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インタビュー

筋膜性疼痛症候群―エコーで分かった筋膜のこと

筋膜性疼痛症候群―エコーで分かった筋膜のこと
白石 吉彦 先生

隠岐島前病院 院長

白石 吉彦 先生

首や肩、足腰など特定の場所に痛みを感じている人は多くいます。しかし病院に行ってレントゲンを撮ってもらったり、場合によってはCTやMRIを撮ってもらったりしても、何の問題もみつからないことがあります

近年、今までは原因不明と言われていた痛みが、実は筋膜性疼痛症候群(きんまくせいとうつうしょうこうぐん:Myofascial Pain Syndrome : MPS)によるものであることが分かってきました。筋膜性疼痛症候群の存在自体がまだ日本ではほとんど知られていないため、正確に診断されていないことが多くあります。なぜ筋膜性疼痛症候群が見過ごされてきたのでしょうか。

CTでもMRIでも見つからなかったにもかかわらず、簡易な機器であるエコー(超音波検査)で見つかった筋膜性疼痛症候群について、隠岐島前病院院長の白石吉彦先生に詳しくお聞きしました。

筋肉を包んでいる筋膜には、今、相当注目が集まっています。しかし、今までの整形外科ではなかなか注目されてこなかったのも事実です。歴史的な背景として、整形外科学はレントゲンから発生しました。その後、CTやMRIが加わりましたが、見えていたのはやはり基本的には骨でした。精一杯努力すると、靭帯や筋肉も見えますが、筋膜に関してはほとんど見えなかったのです。

そこへエコー(超音波機器)が登場し、筋膜が見えるようになりました。実は、今から10年以上前の整形外科においても筋肉のような運動器をエコーでみるブームがあったようですが、そのころのエコーは表層に「アーチファクト」という画像上の雑音のようなものがかなり出てしまう状況でした。深さ5センチ前後のとこに関してはよく見えましたが、浅いところ、特に3センチ未満のところはよく見えない状態でした。しかし、最近登場したデジタルエコーは、コンピュータで処理ができるようになったので、アーチファクト(画面上の雑音)を飛ばして見えるようになり、様々な場所がよく見えるようになりました。

筋膜をエコーでみることで、明らかに筋膜が厚くなっていたり、靭帯が厚くなっていたりするところにピンポイントに圧痛があるケースが存在し、筋膜性疼痛症候群がわかってきたのです。

我々のようなへき地の総合診療医は、エコーがない診療所で働くことは基本的にはありません。へき地の診療所の3種の神器は「エコー、レントゲン、インターネット」です。エコーがあれば、腹部(お腹)を診ることはできますし、膀胱も診ることができます。女の人であれば卵巣や子宮だって当然診れますし、心臓を診ることもできます。表層の超音波なら甲状腺や、乳腺を診ることもできます。診るものがたまたま、肩や膝、筋肉に変わっただけの話です。

総合診療医とエコーは、極めて親和性が高いのです。今度の日本プライマリケア連合学会という大きな学会では、地域医療の中心となっている医師により、180分に及ぶ運動器エコーのワークショップを行うことになっています。

筋膜性疼痛症候群に関する知見は、いわゆる大学病院のような大病院からではなく、青森や、秋田、群馬、島根といった地域の診療所から発信されたのが面白いところです。大病院では医療資源が豊富にありますが、一方で、診療科が細かく分かれているために、セクショナリズムが進んでしまっています。見ているところをきっちり見るのはもちろん強いのですが、やはりそれでも、専門の間の谷間に落ちてしまうことがあります。筋膜性疼痛症候群は、限られた医療資源の中ですべての患者さんを診療する環境だからこそ見つかった病気なのかもしれません。

 

白石先生が編集された書籍です