概要
自己免疫性膵炎とは1995年に提唱された比較的新しい疾患概念であり、黄疸や体重減少などを引き起こす自己免疫が関連した膵臓疾患のひとつを指します。
2000年代初頭に免疫グロブリンのひとつであるIgG4との関連が報告されたことによって解明が進み、涙腺・唾液腺に現れるミクリッツ病とともにIgG4関連疾患の代表的な病態であるという新しい概念が確立されました。IgG4関連疾患では自己免疫性膵炎以外にも、涙腺・唾液腺、腎臓や肺にも病変をきたすことがあります。
自己免疫性膵炎の治療の第一選択薬はステロイド薬で、少ない量のステロイド薬を服用し続けることによって普段どおり制限のない生活を送ることが可能とされている疾患です。
原因
自己免疫性膵炎では、膵臓に自己免疫をきっかけとした炎症が生じる結果、膵臓が腫れ上がってしまいます。膵臓の中には、消化に必要な「消化酵素」と呼ばれる物質を通す「膵管」と呼ばれる管が通っていますが、自己免疫性膵炎で膵臓が腫れると消化酵素の通りが悪くなります。また膵臓が腫れることから、胆汁の流れが阻害されるようになります。胆汁のなかには、「ビリルビン」と呼ばれる糞便の色の素となる黄色い物質が存在しています。胆汁の流れが阻害されることから消化管のなかにビリルビンが排泄されなくなり、その代わりに血液中にビリルビンが多く見られるようになります。その結果、黄疸という症状が引き起こされることになります。
また、膵臓は「インスリン」と呼ばれる物質を分泌する働きも有しています。インスリンは、血糖コントロールに非常に重要な役割を示すホルモンです。自己免疫性膵炎ではインスリンの分泌も障害を受けることになり、その結果血糖コントロールがうまくいかなくなり糖尿病を引き起こすこともあります。
自己免疫性膵炎では、膵臓のなかに腫瘤が形成されることも知られていますが、膵臓がんでもみられるため、両者の鑑別が必要になることもあります。なお、自己免疫性膵炎では自己免疫がきっかけとなって上記のような反応を引き起こすのですが、なぜ自己免疫が自身の膵臓を攻撃するようになるのかについての原因はまだわかっていません。
症状
自己免疫性膵炎はなかなか自覚症状が現れず、ゆっくりと潜在的に進行することが多いですが、なかでも多くみられるのは閉塞性黄疸という症状です。
そのほかの自覚症状としては、上腹部の違和感や背部痛、倦怠感、体重減少など、いわゆる慢性膵炎に類似した症状がしばしばみられます。その他、糖尿病が急に悪化することなどがあり、調べてみると膵臓が腫れているというような経緯から自己免疫性膵炎がみつかることもあります。
自己免疫性膵炎は、IgG4関連疾患の一症状として発症することがあることも知られています。自己免疫性膵炎に関連した症状以外に、たとえば、目が乾く、唾液が少ないなどの他の臓器に関連した症状をきっかけとして発見されることもあります。
検査・診断
自己免疫性膵炎では、腫瘤を形成するため膵がんとの鑑別が重要になることがあります。そのため、エコー(超音波検査)やCT検査といった画像検査を行うことが必要です。
超音波内視鏡(EUS)などで精査したうえで、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)で細胞を採取して、がんではないということを鑑別することが大事なポイントになります。典型的な所見としては、びまん性(病変が広範囲にわたること)に膵臓が腫れていて、なおかつ造影CTでカプセル状に皮膜が被っているような構造があれば、画像からだけでもほぼ自己免疫性膵炎であると判断することができます。その他、血液検査を行いIgG4が高くなっているか確認します。
治療
自己免疫性膵炎にはステロイド薬を使用することが多いです。ステロイド薬にはプレドニゾロンやメチルプレドニゾロンなど、何種類か使える薬がありますが、そのなかでもプレドニゾロンが標準薬として使用されています。毎日服用していてもそれが次の日に残らないというところが大きな利点であり、「自己免疫性膵炎診療ガイドライン」においても、1型が強く示唆される場合は、プレドニゾロンがスタンダードな治療となっています。
そのほかにも、なるべく脂肪の少ない、膵臓に負担のかからない食事を心がけることも大切です。また、ステロイドの治療中には、ステロイドによって血糖が上がりやすくなるので、その点にも気をつけていくことが望ましいといえます。加えて、ステロイド服用中はある程度免疫抑制がかかっている状態です。そのため、風邪などをひきやすくなるため、手洗いやうがいなどを行うことで感染症にかかりにくくするよう注意を払うことも大切です。
医師の方へ
自己免疫性膵炎の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
「自己免疫性膵炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「自己免疫性膵炎」に関連する記事
関連の医療相談が10件あります
騒音性難聴と耳鳴り
1年くらい前から耳鳴りがきになり耳鼻科を受診したら騒音性難聴とのことでした。その後テレビがついていたり雑音があると会話が聞き取りにくく、仕事中どうしてもなんかしら雑音があるため聞き取りにくく聞き返すことが増えてこまっています。時々耳抜きができないような詰まった感じがすることも増えました… 加味帰脾湯という薬を処方されましたが改善しません… ほかの病院を受診してみるべきですか? あと、耳の感じはとても説明しにくいです。症状を伝えるのになにかアドバイスあったらおしえてほしいです…
右下腹部痛
おへその少し下の右側に痛みがあります。 痛い時と痛くない時が、あり押さえたら痛いし、抑えなくても痛いです。 1分ほど痛くなりその後、何事もなかったかのように過ごし、またふとした時に痛いです。 それ以外にはトイレが近く、検査しましたが膀胱炎では、ありませんでした。 一応、採血もしてるので、盲腸なら採血ででますか? 盲腸の可能性は、あるのでしょうか?
扁桃腺手術
喉に濃栓がすぐできてしまい時々耳鼻科でとってもらっていたのですが、かなりしつこく大量にたまりやすいので扁桃腺をとることをすすめられました。慢性扁桃炎のため濃栓がができてしまうそうですが症状はのみこむときちょっと違和感があるくらいです。熱がでたりすることも今まではありません。このままにしておくと体にどんな悪い影響が出る可能性があるのでしょうか。 手術ということばに驚いて詳しく聞けず、入院一週間、全身麻酔の手術とネットでみて不安になり。できれば避けたいと思いまして。年齢は59歳です。
口内炎について
歯茎の内側に5日前から口内炎らしきものが出来てます。周りは赤く中はクリーム色で黄色味がかってます。直径5ミリ程の大きさで、楕円形に近い形です。出来た時から痛みがなく、出来てるなという違和感ぐらいでしたが、いつも通りビタミンb2を摂取してますが、大きさに変化はなく痛みがないのが不気味です。なお、触っても痛くもなくシコリもないです。 口内炎であれば、I〜2週間で治るそうですが、さほど変化なく痛みもない状態が5日続き段々不安になってきました。 因みに寝不足は続いており出来た前日、当日は胃もたれしていましたが関係ありますか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。