モーレン潰瘍は先進国では症例が少なくなっている病気ではありますが、数十年前は治療法もなく、短期間で失明に至る恐ろしい病気でした。
今回はモーレン潰瘍の外科的治療を日本ではじめて開発され、その後も薬物治療により、積極的にモーレン潰瘍の治療に尽力されてこられた京都府立医科大学感覚器未来医療学教授の木下茂先生にお話をお伺いしました。
モーレン潰瘍とは角膜にできた潰瘍の一種です。角膜潰瘍の多くは傷口からの細菌感染によるものが多いですが、モーレン潰瘍はいまだに原因がはっきりとわかっていません。現段階では自己の抗体が自己抗原を攻撃してしまう、自己免疫性潰瘍のひとつであると考えられています。
潰瘍は角膜の周りに、進行性に広がっていきます。その広がり方がまるで、蚕が桑の葉を食べていくような形をとることから、蚕食性角膜潰瘍(さんしょくせいかくまくかいよう)ともいわれています。
私が研修医だった頃、モーレン潰瘍は非常に深刻な病気でした。発症してしまったら最後、治療法もなく、1~2年で目が見えなくなってしまう不治の病といわれていたからです。ただ現在、発症頻度は正確にはわかっていませんが、先進国での発症数は減ってきているとされています。
モーレン潰瘍の原因ははっきりとはわかっていませんが、自己免疫性の反応という説があります。これを詳しく説明していきましょう。
角膜に存在する自己抗原のなかに、自己抗体に触れていない、いわばバージン状態(未使用)の抗原があります。その抗原が手術や外傷といった侵襲性を伴う(体に負担がかかる)ダメージをきっかけに、急に自己抗体によって敵と認識されはじめることで、抗原が攻撃を受けてしまうことがあります。これが原因でモーレン潰瘍は発症するのではないかと考えられています。かつては白内障手術の後にモーレン潰瘍を発症することが多かったことから、このようなことがわかってきました。
またアフリカなどでの研究において、寄生虫の保有者の中にモーレン潰瘍を発症する患者が多いということも知られています。
モーレン潰瘍では、充血や目の痛みなどの症状が現れます。夜も眠れないほどのひどい痛みを訴えることもあります。発症初期は角膜の周辺にぽつんとある潰瘍が、進行するにしたがって横へ横へと広がっていきます。
さらに進行すると、周辺の結膜や強膜にまで炎症が波及することもあります。こうして角膜は薄く不透明になり、さらに自己細胞の破壊が進むと、角膜穿孔(角膜に穴があいてしまうこと)によって失明する危険性も否定できません。
モーレン潰瘍は細隙灯顕微鏡(眼科で広く用いられている顕微鏡)で観察して診断を行います。そしてフルオレセインという染色液を用いて病変部の広がりを詳しく調べていきます。
モーレン潰瘍と似た臨床症状が出る病気として、周辺部角膜潰瘍があげられます。周辺部角膜潰瘍は、多発血管炎性肉芽腫症(別名ウェゲナー肉芽腫:全身の血管に炎症が起こる)やリウマチを基礎疾患としている方に発症するため、そういった疾患を否定するために血液検査もしなければいけません。また、他の感染性から生じる潰瘍と鑑別するために、角膜の病変部から細菌培養を行うこともあります。
このように、モーレン潰瘍は原因がはっきり判明しておらず、自己抗原も複数関与していると考えられているために、「検査でこの結果が出たらモーレン潰瘍である」と確定診断できる方法はありません。似たような臨床症状を現す疾患を否定した結果、消去法的な意味合いでモーレン潰瘍と診断するという流れになります。
モーレン潰瘍は1970 年代には不治の病と考えられていましたが、現在は角膜上皮形成術による外科的な治療とステロイド、そしてシクロスポリンなどの免疫抑制剤を用いることにより、治療後、重症の患者さんでもある程度寛解状態(完治してはいないが、症状があらわれず通常通り日常生活を送れている状態)に持ち込むことが可能な病気になっています。
モーレン潰瘍は原因自体がなくなるわけではなく、抗原が暴露されると再び炎症が起こってしまうため、基本的には術後も一生治療を続けていく必要があります。そのため、自己判断でステロイドやシクロスポリンの内服を止めてしまうのは危険です。ただし、一旦症状が落ち着いてからは少しずつ薬の量を減らしていき、全身投与から局所投与である点眼薬に変更していくこともあります。きちんと定期的な点眼薬を続けていけば再発もせずに生活することができるようになってきています。
モーレン潰瘍の治療の基本は薬物療法です。シクロスポリンを服用しますが、シクロスポリンは効果が出るまで1週間ほどかかるため、ステロイドも併用する形になります。治療時期はもちろん、早いに越したことはありません。病態が進行してからではなく、早期から治療を行い、炎症を最小限に抑えることが最も大切です。
京都府立医科大学 特任講座感覚器未来医療学教授
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