連載海外 新型コロナ事情

コロナ危機を脱したハワイのワクチン戦略は「物量作戦」と「明快なメッセージ」

公開日

2021年06月30日

更新日

2021年06月30日

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2021年06月30日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年06月30日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

太平洋の真ん中から見た日本とコロナの風景【前編】

新型コロナウイルス感染症の累計感染者数、死者数ともに世界最多は、2021年6月30日現在、いまだアメリカです。しかし、ワクチン接種が進むにつれて新規の感染者数、死者数ともに急速に減少し、社会も経済も活気を取り戻しつつあります。コロナに打ちひしがれたアメリカはワクチンでどう復活したのか、そして日本との違いとは――。オンラインゲーム企業「コロプラ」の元副社長で、現在はハワイ在住の投資家、千葉功太郎さんに、太平洋の真ん中ハワイから見た東の端(日本)と西の端(アメリカ)の“風景”の違いを語っていただきました。

ワクチンで変わったハワイ

新型コロナウイルス感染症の危機や不安から解放されるには、ワクチン接種以外の解が人類にはありません。「緊急事態宣言」を何回やっても、経済が疲弊するだけで何の意味もないし、繰り返して日本を弱くしても何の未来もありません。ワクチンによる集団免疫確立、それがオンリーワンの選択肢で、どうやってそれを実行できるかという話だと思います。ワクチン接種の是非についての議論はやめましょう、というのが大前提です。

ワクチンにはリスクとベネフィットがあるのはご存じのとおりです。ワクチン接種が広がった3、4月にハワイにいて感じたベネフィット感は非常に大きなものがありました。自分の体感値を表すと、2回接種率が25%を超えた時点で集団免疫を“肌感覚”で味わうようになりました。40%を超えるとかなり頑丈な感じがし、50%を超えたら「もう大丈夫じゃないだろうか」という安心感が得られました。

写真:PIXTA

アメリカのワクチン政策を子細に見ると
1.物量作戦
2.優先順位の分かりやすさ
――の2点で日本と大きな違いがあります。

徒歩10分圏内に複数の接種拠点―圧倒的物量作戦

アメリカでも1月ごろは接種率10%未満で、ほとんど進んでいませんでした。それが2月になるとブーストがかかり始め、大規模接種センターなどを作って一気に接種を進めていきました。その中でもアメリカがすごいなと感じたのは、“物量作戦”が圧倒的なことです。薬剤師が注射を打てるので、かなり早期の段階でドラッグストアでもワクチンが接種できるようになりました。ドラッグストア内のおむつ売り場の前で行列をつくって注射しているという光景もありました。さらに、大手スーパー・チェーンの店内にも医師が派遣され、打てるようになりました。

ワクチン接種ができる拠点が自宅から徒歩10分圏内に5、6カ所あるという感覚です。こうした体制を4月には作ってしまったのです。

優先順位の分かりやすさ、メッセージの明快さ

ハワイでは、ワクチンをどのような順番で打つのかということからうかがえるメッセージが明確でした。どのようなメッセージかというと▽州政府が止まったら全てが滞る▽医療を止めない▽教育は絶対に止めない▽経済の打撃を最小限にする――というものです。それを体現した接種の優先順位は、まず医療関係者と教育関係者、そして州政府や国の関係者がトップ。次にエッセンシャルワーカー。それから高齢者などハイリスクの人たちへと順に対象を拡大していきました。

日本的な感覚からすると驚くべきことでしょう。しかし、ここでは州政府や国の関係者は司令塔なのでコロナを恐れずに迅速に行動することが求められるため、最優先の一群として接種対象になりました。議員や州政府の職員なども接種を受けました。日本であれば「“上級国民”優先」と非難されるかもしれませんが、アメリカでは至極当然のこととして誰も苦情や不満を述べません。

同時に医療関係者が打つのは当然として、大学、高校、中学校、小学校、幼児教育施設の先生や職員など教育関係者が全員、医師と同列に接種を受けました。教員は職務の性質上スーパースプレッダー(通常考えられる以上の多数に感染を引き起こす人)になる可能性があるので、先手を打つという政策的判断です。

次の順位にあたるエッセンシャルワーカーは優先順位で2つのグループに分けられました。先に打つグループは、ロックダウン中でも動かなければならない職種の人たちです。その次がホテルの従業員や清掃スタッフ、スーパーのレジ打ちや品出しなどの店員ほか、エッセンシャルワーカー全体が対象になりました。グループ分けの定義を厳密にするのは不可能ですから、接種に来た人に聞いたり会社単位で申請させたりしてどんどん打っていきました。当然、該当しない人も1割ぐらいは混じっているかもしれませんが、関係なくどんどん進めていきました。

その結果、ハワイでは基幹産業である観光業の主力、レストランとホテルが非常に早い段階で営業できるようになりました。

その次に年齢順になるのですが、これも日本のようにざっくりと「65歳以上」のような分け方ではなく、きちんと上から年齢を刻んで、たとえば80歳以上からスタートし、75歳以上、70歳以上といったように対象者が数日ごとにアナウンスされるだけです。接種券を郵送するといった無駄な手間はかけません。対象を絞っているので電話がつながらないとか申し込みサイトが落ちるというような混乱も起こりません。そうしているうちに対象年齢の下がるスピードが週単位で早くなってゆき、待っている間もなく自分の番になりました。

ハワイ州の分かりやすいガイドライン

もう1つ日本との大きな違いは、アメリカでは「先の見通しが分かりやすい」ことです。日本は「緊急事態」「蔓延防止」と「制限なし」の3段階しかありません。規制に従わないと罰金が科されることはあっても逮捕されない一方で、基準はあいまい。どう頑張ってどこに到達すれば何ができるようになるのか、という目標がまったく見えません。数値で明確に区切られているわけではなく、最終的に“政治判断”で決まります。情けないぐらいに意味不明です。

アメリカは州ごとに多少の違いはありますが、シンプルで分かりやすく、恣意的判断の入り込む余地はなく自動的に上下します。ハワイでは現在、基準はTier1~5の5段階に分かれ、指標は7日間平均の新規患者数、陽性率、ワクチン2回接種率(Tier3~5)の3項目だけです。ルールは厳格で、違反した場合には逮捕されることもあります。

一方で、基準が1段階緩和されるごとに何ができるようになるかが明示され、それぞれの段階ごとに屋外、屋内で一緒に行動できる人数やスポーツ、レクリエーション、ビジネスの可否などがリスト化されています。

ハワイでは6月11日にTier3から4になり、屋外の集会は25人、屋内は10人までOK。マスクも必要なくなりました。さらにワクチン接種率が60%を超えるとTier5に移行してワクチントラベルプログラム、いわゆるワクチンパスポートの対象をアメリカ本土に拡大、70%を超えると全ての規制が撤廃されます。

アメリカは移民国家、多民族国家で、英語ができない人もたくさんいます。ですから、メッセージはビジュアルでシンプルにしないと理解してもらえません。数字とレベルと段階を最初に全部公開して、それに従って自動運用される。先の見通しとそこに至る道筋がきちんと示されているから、皆で頑張れるのです。

ワクチンを打たせたくなかった?日本のメディアと国民

アメリカから見た日本の風景は、一部のメディアと国民の心が一緒になって、ワクチンを接種させないよう頑張っているかのように見えました。特に(2021年)3~5月はそうした印象を強く受けました。

ワクチンには副反応もあるし、わずかではあっても事故が起こることもあります。それは、新型コロナワクチンに限らず、世界中のどんな種類のワクチンでも数十年の歴史を積み上げる中で起こってきたことです。新型コロナワクチンについても、これだけ大規模に接種していれば多少なりとも副反応などが起こるのは想定内のはずですが、日本のメディアはそうしたものをことさら取り上げてたたくのが好きなのだと思います。

 ◇  ◇

千葉功太郎(ちば・こうたろう)さん:千葉道場ファンド ジェネラル・パートナー/ Drone Fund 代表パートナー/ 慶應義塾大学 SFC特別招聘教授/航空パイロット

  • 株式会社コロプラの取締役副社長として、東証マザーズIPO、東証一部上場を果たし2016年に退任。
  • 国内外のインターネットやリアルテック業界でのエンジェル投資家(スタートアップ60社超、VC50社超)として活動。
  • 2017年にDRONE FUNDを設立。投資先の起業家コミュニティ「千葉道場」を運営。
  • 2019年4月、慶應義塾大学SFC の特別招聘教授に就任。
  • 2018年12月に堀江貴文氏らと共に国産旅客機「HondaJet Elite」の国内1号機を共同購入。自身でも自家用操縦士のパイロットライセンスを取得。
     

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