前の記事「副甲状腺機能亢進症とは-副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気」で、副甲状腺機能亢進症が大きく原発性、二次性(続発性)、三次性にわかれることなどをご説明しました。本記事では、それぞれの副甲状腺機能亢進症の原因について、名古屋第二赤十字病院 内分泌外科部長 冨永芳博先生にお話しいただきました。
原発性副甲状腺機能亢進症の10%に遺伝が関係しているといわれています。この10%の原因のひとつが、多発性内分泌腫瘍症(MEN*)です。多発性内分泌腫瘍症(MEN)は複数の内分泌臓器および非内分泌臓器に良性・悪性の腫瘍が多発する症候群で、この症候群の病変のひとつに副甲状腺機能亢進症があります。また多発性内分泌腫瘍症(MEN)には遺伝子変異によって起こることがわかっており、親から子へ遺伝されます。また、多発性内分泌腫瘍症(MEN)とは関係なく、副甲状腺機能亢進症を発症しやすい遺伝子学的な異常があるとも考えられています。いずれにせよ、解明されていない部分が多くあります。
*多発性内分泌腫瘍症(MEN):MEN1とMEN2に大別されます。
MEN1では、副甲状腺機能亢進症・下垂体腺腫・膵消化管内分泌腫瘍が三大病変です。MEN2では、副甲状腺機能亢進症・甲状腺髄様がん・副腎褐色細胞腫が三大病変です。MEN1のうち約60〜70%が副甲状腺機能亢進症を発症し、MEN2と比べると、副甲状腺ホルモン値やカルシウム値が高くなる傾向にあり、病態の程度が重いといえます。一方MEN2は約20%が副甲状腺機能亢進症になりますが、MEN1よりは程度が軽いといえます。
ビタミンDの活性化には日光(紫外線)が必要です。皮膚が十分な日光を浴びていないときに起こる欠乏症です。日照時間が短い地域ではビタミンD不足、さらにはカルシウム値低下になりやすいと考えられています。カルシウムをあげるために副甲状腺が過剰にはたらく結果、副甲状腺が腫大してしまうと考えられています。日照時間が短い北欧では、副甲状腺機能亢進症の発症が多い傾向にあります。ただし、現在はビタミンDをサプリなどの食品からも摂取することが可能ですので、あくまでも可能性のひとつといえるでしょう。しかしながら、日光に当たることが少ない方はカルシウムの低下により、骨粗しょう症を悪化させる危険がありますので注意が必要です。
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症の主な原因です。腎臓は、カルシウムとリンをコントロールする重要な臓器です。慢性腎不全になると、腎臓でのリンの排泄およびビタミンDの活性化ができなくなります。また活性化ビタミンDが低下すると、小腸からのカルシウムの吸収が低下し、血液中のカルシウム値が低下します。
腎臓でのリンの排泄ができなくなると、体内のリンが上昇します。高リン血症の状態が続くと副甲状腺を刺激し、副甲状腺ホルモンの分泌を促します。長期間刺激され続けた副甲状腺は腫大し、やがて血液中のカルシウムの値に関係なく副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるようになり、血液中のカルシウムが必要以上に高くなります。近年では、リン調節ホルモンFGF23によって、ビタミンDやカルシウムの低下を起こしているということもわかってきています。いずれにせよ、原発性副甲状腺機能亢進症と同様、原因が明らかになっていない部分が多くあります。
躁うつ病の治療薬であるリチウムの長期的に服用がリスクになると考えられています。メカニズムは明らかになっていません。
なんらかの原因によって腸が短くなり、ビタミンDやカルシウムの吸収が悪くなります。ただし、この病気自体の罹患数が少ないため、副甲状腺機能亢進症の主な原因とはいえません。
そのため、腎臓の移植後も副甲状腺機能亢進症の病態が続くと考えられています。また、ビタミンD受容体やカルシウム受容体が減少することで、副甲状腺が腫瘍化するともいわれています。三次性副甲状腺機能亢進症の発症は人によって、また受けた内科的治療によっても異なります。
約90%が腺腫であり、複数ある副甲状腺のうちの1つのみが腫大するケースがほとんどです。副甲状腺癌は非常にまれで、1%以下です。過形成は10-15%程度であり、多くの場合家族性で、先に述べた多発性内分泌腫瘍症(MEN):MEN1とMEN2がほとんどです。
【冨永芳博先生の著書】
名古屋第二赤十字病院 内分泌外科部長
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