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インタビュー

笠井正志先生の取り組み-すべては現場の子どもたちのために

笠井正志先生の取り組み-すべては現場の子どもたちのために
笠井 正志 先生

兵庫県立こども病院 感染症科部長

笠井 正志 先生

「子どもの機嫌が悪い」ときどうすればよいのか、4記事にわたり兵庫県立こども病院感染症内科科長の笠井正志先生お話しいただきました。笠井先生は、医療者に対して小児診療の楽しさや真髄を伝えるため、子どもの病歴聴取と身体診察を学ぶワークショップ(HAPPY)発起人となり、現在は「(一般社団法人)こどものみかた」副理事長としてもご活動されています。小児医療に対する笠井先生の思いを伺いました。

私が目指しているのは子どもに優しい医療です。実は、今の小児医療は、「子ども」よりも「小児科医や病院」にやさしい(easyな)状態です。例えば、医者の間ではマニュアルのように、下記のような流れがありました。

①三ヶ月未満児の発熱

②採血する

③CRP(炎症の数字)をみる

④抗菌薬を投与する

これは一見クリアカットであり、やるべきことが明確になっている印象もありますが、単に医療を易しくしているだけだと思います。子どもにとっては、とうてい優しい医療とはいえません。

他にも、病院に行ったらそれほど必要のない採血のため針を刺されたり、CRP(炎症反応の数字)だけをみて不必要な抗菌薬を処方されたり、抗菌薬の副作用で下痢をしたり低血糖をおこして痙攣したりなど、心配な状況がいくつもあります。特に心配なのは、子どもに不必要な抗菌薬を使用することで抗菌薬が効きにくい耐性菌が増え、将来的に今ある抗菌薬が使えなくなるかもしれないことです。

私は小児感染症も専門ですが、不必要な抗菌薬を使うことで耐性菌が増えてしまっているのは、子どもたちの未来にとって、今そこにある大問題だと考えています。これは医療機関に入院しているような患者さんの間でのことですが、大人でも子どもでも、耐性菌に感染したせいで亡くなっている人がでてしまっているのです。

社会で一番弱い立場の子どもたちが、いろいろなリスクにさらされています。私は、小児医療が医療者・病院・社会に優しい「easy」な選択をしてきたから、無駄な治療や検査が生まれたのだと考えます。

もちろん、これは何らかの悪意があってではありません。しかし、わかりやすいデータを求めてまず手軽に検査を行い、その検査の解釈をどうするかばかり考えているようなデータありきではなく、まずは子どもありきの医療を考えるべきだと思います。つまり、子どもの背景にある家族も含めて、どうやって子どもの命を大切にしていくかということです。

HAPPYの共同発起人の児玉和彦先生ともよく話しますが、「子ども自身をきちんとみる・大事にする医療を行う」ことで未来の日本を作っていくことができると考えています。

マニュアル型の医療では、子どもはいきなりわけのわからぬまま採血をされたり、薬を飲まされたりして、病院が怖いと感じるでしょう。

子どもはつらくて病院に来ているのですから、来た瞬間から医療者が「よくがんばってきたね」と迎えて、シンプルであっても意味のある診察をして、本当に必要な人だけ検査を行い余計な介入はしない医療にしていく必要があります。そして、基本的には「親御さんのホームケアが一番」という方向を目指すのが小児科医の役割です。

マニュアル医療で検査データに基づいているだけなら、小児科医でなくてもできてしまい、小児科の存在意義がなくなります。小児科医のアイデンティティとは何なのかを考えると「子どもに優しく、子どもを幸せにすること」に行き着くのです。

ですから、私たちは「病歴」がとても大切だと思っています。病歴を聞きつつ子どもと関わることで、診断に役立つだけではなく、何に困っているのか、何を解決する必要があるのかを知ることができます。

病歴と身体診察だけでも70~80%は診断に近づきますが、100%に近づけるのは難しいです。子どもの病歴には親御さんの主観も入りますし、信用度には意外とあやふやな部分もあります。親御さんから正確な情報を引き出すテクニックも大切ですが、「困っている子どもの問題点を解決するために話を聞く」というスタンスが本当の「病歴を聞く」ことだと思います。そして病歴を補強するために身体診察を行っていくのです。もちろん子どもの身体診察もとても難しいので、必要な部分では検査をうまく使いながら診断をしていきます。

大切なのは、小児科医が「検査は最終手段」ということを理解し、病歴と身体診察だけでも重要な情報は取れると確信を持って臨むことです。

我々は現在、医療者向けに子どもの病歴と身体診察を学ぶ機会を提供する「HAPPY・こどものみかた」という活動を行っています。いずれは一般の方に向けてワークショップを開きたいのですが、まずは小児科医が子どもに優しい医療を提供できるような活動をしています。「小児科は子どもを泣かせる仕事」という風潮になっているのは、誰にとってもHAPPYではありません。理想は、最低限の検査でしっかり診断できる方向にもっていくことです。

今の小児医療の教育は、臨床推論(患者さんに実際に向き合ったときの、思考の積み重ね方や過程)をきちんと教えていない状態です。残念ながら学会などでも、病歴と身体診察よりも、検査の解釈や病気別の治療の話にばかり目が向いてしまっています。

しかし、多くの子どもたちにとっては、前者もとても重要です。日本では医療がアクセスフリーであるため、子どもの病院受診は非常に多いのですが、受診したことで元気になって帰っているかどうかは評価できていません。

小児科への受診で子どもも親も幸せに・元気になって帰っていってもらうための第一歩として、まず小児科医がしっかり診察をして、子どもとのコミュニケーションを楽しむという過程を重視できるようになることが大切です。HAPPYがそのためのプラットフォーム、ひいては小児医療の崩壊を食い止めることにつながるような役割を果たせればと考えています。

我々は、学会などの学術的な団体とは別の視点から、徹底的な「現場主義」という形でこれからも取り組んでいきます。特に、三つの軸として「シェア」「パートナーシップ(仲間)作り」「ロールモデルをみつけてもらう」ことを意識して活動しています。知識の共有だけではなく、失敗も含めた経験の共有も大切にしています。また、熱い気持ちを持った様々な先生方をワークショップに招き、お話しいただいています。

こうした取り組みによって、いずれは「普通の小児科医」ではなく「とてつもなくすごい小児科」を育てたいと思っています。HAPPYで学んだ方々が、現場主義のよい小児科医となって、自分の持ち場に帰ってからも学んだことをきちんと活かして、我々の「ハート」を周囲に伝えてほしいと願います。そして、いろいろな地域のロールモデルになってくれれば、そこからまた周囲を巻き込んでHAPPYの輪が広がっていくはずです。

「すべては現場の子どもたちのために」。私自身も、常に子どものために現場で楽しく働いている先輩であり続けたいと思っています。

 

【先生方の記事が本になりました】

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