2015年現在、日本性感染症学会のガイドラインに性感染症(STI:Sexually transmitted infections)として診断と治療方法が定められている疾患が全部で17種類あります。これから数回に分けてお伝えしていくのは、そのうちのひとつ「毛じらみ症」についてです。性感染症治療に長年携わってこられた尾上泰彦先生にお話を伺いました。
吸血性の昆虫であるケジラミ(Phthirius pubis)が寄生することで発症する性感染症です。ケジラミは性器周辺に住みつき、1日数回の吸血を繰り返しながら約0.8~1.2mmの大きさの成虫になります。このケジラミはヒトにのみ寄生するという特性があります。
ケジラミは褐色を帯びた白色で体の形は円形に近く、頭部に2本の触手と胴体部に6本の足があります。この6本の足のうち前の2本の先端には細い爪、後の4本はカニのような大きな爪があり、毛のような針で体全体が包まれています。
ケジラミは宿主から離れた後の生存期間は、どれほど良い条件が整っていたとしても48時間以内と言われています。そしてケジラミ自身は1日に10cm程度しか移動することができません。そのため性交時の陰毛の直接接触が主な感染経路と考えられていますが、家庭内では親子間の、とくに親密な母子間でも感染が多く報告されています。
ケジラミが寄生している部位に激しいかゆみがあるにも関わらず、皮疹が認められないことが特徴です。このかゆみには個人差があり、多数のケジラミが寄生していてもかゆみをあまり感じないという患者さんもいます。
ケジラミが寄生しているかを調べるために、患者さんに白い下着に身に着けてもらい観察するという方法があります。ケジラミはヒトの血液を栄養源にして生活しており、吸った血液は最終的に糞便として排出します。毛じらみ症の治療期間中、患者さんに白い下着を着用してもらい経過を観察するのは、この糞便の有無を確認しやすくするためです。
ケジラミがいる可能性が高いと判断されると、ケジラミが住みつきやすい陰毛部を探します。血液を吸っていればケジラミの体は褐色となり見つけるのは比較的容易なのですが、血液を吸っていないケジラミは肌色のため、血を吸っている場合と比べると難易度は上がります。毛の根元部分にケジラミが見つかったらピンセットで捕獲、このケジラミが幼虫なのか成虫なのかを顕微鏡で観察して確認します。
症状があるにも関わらずケジラミが見つからなかった場合、今度はケジラミの卵を探します。ケジラミの卵は白色のため容易に見つけることができます。陰毛の根元付近にケジラミの卵を見つけたら顕微鏡で観察して、本当にケジラミの卵なのか、もし卵であるならば生卵なのかそれとも抜け殻なのかを確認します。
日本で治療薬として認可されているのはいずれも市販薬で、「0.4%フェノトリンパウダー」と「0.4%フェノトリンシャンプー」の2剤です。 毛じらみ症はスキンシップなどの性的類似行為でおこる可能性があるため、パートナーや家族などの身近な人が診断された際には家族単位などで一斉に治療を行うのが望ましいとされています。
治療方法のひとつとしてケジラミが寄生している部分の剃毛もありますが、肛門部や大腿部などほかの部分に移動・寄生する可能性もあるため、毛深い人は体毛を剃らずに薬剤による治療を行うほうが良いでしょう。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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