インタビュー

自己免疫性膵炎とはどのような病気か

自己免疫性膵炎とはどのような病気か
山本 元久 先生

東京大学医科学研究所附属病院 アレルギー免疫科 准教授・診療科長

山本 元久 先生

この記事の最終更新は2016年06月17日です。

自己免疫性膵炎は一般的な慢性膵炎とは異なり、ステロイド薬がよく効く特殊な膵炎です。その原因はまだ解明されていませんが、IgG4関連疾患と呼ばれる慢性疾患の代表的な病態のひとつであることがわかってきました。IgG4関連疾患を専門とされている札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学講師の山本元久先生に、自己免疫性膵炎についてお話をうかがいました。

自己免疫性膵炎は1995年に提唱された比較的新しい疾患概念です。膵臓がんとの鑑別が重要であり、グルココルチコイドというステロイド薬がよく効く特殊な膵炎として注目されてきました。2000年代初頭に免疫グロブリンのひとつであるIgG4との関連が報告されたことによって解明が進み、涙腺・唾液腺に現れるミクリッツ病とともにIgG4関連疾患の代表的な病態であるという新しい概念が確立されています。

「自己免疫性膵炎診療ガイドライン2013」(厚生労働省難治性膵疾患調査研究班・日本膵臓学会)では、自己免疫性膵炎は以下のように説明されています。

  • しばしば閉塞性黄疸で発症し、時に膵腫瘤を形成する特有の膵炎である
  • リンパ球と形質細胞の高度な浸潤と線維化を組織学的特徴とし、ステロイドに劇的に反応することを治療上の特徴とする
  • 1 型自己免疫性膵炎と 2 型自己免疫性膵炎の 2 亜型に分類される.わが国では主として 1 型であり、単なる「自己免疫性膵炎」とは 1 型を意味する
  • 1 型は著明なリンパ球・形質細胞浸潤,IgG4 陽性形質細胞の浸潤,花筵状線維化(storiform fibrosis)、閉塞性静脈炎を特徴とするlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と同義である
  • 欧米に多い 2 型は好中球上皮病変(granulocytic epithelial lesion;GEL)を特徴とし、idiopathicduct―centric chronic pancreatitis(IDCP)と同義であり、1 型とは別の病態である

(自己免疫性膵炎診療ガイドライン2013より引用)

IgG4関連疾患を専門に扱っている私たちから見ると、ここでいう1型の自己免疫性膵炎がIgG4関連疾患の膵病変であるということになります。いわゆる2型の自己免疫性膵炎はIgG4が関係していない、好中球が主に炎症の主体になっている膵炎ですので、区別して考えています。

自己免疫性膵炎の原因はまだわかっていません。過去に報告されている推定患者数は、たとえば2007年で約3,000人とされていますが、これは大学病院や大病院だけを調査の対象にしているので、私たちの実感としては少なくともその数倍はあるのではないかとみています。実際、私たちのところに紹介されてくる患者さんは最近増えてきており、それだけこの病気の認知度が上がってきて、一般の病院や開業医の先生たちが自己免疫性膵炎を疑うことができるようになってきたのだろうと考えています。

この自己免疫性膵炎の発見のきっかけとしては、後で述べる閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)もよくみられるところですが、その他に最近しばしば経験することとして、高齢の方で急に耐糖能障害(たいとうのうしょうがい・血中のブドウ糖代謝に異常があり、糖尿病に移行しやすい状態)が悪化するケースがみられます。糖尿病が急に悪くなるなどして調べてみると膵臓が腫れているというような経緯から自己免疫性膵炎が見つかることがあります。

おそらく一般のクリニックなどで糖尿病として診ておられる患者さんの一部には、自己免疫性膵炎による糖尿病も一定の割合で含まれているのではないかと考えます。

自己免疫性膵炎はなかなか自覚症状が出てくることがなく、ゆっくりと潜在的に進行することが多いのですが、症状が現れるときに多くみられるのは閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)です。膵臓が腫れることによって中を通っている胆管が圧排(あっぱい)され、脂肪の分解を助ける消化液である胆汁(たんじゅう)が流れなくなるため、黄疸(おうだん)になります。そのほかの自覚症状としては、上腹部の違和感や背部痛など、いわゆる慢性膵炎に類似した症状がしばしばみられます。

自己免疫性膵炎が見つかるきっかけとして多いのは前述の閉塞性黄疸です。また膵臓が腫れるだけでなく、腫瘤(しゅりゅう)と呼ばれるような腫瘍に似た状態になることもあります。私も研修医だった当時、膵臓が腫れる病気といえば膵臓がんという認識しかなく、膵臓がんを疑って手術をしてみたものの、どこの切片をみてもがんが出てこなくて炎症しかないというような都市伝説めいた話を先輩医師から聞かされた覚えがあります。

その後、腫瘤形成性膵炎や硬化性膵炎の概念が出てきて、1995年に自己免疫性膵炎の概念が打ち出されてきました。そこから少しずつこの病気への取り組みが始まり、今ではある程度認知されるようになってきました。

ですから、かつては自己免疫性膵炎が膵臓がんと誤認されて手術されるということがあったかもしれませんが、現在はもうそのようなことはないと思われます。たしかに閉塞性黄疸を来すと腫瘍マーカーの値が上昇することはありますので、それだけでは鑑別をすることはできません。また、がんであればPET(陽電子放射断層撮影)などの検査も行いますが、その場合もこの自己免疫性膵炎ではがんと同じような集積が見られるので鑑別の決め手にはなりません。

そのため、やはりエコー(超音波検査)が必要であり、特に超音波内視鏡(EUS)などできちんと精査した上で、さらにはEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)で細胞を採取して、がんではないということを鑑別することが非常に大事なポイントになります。

典型的な所見としては、びまん性(病変が広範囲にわたること)に膵臓が腫れていて、なおかつ造影CTでカプセル状に皮膜が被っているような構造があれば、画像からだけでもほぼ自己免疫性膵炎であると判断することができます。ただし、最近はその炎症部位が膵尾部と体部に分かれていたり、頭部に分かれていたりするケースもみられるため、やはりひとつひとつていねいに診ていく必要があると考えます。

1型の自己免疫性膵炎、つまりIgG4関連疾患としての自己免疫性膵炎にはステロイド薬がよく効きます。ステロイド薬の中でもプレドニゾロンやメチルプレドニゾロンなど、何種類か使える薬があるのですが、私たち免疫疾患を扱う医師にとっては半減期の問題を考えるとプレドニゾロンが一番使いやすい標準薬です。毎日服用していてもそれが次の日に残らないというところが大きな利点であり、「自己免疫性膵炎診療ガイドライン」においても、1型が強く示唆される場合はプレドニゾロンがスタンダードな治療となっています。

自己免疫性膵炎自体に関しては、何かとりわけ気をつけなくてはいけないことや、日常生活の制限というのはないと考えていただいてよいでしょう。ただし、膵臓に炎症があることは事実ですので、普通の慢性膵炎と同じようになるべく脂肪の少ない、膵臓に負担のかからない食事を心がけるべきでしょう。そしてステロイドの治療中には、そのステロイド自体によって血糖が上がりやすくなるので、その点にも気をつけていくことが望ましいといえます。

自己免疫性膵炎の治療は、年単位での長期的な取り組みが必要になります。ステロイド薬を漫然と使い続けることには不安を感じる方もおられるかと思いますが、薬には当然メリット・デメリットがあります。

今の自己免疫性膵炎の状況を放っておくとどうなるか―たとえば耐糖能障害が悪化すると、そのことによってインスリンを打たなければならなくなってしまうかもしれませんし、ずっと炎症が続いていると本当に普通のアルコール性膵炎と同じように慢性膵炎になってしまい、痛みが出てくるかもしれません。そういったことを考えれば、治療の適応になった場合にはできるだけガイドラインに沿って治療に入っていただくことが望ましいと考えます。

私たち医師の側も、患者さんがそのことを理解できるよう、きちんと納得していただける説明をしていかなければならないと考えています。自覚症状があまりないからといって治療をせずに放置したり、患者さんの判断で治療を中断したりすることも避けていただいたほうがよいでしょう。

IgG4関連疾患は全身性の慢性疾患ですので、最初に膵臓で病変があったとしてもそこだけで終息するとは限りません。内科医としてはやはり全身を診るというスタンスが必要であると考えます。IgG4関連疾患としての自己免疫性膵炎からの流れでは、同じ胆管系で硬化性胆管炎の頻度が高くなります。このほか、涙腺・唾液腺以外では腎臓や肺にも病変をきたすことがあります。

自己免疫性膵炎は長期的に維持療法が必要になるという面がありますが、少ない量のステロイド薬を服用し続けることによって、普段通りまったく制限のない生活を送ることは可能です。ただし、長期的な予後がまだわからない疾患であるため、症状がよくなってもしばらくは継続的に様子をみていく必要があります。

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