連載女性医師の"仕事への思い"を全力でサポート!滋賀医大の支援策

キャリア形成途中で離脱―女性医師が子育てからの復帰で果たしたスキルアップ

公開日

2021年12月07日

更新日

2021年12月07日

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2021年12月07日

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子育てをしながらどのようにキャリアを継続するか――。子を持つ家庭がしばしば直面する重要なテーマであり、ひいては日本の課題でもあります。それは女性医師にとっても例外ではありません。結婚や出産などのライフイベントがキャリア形成期と重なりやすく、日進月歩で進む医療の現場は一度離れると戻りにくいという課題があるのです。そこで滋賀医科大学(以下、滋賀医大)は2016年にスキルズアッププログラムを開始。個々の事情に柔軟に対応する“オーダーメイド”の復帰支援を強みに、多くの女性医師をサポートしています。同プログラムを利用して子育てを大切にしながら仕事にも復帰して医師の専門性を高めた澤田佳奈先生(JCHO*滋賀病院 乳腺外科 非常勤講師)と、指導医の梅田朋子先生にお話を伺いました。

*JCHO:地域医療機能推進機構

※プログラムの詳細と発足までの経緯についてはこちらの記事をご覧ください。

※滋賀医科大学の取り組みの詳細はこちらをご覧ください。

Q なぜ医師を志したのか? ―澤田佳奈先生

幼い頃から近所の小児科などに通い、つらいときにお医者さんに助けてもらった記憶があります。子ども心に医師という職業への憧れを抱いていました。

高校の進路選択で将来の仕事について具体的に模索し、2つのことを考えました。1つは資格を取れる仕事という点。当時は社会的に就職氷河期が問題となっていた時期で、「将来生きていくのに困らないようにしたい」と思ったのです。もう1つは、もっとも興味の強い分野が医学だったこと。6年間かけて医学を勉強し、社会に還元したいと思いました。

Q 医師のキャリアと子育てをどのように両立したか

滋賀県内で育ち進学もしていたので、将来も滋賀県で働きたいと考えていました。

2005年に滋賀医大を卒業し、2年間の初期臨床研修を行っている途中で、第1子を妊娠。研修中に一度その場を離れることになったため、どの診療科に進むかなど具体的な将来像は描けていませんでした。初めての妊娠と出産で忙しく、ほかのことを考える時間や余裕がなかったように思います。

産後はすぐに大学へ戻り、2年目の初期臨床研修を終わらせました。一般的なルートとして初期臨床研修の後は医師の専門性を高める「後期臨床研修」を行います。しかし、私の場合は後期臨床研修を行わずに子育てに専念しました。そして子どもが1歳になった頃から、近畿健康管理センターで非常勤医師として週に2~3回健康診断の対応や内科的な診察などを行っていました。当時はバスで行う巡回健診も担当していました。

MN作成

医学部卒業から現在までの大まかな流れ

Q 子育てと仕事のバランスについて

元々「自分で子育てをしてみたい」という思いがあり、フルタイムでの仕事をせずに子どもと一緒にいる時間を大切にしました。実家が近かったので、仕事のある日には母に子どもを見てもらいました。これは非常にありがたい状況だったと思います。

健康管理センターに勤めたのは「このまま家にいると外に出る機会を失いそうだ」と感じたからです。周りが皆お仕事をされているなかで、自分も働きたいという思いもありました。ですから子育てをメインにしながら、空いている時間を使って働くことにしたのです。

Q 滋賀医大のプログラムに参加したきっかけは?

2010年に第2子を出産しました。その子が1歳くらいのとき、夫の転勤に伴って滋賀県から名古屋市に拠点を移したのですが、子どもを親に預けられなくなったため、2年半ほどは仕事を控えて子育てに専念。その後、滋賀県に帰り、元々お世話になっていた近畿健康管理センターに復帰していましたが、滋賀医大の先輩にたまたまお会いする機会があり、「さらなるキャリアアップのためのお仕事があれば教えてほしい」と伝えたのです。その方から半年後くらいにスキルズアッププログラムの話を教えていただきました。

MN撮影

Q どのように仕組みを活用したのか?

梅田先生のいらっしゃる水曜日に研修を行うことにしたのですが、当時は下の子が幼稚園に通っており、しかも水曜日は午前中いっぱいしか預けられませんでした。そこで水曜日の午前中2時間だけ研修をさせてもらうことに。初めは「さすがにそこまでの短時間では難しいだろうか……」と思いつつ相談したのですが、月24時間以内なら希望に応じて設定できるとのこと。「大丈夫ですよ。それがこのプログラムのよいところでしょう」と言っていただけたおかげで、安心して研修に参加することができました。

研修では、梅田先生の外来に同席して診察を見学させていただいたり、マンモグラフィ(乳房X線検査)やエコー(超音波)検査の読影を学んだりして、多くのことを吸収させていただきました。

大学で行う研修と聞いた当初は、拘束時間が長く大変なものと予想して「自分には無理かもしれない」と少々及び腰になっていましたが、実際には非常に自由度の高いプログラムで驚きました。短時間の勤務でありながら指導医がいてくれて、自分が学びたい技術を磨くことができる、素晴らしい研修システムだと感じました。当時の私が知る限りそのような自由度の高い「学びの場」、しかも給与が支払われる環境はなかったように思います。

Q キャリア形成におけるプログラムの意義とは?

出産や育児で現場を離れた医師が、日々情報が更新される医療現場に戻って活躍するのにはまだまだハードルがあると感じています。なかには、私のようにキャリア形成の途中で休みに入る女性医師も多いでしょう。すると、専門性を高める機会を失いがちです。

しかし、私は本プログラムに出合えたことでその悩みが大いに解消されました。自分の仕事の専門性を高めたいと思い、乳がん検診に関する資格取得に挑戦することができたのです。そして研修期間中に無事、「検診マンモグラフィ読影認定医師」の資格や「乳がん検診超音波検査実施・判定医師」の資格を取得。2018年以降は乳がんに特化した検診も担当できるようになり、仕事の幅が広がるとともに、専門性が高まりました。プログラムに参加して本当によかったです。

また滋賀医大で担当した乳がんの症例報告を論文にまとめ、その後、日本乳癌学会学術総会で発表する機会を得ました。これは医師としてたいへん大きな経験となり、自信につながっています。「集大成として何か残ることをやってみたら?」と提案してくれた梅田先生と、プログラムを主導する尾松先生にはとても感謝しています。

Q 技術や知識以外に得られたものは?

プログラムに参加したことで得られたのは技術や知識にとどまりません。「人との新たなつながり」は、プログラムを通じて得られた非常に大切なものです。名古屋にいた頃は仕事をしておらず、医療者と話す機会があまりありませんでした。当時、自分だけ置いていかれたような寂しさを感じていました。しかし、プログラムに参加することでたくさんの方と話す機会が持てましたし、新たなつながりもできてとてもうれしく思っています。

指導医の梅田朋子先生より

乳がんは女性のがん罹患数1位(2018年データ)ですが、一方で乳がん検診を専門的に行う医師が不足しています。そのため、乳がん検診および検診結果に特化した医師を増やすことは、滋賀県内、ひいては日本の医療を向上させるうえで重要な課題です。澤田先生のように専門的な資格を有して活躍する医師を増やすためにも、できる限りお手伝いしたいという思いです。

本プログラムは研修期間が2年と長く、余裕を持って対応できました。また技術の習得だけでなく、医師としての視野の拡大や学術的な活動への参加にもつながる有意義なプログラムだと感じました。現在、澤田先生には月に2回JCHO滋賀病院で勤務していただいており、たいへん心強い存在となっています。今後も多くの方にプログラムを利用していただきたいです。

MN撮影

 

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