角膜にはどのような病気があるのでしょうか? 角膜は目の表面を覆っている透明なレンズであり、近年その治療法は日々進歩してきています。今回は角膜をご専門とされている、京都府立医科大学感覚器未来医療学教授の木下茂先生にお話をお伺いしました。
目は小さな感覚器であるにも関わらず、視覚というとても大きな役割を担っている器官です。その中でも光学レンズの役割を果たす角膜は、「見る」ことにおいて非常に重要な役割を果たしています。
角膜とは外から見るといわゆる「黒目」にあたる部分を指します。実際は目の表面を覆い、光を通す透明な組織です。厚さは約0.5mmですが、この透明な組織はさらに細かく見ていくと5層に分かれており、その一番外側から角膜上皮細胞・ボーマン膜・角膜実質・デスメ層・角膜内皮細胞となります。
角膜には前述のとおり、目に光を取り入れることで物が見えるようにする役割と、光を屈折させて目のピントを合わせる役割があります。角膜は、光を通すために無色透明な組織であり、血液も通っていません。また角膜上皮は外界と接しているために、常に異物の混入や細菌感染のリスクにさらされています。そのため角膜上皮は涙で保護されており、この涙が細菌感染等を防ぎます。
角膜は目の中でも外界にもっとも近く、外部と接触しているために、乾燥と感染が最もトラブルを引き起こしやすい原因となっています。たとえばよく知られている例としては、乾燥によるドライアイがあります。ドライアイでは目が乾燥して疲れるといった症状だけでなく、進行すると上皮が角化し、角膜において水分を保持する成分であるムチンを分泌する杯細胞が減ってしまい、さらにドライアイが進行することがわかっています。
また、最近ではコンタクトレンズを装用する方が多いために、不衛生なレンズ装着による細菌性角膜炎が増えてきています。細菌性角膜炎やウイルス性角膜炎は、角膜に細菌やウイルスが増殖し、炎症を起こした状態です。
とはいえ角膜の病気というと、ドライアイや角膜炎など、比較的軽症な疾患が思い浮かぶ方も多いかもしれません。しかし実は、角膜にも重症な疾患があり、なかには治療法が確立していないものもあります。
たとえばスティーヴンスジョンソン症候群(SJS)は皮膚科、眼科における重篤な病態のひとつです。スティーヴンスジョンソン症候群(SJS)は高熱や全身倦怠感などの症状とともに、全身の広範囲にわたる皮膚が赤く腫れたり、剥がれたり、水ぶくれができたりする疾患で、結膜とともに角膜も破壊されます。
スティーヴンスジョンソン症候群(SJS)の病態はまだよくわかっていませんが、薬剤やウイルス感染が引き金となって免疫機構が大きく変化するためではないかと考えられています。角膜が濁ってしまい、その後悪化が続き、目が見えなくなってしまうこともあります。治療としては早期のステロイド大量投与によって炎症をおさえることができますが、今のところ根治の治療法は確立されていません。
眼類天疱瘡(がんるいてんぽうそう)もスティーヴンスジョンソン症候群(SJS)と同様、上皮の基底膜(きていまく)と呼ばれる層を自分自身の免疫機構によって攻撃し、破壊してしまうことで生じる重篤な自己免疫疾患のひとつです。破壊された上皮を補うようにして、異常な基底細胞の増殖がおこり、ゆっくりと眼の癒着(ゆちゃく:組織同士がくっつくこと)が進行して角膜は白く濁り、目が見えなくなってしまうこともあります。
外的要因による難治性疾患としては、熱化学外傷が挙げられます。やけどや特定の薬品によって眼の表面がただれてしまい、角膜を元に戻すことができなくなってしまう状態です。角膜が濁って見えなくなるだけではなく、まぶたと角膜が付着してしまう可能性もあります。
京都府立医科大学 特任講座感覚器未来医療学教授
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