とも協力してより多くの患者さんの急性期治療が行えるような体制づくりを目指しています。日本循環器学会認定 循環器専門医や日本心血管インターベンション治療学会認定 心血管カテーテル治療専門医、日本心臓リハビリテーション学会認定 心臓リハビリテーション指導士といった資格取得を目指すことも可能であり、2025年に開院が予定されている新病院に向けてさらに多くの医師に活躍していただけることを目標に、指導・育成に努めていきたいと考えています。

私は指導の際に“患者さんに対する責任感を持つこと”の大切さを伝えることを心がけています。たとえば、心臓カテーテル治療は“うまくいったから終わり”ではありません。予定どおりにうまくいったときもその経過を丁寧に振り返って次に生かせるようにすること、治療が終わった後も“異変がないか?” と常に責任を持って患者さんを診ることの大切さを指導しています。

急性期医療に関心のある研修医の皆さんへ

当院はここ数年の間に心臓血管外科や成人先天性心疾患診療部、救急科や集中治療科、脳神経外科などの診療科が整備され、医療体制がさらに充実しました。

そんな当院のよいところは、診療科同士の垣根が低いところではないかと思います。当院には患者さんに対する適切な対応が分からないとき、困ったときに相談に乗ってくれる先輩がたくさんいます。特に循環器内科のような急性期医療を扱う診療科に研修や入職すると心配もあるかもしれませんが、頼りになる先輩方がたくさんいますので安心して研修や診療にあたっていただけると思います。

高齢化社会に伴って心不全の患者さんが増加しており、日本全体で心不全患者さんが120万人に増加すると推定されています。このため、循環器内科医は地域の病院、診療所の先生方も含め、診療科の垣根を越えて連携して心不全の患者さんを支えていくことが非常に大事な仕事になってきています。

当科では急性期医療を中心に退院後どのように自宅で過ごし治療を継続していくかという慢性期の医療まで、さまざまなフェーズの患者さんと接する機会があります。そういった幅広い診療の場面に立ち会って経験を積み、診療科の垣根を越えて多くの他科の先生方とともに診療することも大変勉強になるのではないかと感じています。

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