MedicalNoteとは

筋膜性疼痛症候群とは―原因が分からなかった痛みの正体

    • インタビュー
    • 公開日:2015/06/01
    筋膜性疼痛症候群とは―原因が分からなかった痛みの正体

    首や肩、足腰など特定の場所に痛みを感じている人は多くいます。しかし病院に行ってレントゲンを撮ってもらったり、場合によってはCTやMRIを撮ってもらったりしても、何の問題もみつからないことがあります。

    近年、今までは原因不明と言われていた痛みが、実は筋膜性疼痛症候群(きんまくせいとうつうしょうこうぐん:Myofascial Pain Syndrome : MPS)によるものであることが分かってきました。筋膜性疼痛症候群について、隠岐島前病院院長の白石吉彦先生に詳しくお聞きしました。

    筋膜性疼痛症候群とは

    筋膜性疼痛症候群とは、筋肉と筋肉の間の膜である「筋膜」が原因となって痛みを引き起こす病気です。特に、筋膜が厚くなったり、滑りが悪くなったりすることによって引き起こされるとされています。これは長年の間、「原因不明の痛み」とされてきました。それはレントゲンで痛みの原因を発見することができないからです。しかし、その痛みの原因がエコーの発達により分かるようになってきました。(別記事参照

    例えば、いわゆるギックリ腰なども筋膜性疼痛症候群が原因であることがあります。本来であれば筋肉と筋肉の滑りは良いはずですが、それは、筋肉を包んでいる筋膜がきちんと働いているからです。しかし「すっと滑っている」はずの筋膜の滑りが悪くなることがあります。それがたまたま腰の筋肉で起きてしまうと、ギックリ腰になるのです。

    筋膜性疼痛症候群の治療

    筋膜性疼痛症候群では、厚くなったりすべりが悪くなっている筋膜をはがすための治療を行います。実は、針を筋膜の部分に刺して生理食塩水を注入するだけで、筋膜がはがれます。これは、痛み治療の名人であり、群馬県で木村ペインクリニックを開業している木村裕明先生が開発した治療です。木村先生はある時ふと、痛みのある部分に(痛み止めを入れなくても)生理食塩水を注入するだけでも痛みがとれることに気がつきました。そこで海外の論文を調べてみると、生理食塩水で筋肉痛が取れたという報告が出ていました。この論文は今から30年以上も前に出ていました。

    隠岐島前病院では今、筋膜性疼痛症候群に対して経験的に「これであれば効くのではないか」と考える治療を行っています。それは、エコーで見ながら筋膜が厚くなっている部分に対して、ピンポイントに生理食塩水を注入する方法です。また、その筋膜が厚くなっている部分は、痛みに悩まされていた部分とほぼ一致している場合もあります。

    筋膜性疼痛症候群に対して生理食塩水を注入すると、5日程は痛みがとれるようです。その5日の間が重要で、例えばストレッチをする、あるいは生活環境の中の姿勢を改める、といったことを積極的に行っていきます。一時的に痛みを和らげてあげることで今までは痛くてできなかったストレッチを5日間でしっかりやる。そうすることで筋膜の滑りがよくなり、その後に痛みが再発しないこともありえます。

    今後の課題は、我々の経験から得られたこの治療をより科学的に解釈し、どう人に伝えていくのかという点です。これについては今、試行錯誤しています。離島医療で経験的に積み上げてきた治療をどう伝えていくか、どう科学的なものにするのかというのは我々の大きな課題です。

    鍼治療の効果は筋膜性疼痛症候群を治療している?

    実は、鍼治療というものが筋膜性疼痛症候群の治療をしている可能性もあります。鍼治療において250程度存在している「経絡」のうちの8割くらいは、筋膜性疼痛症候群の「トリガーポイント」(痛みの引き金となる部位のこと)と一致しています。このことは鍼治療と筋膜性疼痛症候群が似た部位を治療していることを意味します。鍼治療を解剖学的に考えると、厚くなったり滑りが悪くなったりしている筋膜を、鍼で剥がして治療をしている可能性があるのです。

    鍼治療も筋膜性疼痛症候群も、今まではなかなか見ることができなかったので証明できませんでした。今はエコーという手段を得たことにより、筋膜が見えるようになってきて、科学的に証明できるようになりつつあります。

    白石 吉彦

    白石 吉彦先生

    隠岐島前病院 院長

    本土からフェリーで2時間半ほどかかる人口約3,200人の離島「西ノ島」は隠岐島前病院で院長を務める。「総合診療医」としてエコーを駆使し、「なんでもやる」。「病気」でなく「病人」を診ることをモットーとし、介護と医療がひとつになった地域包括ケアを実践している。東日本大震災が起きた際にはいち早く被災地において医療支援を行った。医療人としての哲学は多くの医療関係者から支持を得ており、2014年日本医師会「赤ひげ大賞」を受賞。

    関連する記事