出生前診断のなかでも、特に社会的関心が集まっている検査のひとつに「NIPT」があります。近年多くメディアで取り上げられるこの言葉、聞いたことのある方は多いかもしれません。しかし、その詳細や意義について熟知している方は少ないのではないでしょうか。この「NIPT」について説明していきます。
「NIPT」とは、無侵襲的出生前遺伝学的検査(Noninvasive prenatal genetic testing)の略称です。
これまで、赤ちゃんの染色体異常を調べるためには「絨毛検査」や「羊水検査」のように直接赤ちゃんの細胞を採取するしか方法がありませんでした。しかし最近になって、実は赤ちゃんの染色体がかけらになってお母さんの血液中に流れていることがわかるようになりました。この染色体のかけらのことをcell free DNAといいます。通常、染色体は細胞の中に存在しますが、cell free DNAは細胞の中にはなく、そのままお母さんの血液中を巡っています。
「次世代シークエンサー」という機械を使って、お母さんの血液中にあるcell free DNAを2000万断片ほど集めて評価する検査のことを「母体血胎児染色体検査」といいます。母体血胎児染色体検査はNIPTのひとつですが、一般的にはほぼ同義として使用される傾向にあるようです。
たとえば21トリソミー(ダウン症候群)の赤ちゃんを妊娠しているお母さんの血液からcell free DNAをかき集めると、そうでない赤ちゃんに比べて21番染色体由来のcell free DNAが「少しだけ多い(正常核型の赤ちゃんは21番由来のcell free DNAが全体の1.3%出現するのに対して、ダウン症候群の赤ちゃんは1.42%出現します)」ことがわかります。このようなわずかな差を利用して、染色体異常のリスク評価を行っているのです。
ただし、現在この検査で測定できる疾患は「21トリソミー」「18トリソミー」「13トリソミー」の3疾患に限られています。
この検査の特徴は、検査結果が「陰性」であるときの信頼性が高いことです。つまり、この検査が陰性であれば、上に挙げた3つの染色体異常症は99.9%の確率で「ない」といえるのです。
一方で、「陽性」のときの信頼性(陽性的中率)は年齢によって変化します。そのため、陽性と出た場合には確定診断のための羊水検査が必要となります。また、cell free DNAは非常に微細な構造のものであり、血液採取をしたが「判定保留」となってしまい、再検査が必要になることも稀ではありますが(1%以下)ありえます。
NIPTは欧米では一般的な検査としての地位を確立しつつあります。イギリスでは90%の妊婦がNIPTを受けています。一方、日本ではNIPTの実用化には至っておらず、臨床研究として進めている段階です。
NIPTの研究が行われてから2015年の現在までに、約20000人の妊婦さんがNIPTを受診しました。
NIPTを受けた方の平均年齢は38.5歳でした。また受けた方の95%は35歳以上でした。検査を受けた理由として多く挙げられたのが「高齢である」「上の子がダウン症であった」ことのふたつでした。
NIPTの特徴としては、前項で述べた通り「高い陰性的中率」が挙げられます。これは「陰性であったときには染色体疾患である確率はかなり低い」ということです。逆に、検査が陰性だったのに実際には染色体疾患があった場合、「偽陰性」といいます。日本ではこれまでの検査で偽陰性は18トリソミーで1件報告されているのみです。
陽性的中率(NIPT検査結果が陽性であったときに実際に染色体疾患の胎児を妊娠している確率)は検査を受ける集団の平均年齢によって変わります。
日本で行われたNIPTの陽性的中率は95.6%(157名がNIPT陽性といわれた後に染色体検査を行い、151名が染色体検査でも陽性でした)でした。陰性的中率ほど高くありませんが、かなり精度が高い検査であることがわかります。今後NIPTがスクリーニングとして用いられ、検査を受ける妊婦の平均年齢が下がれば、検査の陽性的中率は下がっていくことが考えられます。しかし現時点でNIPTを受けている方の動機を考えると今後も年齢の高い方など染色体疾患を有する確率が高い方の受診が増えることも考えられ、検査数の増加にしたがって陽性的中率も増加していく可能性もあります。
日本で行われている他の非確定的検査には、超音波検査によるものや、クアトロテストによるものがあります(参照:「出生前診断の非確定的診断とは。妊娠初期の染色体疾患についての診断」)。それらと比較して、NIPTには次の特徴があります。
今後、検査の低価格化が進み検査を行える施設が増えていけば、将来的には染色体疾患の出生前検査として最もスタンダードなものになっていくのではないかと考えられます。
様々な検査が発展していくなかでお母さんとお父さんに求められているのは、「何をどこまで知りたいか」「染色体疾患や他に何らかの異常を認めた際にはどのようにするか」ということです。
実際に臨床でお話をしても、病気の可能性について可能な限り情報を求める方から性別ですら知りたくない方まで、非常に幅広く様々な方がおられます。
出生前診断に対する考え方には人それぞれ多様性があり、どれが正しいということは一概に言えません。そのため、希望される方には個々に遺伝カウンセリングをして、適切な情報を提供する必要があるのです。
ただ、一方的に情報を与えられるだけではなく、特に検査に関しては両親が主体的に学び知識を得る必要もあります。昭和大学では「安心・すこやか 妊娠・出産ガイド」を出版し、妊婦さんへの情報提供の手段として活用しています。
昭和大学医学部 産婦人科学講座 教授
関沢 明彦 先生の所属医療機関
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