【インタビュー】

クリップする
URLを入力して
記事をクリップしましょう
指定された URL のページが見つかりません
S664x430 31322c0c 692e 4f4e bb7e 6b045b03cc3e
びまん性汎細気管支炎とエリスロマイシン
「記事3:びまん性汎細気管支炎の特徴」では、どのような方がびまん性汎細気管支炎に罹患しやすいのかをお伝えしました。ではこの難治性の病気はどのように治療すればよいのでしょうか。公益財団法人結核予防...
クリップに失敗しました
クリップ とは
記事にコメントをつけて保存することが出来ます。検索機能であとで検索しやすいキーワードをつけたり、読み返し用のメモを入れておくと便利です。
また、記事を読んで疑問に思ったこと、わからないことなどをコメントに書き、「医療チームのコメントを許可する」を選んで頂いた場合は、医師や看護師が解説をメールにてお送りする場合があります。
※ クリップ内容は外部に公開されません

びまん性汎細気管支炎とエリスロマイシン

公開日 2016 年 03 月 14 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

びまん性汎細気管支炎とエリスロマイシン
工藤 翔二 先生

公益財団法人結核予防会 理事長

工藤 翔二 先生

記事3:びまん性汎細気管支炎の特徴」では、どのような方がびまん性汎細気管支炎に罹患しやすいのかをお伝えしました。ではこの難治性の病気はどのように治療すればよいのでしょうか。公益財団法人結核予防会 理事長の工藤翔二先生にお話を伺いました。

治療方法がわからなかった時期

私自身治療に苦しんだ時期がありました。急性の気道感染症であれば抗生物質で改善しますが、慢性の持続気道感染症の病気は治せません。菌を殺してもまた次の菌に感染してしまい、治療に際限がなくなってしまいます。

免疫機能を活性化させるためBCG(結核を予防するワクチン)を打つという治療方法も提案されたこともありました。しかし、DPBの患者さんは免疫力の低下どころか、IgA抗体(粘膜免疫系の抗体)もIgG抗体(生体防御系の抗体)の値も、健康な方より高いのです。

また、日本人の珪肺症(けいはいしょう:空気中に浮遊する微粒子の粉じんを吸入することで肺に生じる病気)の患者さんもHLA-B54を持つ方が多いことを、当時九州大学におられた笹月健彦先生が調査し、発表されました。

通常、珪肺症はトンネル工事や鉱山における作業で粉じんを吸うことにより発症します。しかし、同じ作業をしていても珪肺症にならない方もいました。ということは、粉じんに含まれる珪酸(けいさん)に対して、先ほど申し上げたように遺伝子的(つまりHLA-B54を持つ方)に過剰反応しているのではないかという結論に至りました。

どちらの病気にせよ免疫賦活剤でも抗生物質でも歯が立たないことがわかり、途方にくれていました。

エリスロマイシン長期療法発見のきっかけ

1970年代後半に、症状からびまん性汎細気管支炎が疑われた患者さんがおり、当時はCTも無く確かな診断がつかなかったので、開胸肺生検を行いました。結果、びまん性汎細気管支炎であったので、最初はステロイド剤の投与を行いました。痰の量は減るもののまもなくぶりかえし、ステロイド剤の投与は継続できる治療方法ではないので、抗生物質に切り替えました。しかし効果は現れず症状は次第に悪くなる一方で、患者さんは治療を中断し、病院には来なくなられました。それから2年半経った1982年、再び受診された時には、なんとびまん性汎細気管支炎が治っていたのです。これには驚きました。 

きっかけは長野県の開業医の治療方法にあった

患者さんにお話を聞くと、松本市の開業医である宮澤博先生のもとに通院しており、「漢方を処方して貰った」ということでしたので、宮澤先生にお電話をしたところ、漢方薬は処方されておらず、メジコン®(咳止め剤)・ダーゼン®(消炎剤※現在は発売中止)・リンデロン®(消炎・抗菌剤)・エリスロマイシンを処方したとのことでした。

リンデロン®はステロイド剤ですから、前述のように治癒しなかった前例もありますし、治せる可能性は低いです。メジコン®・ダーゼン®で治る可能性も低いでしょう。では何が効いたのかというと、エリスロマイシン600mgの長期投薬だったのです。これは常用の半量ですし、そもそもエリスロマイシンは緑膿菌にはほとんど効かないので、通常では考えられない治療法です。

ではなぜ、宮澤先生がエリスロマイシンの微量投与を行われたのかを、先生に直接お手紙を出してお聞きしましたが、明確な答えを得られないまま先生はお亡くなりになられてしまいました。ただ先生のお嬢さんも医師だったので、詳しくお話をお伺いしたところ、宮澤先生は1950年代に新潟大学の薬理学教室に在籍されていたことがわかりました。その当時、同大学内科の桂重鴻教授が抗生物質微量療法を提唱しておられたので、その影響があったのかもしれません。「抗生物質を少しずつ使う治療方法をしており、特にエリスロマイシンが好きでした」ということでした(もちろん、現在では感染症に対しては十分な量の抗生物質を使うべきで、少量を使うという治療方法は行われません)。

ですから私がエリスロマイシン長期療法を発見できたのは偶然だったのです。フレミングがアオカビから偶然にペニシリンを発見したり、コッホが結核菌を偶然ブルーに染められたことで結核菌を確立できたり、ということと同じで、まさに偶然から発見できたのです。

エリスロマイシン長期療法の実践

私の過去のステロイド剤の投与の経験から考えて、エリスロマイシンの長期投薬の効果ではないかと判断し、患者さんにエリスロマイシン600mgを投与してみました。そして患者さんを診察すると、2週間、1ヶ月と患者さんの調子が良い方向に向かっており、2か月も経つと皆さんの症状が良くなっているのです。その結果を最初に論文として報告したのが1984年です。 

感染症治療の世界から見れば、常識外れの治療ですから不安を感じながら報告を行いました。もちろん学会では「非常識な治療」といわれ、「理由はわかりませんが、実際に治るので、まずは2~3か月試してみて下さい」これが私のできる唯一の反論でした。

その後まずは関東地区の6施設でレトロスペクティブ(現在起こっている事象を過去にさかのぼり、因果関係や要素を分析する調査方法)な治験を行いました。そして1990年には厚生労働省の研究班がプロスペクティブ(現在を始まりとして、将来に起こる事象を追跡調査し分析する方法)な試験を3か月行いました。この試験により、国内におけるエリスロマイシンのびまん性汎細気管支炎に対する有効性が確立しました。

2000年にはアメリカの専門医の資格試験で、「40歳代の日本人の男性で慢性副鼻腔炎があり、咳・痰が長く続き~中略~結果が出た。さてこの病気にはどの治療が最適なのか」というような問題も出題されました。これはDPBの症例です。もちろん正解はエリスロマイシンでした。

 

工藤翔二先生(びまん性汎細気管支炎)の連載記事

びまん性汎細気管支炎(DPB)に対する「マクロライド少量長期療法」を確立した呼吸器内科のパイオニア。特発性間質性肺炎の診断基準改訂、特発性間質性肺炎・サルコイドーシスの病態解明、びまん性汎細気管支炎の遺伝性要因の解明を行うなど、呼吸器疾患の治療に欠かせない功績を残している。

関連記事