連載女性医師の"仕事への思い"を全力でサポート!滋賀医大の支援策

女性医師 キャリア中断からの一線復帰を支援―プログラムに込めた思いを語る

公開日

2021年12月07日

更新日

2021年12月07日

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2021年12月07日

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「男女共同参画社会基本法」が1999年に制定されてから20年余り。医療分野でも女性医師の割合は増加し続け、現在は医学部受験者の3人に1人が女性となりました(2011~2019年データ)。ところがOECD加盟38カ国の中で、日本の女性医師の割合(20.4%)は最下位です(2015年データ)。その背景には、出産・育児とキャリア形成の時期が重なることや、いったん離職してしまうと日進月歩で進む医療現場への復帰をためらうなどの課題があるようです。そのような中、滋賀医科大学(以下、滋賀医大)は2016年に女性医師復帰支援のためのスキルズアッププログラムを開始。復帰支援希望者を診療登録医として雇用し、各人の事情に柔軟に対応する“オーダーメイド”のキャリア支援によって、多くの女性医師をサポートしてきました。2017年には内閣府の男女共同参画局「女性のチャレンジ賞特別部門賞」を受賞しています。田中俊宏病院長と尾松万里子学長補佐(滋賀医科大学 男女共同参画推進室長)に、取り組みを始めた背景や実際にプログラムを受けた医師から支持される特徴を伺いました。

※滋賀医科大学の取り組みの詳細はこちらをご覧ください。

「眠っている人材」への課題感―尾松学長補佐

特定の診療科における医師不足は、以前から社会的な課題となっていました。それに加え、本学の卒業生(女性医師、50歳代)と話す中で「同級生の女性医師のうち医療現場で働き続けている人は多くない」という話を聞き、それは非常にもったいないと感じていたのです。

また、県の医療行政担当者が集う会議でも「医療業務に従事していない女性医師の復職支援を行う必要がある」との議論がたびたび起こっていましたが、なかなか実現には至っていませんでした。そこで、滋賀医大が独自に復帰支援プログラムを構築することにし、2016年に「女性医師支援のためのスキルズアッププログラム」を開始しました。

復帰への第一歩となるような仕組みに

スキルズアッププログラムは、希望する診療科で指導医と共に医療業務を担当し、医療技術の向上を図る最大2年間の研修システムです。滋賀医大卒業生に限らず随時募集をしており、県外在住の方でも応募可能です。定員は5人ほどで、現在の応募可能枠は3人となっています(2021年10月時点)。

参加者は診療登録医として雇用され、勤務時間は週6時間以内(平日のみ、超過勤務・当直業務なし)でライフスタイルに合わせた勤務時間を設定することが可能です。また勤務外にはなりますが、希望次第で勉強のために当該診療科のカンファレンスに参加することもできます。メールアドレスが割り当てられ、図書館も自由に利用できるため、勉強できる環境も整っています。さらに、学内保育所も0歳児(生後57日目以降)から利用できます(一時保育、夜間保育、病児保育室も整備)。

このプログラムを設計した背景はいくつかありますが、たとえば一度現場を離れた医師が急にフルタイムで復帰するのはハードルが高く、超短時間勤務システムのもとで子育てなどと両立しながら柔軟に働けることが重要だと考えました。イメージとしては“ホップ・ステップ・ジャンプ”の“ホップ”に相当するような、復帰への第一歩です。実際、これだけの時短勤務(週6時間、超過勤務なし)で働ける環境は珍しく、かつ給与が支給されることは社会への参加・医師としての貢献を感じられるとても大切な要素になると考えています。

MN撮影

 

個々の事情を考慮 “オーダーメイド”な研修プログラム

2017年からスキルズアッププログラムを始動し、これまでに10人ほどが利用しました。プログラムの大きな特徴は、オーダーメイドであることです。基本の枠組みは設けつつも、それぞれの事情を考慮して新たな仕組みを追加するなどして柔軟に対応してきました。

たとえば、ある女性医師は、初期臨床研修終了後の約10年間、健康診断の仕事のみに従事してきたため医局に属した経験がなく「復帰するなら専門性を高めたいが、どの診療科で学ぶべきか分からない」と悩んでおられました。そこで3診療科を選択して1か月ずつ研修を行った後、本格的に研修を受ける科を選ぶ「プレプログラム」という仕組みを作りました。これは「ミニローテーション」という愛称で呼ばれるようになりました。

そのほかにも、週6時間勤務から急にフルタイムに移行するのはハードルが高い、あるいはもう少し長時間働きたいという声に応え、希望があれば2年間の研修のうち後半1年を週12時間以内の勤務に変更する「アドバンスコース」を作りました。“ホップ・ステップ・ジャンプ”の“ステップ”に相当するイメージです。このように個々の事情に応じた「復帰しやすい環境・仕組み」をフレキシブルに整えていくことは、将来的に相談に来られる方の受け皿を増やすことにつながるでしょう。

「キャリアを断絶しないこと」の大切さ

当初は、離職して診療の仕事をまったくしていない女性医師の復帰支援を前提にしていました。しかし、プログラムを運営していくなかで「一定の期間だけは育児などを中心に生活したいが、その間も完全に仕事を中断せずに細く長く続けられるシステム」を望んでいる女性医師が多いことを知りました。

さらに、滋賀医大附属病院の診療登録医としての身分がありますから、「キャリアが継続できる=職務履歴書に空欄をつくらないこと」以外に、プログラム参加中に専門医などの資格を取得することが可能であることにも気付きました。スキルズアッププログラムの利用者には、このように第一線で働きながらも一定期間だけは仕事量を制限しながらキャリアを継続するケースが増えてきています。このような新たな「活用方法」は、実際に利用された方々の実例によって気付いたプログラムの新たな一面です。

プログラムを上手に利用してキャリアを継続してほしい

本プログラムをスタートして2年ほどたった頃から、学内外の方に研修希望者をご紹介いただけるようになりました。これまでに本学の卒業生以外の複数の女性医師がプログラムに参加されています。「女性医師がキャリアを継続するなら滋賀医大」という私たちの思いが認知されてきたことは非常にうれしいですね。

女性医師の方々には、ぜひ本プログラムを「上手に利用」してほしいです。どのような支援を希望し、将来どのようなキャリアを思い描いているかをよく話し合い、できる限り個々のニーズに合わせた環境と仕組みを整えていきます。今後も滋賀県内、ひいては日本の医療提供体制の維持に貢献できるよう全力でサポートしていきます。

また、最近は「対象を男性医師にも広げてもらえないか」というお声をいただくようになりました。女性医師に限らずどなたでも、ご自身や家族の病気などで第一線を離脱されていた場合、復帰するときに大変な思いをされることもあるでしょう。もし実際に男性医師がご相談に来られたら、そのときに最善の支援策を模索したいと考えています。

離職中に失うのは技術ではなく「自信」―田中病院長

MN撮影

私は病院長として本プログラムを積極的に推進しています。その理由は、皆さんチャンスがあれば必ず復帰できると確信しているから。その確信を支えるのは自分自身の体験です。

私は米国に3年間留学し、帰国後初の手術で大きな不安を感じました。臨床の第一線から離れていた間に、外科医としての自信を失っていたのです。そこで手術の上手な同僚についてもらい、共に手術を担当。するとオペレーターとしての技術は思いのほかすぐに戻ってきて、無事に手術は終わりました。安心すると同時に、その時に初めて気付いたのです。「現場を離れた医師が失うのは技術ではなく、自信なのだ」と。ですから、出産や子育てなどの事情があって離職(休職)された女性医師も同じように、自信を取り戻すための研修プログラムがあれば必ず復帰できると信じています。

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