インタビュー

3D映像がなぜ眼精疲労を引き起こすのか? 子どもの視機能とデジタル機器

3D映像がなぜ眼精疲労を引き起こすのか? 子どもの視機能とデジタル機器
原 直人 先生

国際医療福祉大学 保健医療学部 視機能療法学科 教授

原 直人 先生

この記事の最終更新は2016年07月25日です。

SNSなどのスマートフォンを用いたコミュニケーションツールや3D立体映像のゲーム機器などの普及、加えてタブレット端末を導入した授業などが全国各地で始まったことにより、コンピュータ作業に従事する大人だけでなく子どもたちの目も危険に晒されるようになりました。小型で高輝度の画面や立体映像を凝視することにより、子どもの目の機能にはどのような悪影響があるのでしょうか。国際医療福祉大学病院眼科教授の原直人先生にお伺いしました。

「デジタルデバイス漬け」の生活を送っているのは、大人だけに限ったことではありません。かつて屋外で日の光を浴びながら遊んでいた子ども達は、今兄弟や友人などと屋内で視覚刺激の強いゲームをして遊ぶようになっています。ある小学6年生の児童の休日を調査したところ、睡眠と入浴時以外のほぼ全ての時間をテレビやゲーム機器、スマートフォンを利用した活動に費やしていることがわかりました。

また、女子高校生の約4割は、スマートフォンの使用時間が1日6時間を超えていることもデータで示されています。(1日平均使用時間は6.4時間)これはSNSなどのコミュニケーションツールの浸透によるものでしょう。

(参考文献:デジタルアーツ株式会社,(監)近藤昭一:未成年のスマートフォン利用実態調査2015)

更に小中学校では、重い数十冊の教科書をひとつにまとめることができ、動画解説などでわかりやすく学習できるタブレット端末を授業に導入することも増えました。確かにこれらは利便性の高いツールではあります。しかし、デジタルデバイスがどのような影響を子どもの視機能や生体に与えるかという検証がなされないまま導入が進んでいる点には問題があるといえます。

あらゆるデジタルデバイスの中で、青少年が最も高頻度で利用しているものはスマートフォンであり、次いでノートPCとなっています。かつて厚生労働省が提示した指針では、VDT作業(コンピュータ機器を用いた作業)を行う際にはディスプレイを目から50cm離して置くことが望ましいとされていました。しかし私たちの研究によると、子ども達がスマートフォンを見ているときの画面と目の距離の平均値は「18cm」(野原ら,2015)となっています。

眼科では近いものを見る「近見視力」を測るとき、読書をするときの距離とされる30cmを目安として視標を置いています。このことからもわかるように、18cmは非常に近距離であり、近視発生のひとつのリスク因子と考えられます。

2009年に3D映画が大旋風を起こした際、「頭痛がする」「酔ったような感覚が数日続く」といった相談が国民生活センターに多数寄せられました。しかし、現在では立体映像に対する問題は大きく取り上げられることがなくなり、4K、8Kテレビなど、より奥行きのある視覚刺激の強い映像の登場に期待が寄せられるようになっています。視機能や生体への影響が解明されないまま、エンターテインメント性を重視した立体映像に子ども達が取り囲まれていくのは危惧すべき事態です。

1988年に、赤と緑のフィルム眼鏡をかけて鑑賞する子ども向けの3D映画が流行したとき、当時4歳の男の子が15分間の鑑賞で手術が必要な「内斜視」になってしまったという事例がありました。内斜視とは、対象物に焦点を合わせようとしたとき、眼筋の異常により片眼だけは対象物へと向かわず内側へ向いてしまう症状のことをいいます。

また、視力がよくなると謳われている3D絵本を集中して見つめたことにより、物体が二つに見える「複視(ふくし)」になってしまった女児が来院されたこともあります。新しい視覚刺激が現れたとき、子どもは刺激に慣れていないうえに、一生懸命に見ようと自ずと訓練するかのような努力をしてしまい、過剰に寄り目をしてしまいます。これが複視や内斜視の誘因となります。お子さんが3D映像や絵本をみるときには、あまり熱心に見すぎないよう保護者とともに鑑賞するように啓発しています。

人間の左右の眼球は成人で約60mm離れています。そのため、各眼球の網膜に入る映像にはズレがあり、この左右の像のズレの程度を検出することで、私たちは物の奥行きを再構成することができます。このように立体視とは両眼の視差を手がかりとして奥行きのある空間を知覚するものなのです。3D映像とは、この両眼視差刺激をあえて強調することで立体知覚を引き起こすものであり、二次元映像を見るときとは異なった目の使い方をさせるものです。3D映像を見ているとき、視線は飛び出した像に向かいながらも焦点は画面上に保たれているという、非常に不自然なものの見方がなされています。これが生体にとってはストレスとなり、眼の疲労を引き起こす原因となっていると考えられます。

画面からの飛び出しが大きくなればなるほど近方視すること、さらには左右の像をひとつにできなくなる可能性もあります。ですから、3D映画を見る場合には、前列に座るのを避ける、テレビ画面の場合は縦幅の3倍の距離を保って視聴するように心掛けましょう。(例:縦1mの画面を見る場合は3m離れる。)

また、6歳以下の子どもの3D映像視聴は両眼視の発達に影響を与えてしまう可能性も否定できないため、メーカーが注意喚起をするとともに、保護者が子どもに見せないようにすることが大切です。

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