インタビュー

エコー(超音波検査機器)がひらく整形内科の可能性―どこにでもある簡易な機器を使うこと

エコー(超音波検査機器)がひらく整形内科の可能性―どこにでもある簡易な機器を使うこと
白石 吉彦 先生

隠岐広域連合立 隠岐島前病院 院長

白石 吉彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月20日です。

白石吉彦先生は、平成10年から島根県・隠岐島にある隠岐島前病院で離島医療を守り続けています。
地域に寄り添い、あらゆる患者さんを診るうちに、次第に「腰がいたい」「肩がいたい」といった整形疾患の症状を訴える人が多いことが分かってきました。
しかし整形疾患とは言っても、そのような患者さんの大半は手術を必要としません。手術の必要がない整形疾患の患者さんと向き合うなかで必要だと考えるようになったのが「整形内科」という診療科でした。

白石吉彦先生が提唱する整形内科を可能にしてきたのが、エコー(超音波検査機器)です。運動器をエコーでみることにより、MRIのような大きな設備がなくても整形関連の診療をすることができるようになったと言います。

従来、エコーはお腹や心臓、頸の動脈などの検査に使用されてきました。特に、大きな機器を導入することの難しい離島の診療は、これまでもエコーに支えられていたのです。それがここ数年、エコーが技術的に進歩したことで、肩や腰などの、いわゆる「運動器」もエコーで見ることができるようになりました。

エコーは非常に簡易な検査機器であり、診療所やクリニックのレベルでも置いてある施設が多くあります。特に整形内科には、患部の表層をきちんと見ることのできる新しいエコーが必要です。このエコーに加え、運動器に対する解剖学の知識があれば、整形内科を始めることができます。

例えば、一般に「五十肩」と呼ばれるものがあります(医学病名では、肩関節周囲炎と呼びます)。五十肩は、エコー(超音波)を当てることで、目で確認することができます。その他、変形性肩関節症、石灰性腱炎、腱板炎、滑液包炎、筋膜性症候群など、多くの疾患が、エコーをみることで非常に簡単に診断できるのです。また診断にとどまらず、エコーを見ながらであれば、わずか0.2mmの滑液包(かつえきほう)に注射をすることも可能になります。

離島の医師は大きな機器を導入することが難しいため、もともとエコーに熟練している方が多いです。エコーに熟練している医師にとっては、エコーを使うことのできる幅が運動器にまで広がったことで、「分かりやすい、読みやすい、すぐに使える情報」を一つ多く得ることが可能になったと言えるのです。

もちろんエコーを使ったからといって、すべての整形疾患の治療が可能になるわけではありません。たとえば、注射を打っても効かない場合には、痛みは別の場所から来ていることが推測できます。このようなときの治療は、リハビリや手術など、次の段階へと進むことになります。

例えば、肩のすべりは良くなったけれども筋肉に痛みが残るというような場合は、リハビリをすることもあります。その際にはリハビリを専門とする理学療法士、鍼灸師との連携が必要です。注射もリハビリも効果がないとき(あるいはできないとき)、つまりどうしても手術が必要なときには整形外科医に紹介をします。

医療者側が治療の方法論を持っていなければ、困っている人が来たときに痛み止めと湿布を処方して終わってしまいます。しかし、整形内科としての知識を持ち、エコーを使いこなすことができれば、整形外科でなくとも、十分に整形関連の疾患を診療することができます。

とはいえ、エコーで運動器をみることができるようになったのは最近のことなので、医療現場の知識も、教材もまだ追いついていないのが現状です。2010年にやっと、城東整形外科の皆川先生が書かれた、運動器をみるための超音波の教科書が出版されました。今後、運動器をエコーで診察することが一般的になれば、整形内科はもっと進歩していくでしょう。

白石先生が編集された書籍です