新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
連載海外 新型コロナ事情

新型コロナ集団免疫確立に立ちはだかる“壁” 突破にはマーケティングの発想を

公開日

2021年06月30日

更新日

2021年06月30日

更新履歴
閉じる

2021年06月30日

掲載しました。
10f10d0808

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年06月30日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

太平洋の真ん中から見た日本とコロナの風景【後編】

新型コロナワクチンの接種が進み、“コロナ以前”の生活を取り戻しつつあるアメリカでも接種率が頭打ちになっています。これは世界的な傾向で、アメリカでは“壁”を乗り越えるためにさまざまな方策が練られています。日本で同じことが起こったときに取るべき方策、そのときに備えて準備すべきことは何でしょうか。オンラインゲーム企業「コロプラ」の元副社長で、現在はハワイ在住の投資家、千葉功太郎さんに聞く日本とコロナの風景、後編は「ワクチン政策におけるマーケティングの重要性」がテーマです。

【前編】はこちら

接種率50%でブレーキがかかる理由

ワクチン接種で目指すのは、個々人の感染・発症・重症化予防にとどまらず、集団免疫(特定の集団内に免疫を持つ人が一定割合いることで集団全員が感染から守られる状態)が確立されることです。いろいろな論文があって数字も割れていますが、ワクチン接種率が70%を超えると集団免疫としてかなり安心の域に入るだろうと思います。

ただ、世界中のどこにもワクチンの2回接種率が70%を超えた国はありません。世界のトップを走っていたイスラエルも60%の手前で急減速してしまいました。アメリカも50%を超えてからブレーキがかかってしまいました。どの国もほぼ同じで、50%を超えると接種率の伸びが極端に落ちます。

なぜそうなるか。そのココロは、ざっくり言うと40%の接種反対・様子見派がいるからです。

先日、国内のとある地方自治体の市長とお話しした時に、ワクチン接種に関する市民の事前意識調査の結果を聞きました。それによると、40%の人がワクチンを打ちたくないと回答していたそうです。さまざまなメディアのワクチン情報を見て怖くなって受けたくなくなったという人も多いでしょう。この40%をもう1段分解すると、20~30%が絶対に打たないと思っている人。残り10~20%は様子を見て安全そうなら打ってもいいかなと思いつつ、ぜったいに最初には打たない層だと考えられます。海外でも同じで、だから50%を超えると急激にブレーキがかかるわけです。

日本でも、おそらく50%を超えるあたりまでは順調に接種が進むけれど、今のままではその先でいったん失速すると思います。しかし、それでは集団免疫としては心許ありません。50%の壁を打ち破り、70%以上にもっていくためには今から何をしなければならないか。ここが最大のポイントです。

欠けるマーケティング発想

ワクチンの接種率を伸ばすために必要なのは「マーケティング」です。日本政府の中ではだれも、マーケティングという「課題設定」と「タスク」のボールを持っていないように見えます。政府は、ファイザーから大量にワクチンを輸入すれば、後は全自動で接種が進むと思っているような……。「政府は仕入れと配布に責任を持ちます、自治体はロジスティクス(配布)とオペレーション(実務と接種)をしてください、それで解決」というのが、外部から垣間見える役割分担です。

しかし、マーケティングに基づいて戦略を立てなければ、あっという間に失速してしまうでしょう。

するとどうなるか。大規模接種センターの稼働率は5%ぐらいで、ワクチンを解凍したけれど人が来ないから毎日大量に廃棄、という事態が各地で多発。オリンピック・パラリンピックで医療関係者の人手が足りないのに、閑古鳥が鳴く接種センターに人が固定されて「本末転倒だよね」という話になり、メディアが「政府の失態」だとたたく7月末の近未来像が、僕の脳内では容易に想像できます。でも、そういう未来にはなってほしくありません。

日本より先にワクチン接種が始まり、この壁に突き当たったアメリカでは何をしているか。ここハワイでは、接種するとピザ1年分などが当たる宝くじがもらえるといったキャンペーンが始まっています。アメリカ本土ではもっと派手で、ワクチン宝くじで1憶円が当たったとか、別の州では1等賞金5億円の宝くじがもらえるなどのニュースも流れています。香港でも、1億5000万円相当の“億ション”が当たる抽選会などが行われています。
今、日本でこんな話をしたら笑いものでしょうが、実際にはこれだけやっても伸び悩むんです。

目標決めトップダウンで

Gotoキャンペーンに1兆円も出すのであれば、100憶円でいいのでワクチンキャンペーンを展開したほうが、よほど効果があると思います。賞品を用意するのもいいですが、知恵を使っていろいろなキャンペーンの枠組みを用意するのです。

たとえば、ワクチンパスポートを持っていれば緊急事態宣言中でも飲食店で制限なくお酒が飲めるといった、日本人が嫌いな“えこひいき”をするのでもいいでしょう。あるいは、旅行・宿泊事業者や飲食業者が相乗りできるようなプラットフォームを用意して、優先予約ができたり割引が受けられたりするのでもいい。ワクチンを打ち終わった人なので迎える地域も安心ですし、絶対に来てほしい対象ですから、少しくらい割引やサービスをしても皆にメリットがあるでしょう。

こうしたことをしても、それほどお金はかかりません。「差別だ」と反発が出るかもしれません。しかし、何が目的か、何を達成すれば日本経済を元に戻せるのか、世界経済の回復に遅れないためにはどうすべきかを考えてみてください。日本は圧倒的に、世界経済の立ち上がりに比べて遅れを取っています。ハワイではすでにすごい勢いで経済が回り、アメリカはマスクなしで日常社会活動が動き始めています。このままだと、半年後の今年が終わるころには日米経済に大きな差がついてしまうでしょう。

“日本式”の行動様式は、全員の合議制で全て調整し、玉虫色の中途半端な結論に基づいて進めていく、というのが典型だと思います。ですが、今はある意味コロナとの戦争状態と言ってもいい緊急事態で、議論や調整をしているうちに国全体が沈んでしまいます。コロナによる閉塞状況から脱するには、「ワクチン接種率70%で集団免疫を目指す」ことだけを決めたら、後はトップダウンで細かい施策を回していくだけでいい。そうすれば、日本の動き方も変わっていくと思います。

職域接種は“イノベーション”

ここまで厳しいことばかり言ってきましたが、(2021年)6月から始まった職域接種は、非常によいアイデアだと思います。これは最高のイノベーション、日本に最適な方法です。長きにわたって培ってきた「集団の中での行動力」はある種、日本人の美徳です。それを考えたとき、職域接種というのは集団免疫を獲得するための強力な武器になりえます。

最初は1000人以上の企業が対象ということになっていますが、最終的には10人程度の非常に小さなグループにまで対象を広げていってほしいと思います。イメージとしては、地域のゲートボールクラブのような小集団まで対象にします。こうした集団自体が濃厚接触者であること。そして、コミュニティーの代表者が「皆で打とう」と言えばなんとなくその気になり、個人では接種を決断できない人も接種に傾く可能性が高くなります。

写真:PIXTA

接種率が50%を超えてからさらに上を目指すには、先ほど言ったキャンペーンもやるべきですが、小規模職域接種のほうが効果は高いだろうと思います。

ワクチン・マーケティングは「ゲーミフィケーション」

これまでアメリカで見て感じたのは、メッセージ性がシンプルだということです。必要最低限の数値目標とシンプルな行動制限のリストだけ。そこに雑音は入らない。人間はたぶん、2つぐらいしか目標数字を追えないのではないかと思います。なのに日本は、仕組みも目標も複雑で、おまけに目標の数字を達成したからといって、それで必ず規制が緩和されるとは限りません。次にどこまで頑張れば何が得られるかがまったく分からない。だから、途中で息切れして“マラソン”ができないんです。

僕は以前、「コロプラ」というスマホゲームの会社で副社長として経営に携わっていました。ゲームってよくできていて、プレイヤーの目標とインセンティブとロードマップが明確なんです。「ゲーミフィケーション」という言葉があります。ゲームのデザイン要素をゲーム以外の物事に応用するという意味で、まさにワクチン接種のマーケティングはゲーミフィケーションが肝だと思います。

政治家が「集団免疫確立にゲーム理論を応用すべし」などと言ったら、おそらくバッシングを受けてしまうでしょう。けれど、そういった柔軟な発想を取り込んでいかないと、50%の壁を越えられないと思います。

職域接種とゲーミフィケーション、そしてワクチンパスポート活用の「えこひいき」を強く意識して、テンポよく施策を打っていけば、接種率で遅れている日本も、70%達成を目指して先人を追い越せるかもしれません。ぜひ、やりましょうよ。

 ◇  ◇

千葉功太郎(ちば・こうたろう)さん:千葉道場ファンド ジェネラル・パートナー/ Drone Fund 代表パートナー/ 慶應義塾大学 SFC特別招聘教授/航空パイロット

  • 株式会社コロプラの取締役副社長として、東証マザーズIPO、東証一部上場を果たし2016年に退任。
  • 国内外のインターネットやリアルテック業界でのエンジェル投資家(スタートアップ60社超、VC50社超)として活動。
  • 2017年にDRONE FUNDを設立。投資先の起業家コミュニティ「千葉道場」を運営。
  • 2019年4月、慶應義塾大学SFC の特別招聘教授に就任。
  • 2018年12月に堀江貴文氏らと共に国産旅客機「HondaJet Elite」の国内1号機を共同購入。自身でも自家用操縦士のパイロットライセンスを取得。

【前編】はこちら