<左:カンロ株式会社 人事・総務本部 人事部長 北島恵美子さん〉
<右:カンロ株式会社 人事・総務本部 人事部 労政企画チームリーダー櫻田昌志さん>
健康経営とは、企業が従業員等の健康管理を経営的視点で考え、戦略的に取り組むことによって従業員の活力向上や生産性の向上などの組織の活性化をもたらすことによって、業績結果や株価向上につなげる経営方針のことです。
経済産業省では健康経営に関わる顕彰制度として、2016年から「健康経営優良法人認定制度」を設立しました。
この「健康経営優良法人認定制度(大規模法人部門)」に2022年から3年連続で認定されているカンロ株式会社。創業時から健康意識を持ち続ける当企業は、社員に対する治療と仕事の両立支援やメンタルヘルスケアに至るまで、多角的なアプローチで進化を続けています。具体的な施策やその効果、今後の展望などについて人事部長の北島さんと人事部労政企画チームリーダーの櫻田さんに話を伺いました。
――貴社は40年以上前に菓子食品分野で初ののど飴を発売するなど、古くからお客様の健康を意識されていたと思うのですが、社員の健康にも以前から目を向けられていたのでしょうか?
健康経営という言葉が登場する前から、お客様の健康に寄り添うとともに社員の健康も大切にするという姿勢が根付いています。人間ドックやインフルエンザ予防接種の費用を会社が負担するなど、健康を支えるさまざまな取り組みも早くから行っていました。
そうしたなか、健康経営が世の中で注目され始めたことで体制を整え、戦略を立ててしっかり取り組むようになりました。以前は個別に取り組みを行い、その効果や課題についてあまり数値化せずに進めていましたが、健康経営戦略マップおよびロードマップを作り、会社全体の体制を整えてデータの見える化を行いました。その結果、効果測定を経て課題を的確に把握できるようになっています。
――健康経営の取り組みとして、どのようなことを行っていますか?
当社は経営において社員のエンゲージメントを高めることを重要視しており、社員の心身の健康がエンゲージメントと密接につながっているという考えから、健康経営もその一環として位置づけています。
そのため、睡眠状況や喫煙の割合、朝食の欠食率、ストレス度合い、エンゲージメントの状況は全社員を対象に行っているアンケートで把握しています。ここで得られたデータをもとに健康と仕事の相関関係を分析し、具体的な対策を立てることで、エンゲージメントの向上につなげていきます。
近年注力している取り組みは、治療と仕事の両立支援です。
もともと、治療に専念しやすいように「有給休暇の積立制度」や勤続年数に応じて最長5か月間の給与保障がある「病気欠勤制度」を設けており、公的な保障である傷病手当金と合わせると約2年間の所得補償がされています。また復帰時に体調に不安がある場合は短時間勤務ができる「リハビリ勤務制度」なども設けています。さらに2024年4月には、がん治療および不妊治療を対象とした「治療休暇」を導入し、継続的な通院が必要な状況でも治療と仕事の両立がしやすいようサポートに厚みをもたせました。
治療支援ではなく、普段の健康サポートとしては、「昇降テーブル」や「バランスボール」があります。こちらは2018年2月に現在のビルに本社が移転した際に、社員の健康を考えた職場環境の整備として導入を決めました。
特に「昇降テーブル」は高さを調整できるので、自分にとって心地のよい姿勢で作業できると、社員から好評です。
健康経営を本格的に始める少し前から続けてきたこれらの取り組みが、社員の健康意識を高め、ひいてはエンゲージメントの向上にもつながっていると感じています。
――メンタルヘルス施策にも力を入れられているようですね。
コロナ禍やその後に、メンタル不調者が増えているという話も聞かれたため、メンタルヘルス対策を実施しました。
2020年から本社や支店でテレワークを導入しましたが、現在も業務に応じて柔軟に勤務場所を選択できるようにし、メンタル不調にならないような環境整備を行っています。
また、セルフケアの研修や管理職向けのセミナーを開催し、部下の変化に気付き、声かけを行うなど不調者の発生予防や早期発見について学ぶ機会を設けました。
工場勤務の社員に対しては、リアルに交流できるイベントを開催しています。創業の地であり、ひかり工場のある山口県では、スポンサーをしているJリーグのクラブである”レノファ山口FC”の冠マッチを開催し、社員やその家族を招待するなど社員同士がつながれる機会を作っています。また工場のある長野県松本市の「松本あめ市」に出展した際は、普段製造業務に専念している社員が直接お客様と接したことで貢献感を持て、モチベーション向上につながったという声が上がっていました。
――最後に、これまでの取り組みの手応えや課題、今後の展望についてお聞かせください。
最近社員から「健康経営を掲げているのだから、こういう制度も導入してほしい」という声が上がるようになったのですが、そうしたフィードバックがあることで、健康経営が社員に浸透し、期待もされているのだと感じます。
私たちは、エンゲージメント向上の取り組みを広い視野で進めることで、社員の意識とモチベーションが高まり、健康にも好影響を与えると考えています。さまざまな職種の社員が働いている当社では、1つの施策で全員に効果を出すことは難しいですが、総合的なアプローチを続けていきたいです。
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