インタビュー

魚沼基幹病院の取り組み―新潟県で最も医師数が少ない地域にもたらしたもの

魚沼基幹病院の取り組み―新潟県で最も医師数が少ない地域にもたらしたもの
内山 聖 先生

新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センター・新潟県地域医療推進機構 魚沼基幹病院 病院長

内山 聖 先生

2015年6月に開院した魚沼基幹病院。この病院が担うのは、急性期医療、救急医療、高度専門医療の3軸です。実は魚沼地域は非常に医師数が少なく、魚沼基幹病院が開院するまでは、急性期医療が必要な患者さんの治療は他の地域に頼らざるを得ませんでした。こうした状況を改善するため、3つの分野に特化した魚沼基幹病院が開設されます。また、魚沼基幹病院は、魚沼地域の抱える医療の問題(特に医師不足、看護師不足)を解決するという役割を担っています。新潟県内で最も医師数が少ない魚沼地域において、魚沼基幹病院はどのような取り組みを行い、地域医療に貢献しているのでしょうか。魚沼基幹病院院長の内山聖先生にお話しいただきます。

魚沼地域とはどのようなところ?地理的な環境―新潟県内の4市町の総称

(地図データ©google)

魚沼地域とは、新潟県十日町、津南町、南魚沼市、湯沢町、魚沼市の4市町を指します。

魚沼地域全体の広さは2649㎢で、佐賀県、神奈川県、沖縄県、東京都、大阪府、香川県の各6県よりも所有面積が広く、その広大な地域に人口約17万人が居住しています。

医療資源の問題―新潟県は医師数が少なく、なかでも魚沼地域の医師は圧倒的に不足

新潟県の医師数は全国で43番目と全国的にみても少なく、なかでもこの魚沼地域は新潟の中で最も医師が少ない地域です。人口あたりでいえば、全国平均の約半分にとどまります。

高空からみた魚沼基幹病院と魚沼地域。奥にみえるのが八海山

医療格差による医療への不安。患者さんは40㎞遠方の地区まで向かっていた

魚沼地域には、かつてより県立六日町病院(現、南魚沼市民病院)と県立小出病院(現、魚沼市立小出病院)というふたつの県立病院がありました。

しかしこの地域にはそもそも医師が少ないため、病院があっても患者さん(特に急性期・救急の患者さん)をすべて受け入れることができませんでした。そのため最近まで、重症の患者さんのうち20%は、ここから40㎞ほど離れた長岡地区にまで片道1時間かけて搬送している状況でした。

高齢者イメージ画像

このように、魚沼地域は元々医師不足が著しい地域ですが、過疎地でもあり、尚且つ高齢者人口は全住民のうち31%以上です。こうした地域の状況も医療への不安に拍車をかけていました。

なぜ・どのように魚沼基幹病院はできた? 設立の目的は「高度医療を地域内で提供する」こと

魚沼基幹病院ができあがった経緯と設立の目的

魚沼基幹病院外観

このような医療情勢のなか、2000年に魚沼基幹病院の話が持ち上がります。当時、小出病院と六日町病院では老朽化に伴う建て替え問題が生じてきており、病院改築が検討されていました。しかし、新潟県の予算をどのように使うか考えた際、単に老朽化した病院を改築するよりも、高度医療や救急医療を地域内で提供するほうが大事であるという結論に達したのです。

この結果、小出病院と六日町病院は市に委託して地域医療に特化した市民病院に改変し、県管轄でもうひとつ、高度医療を提供する新たな病院を作ることが決定しました。それが魚沼基幹病院です。

会議中

魚沼地域における魚沼基幹病院の役割は「急性期医療」「救急患者への対応」

魚沼基幹病院が魚沼地域で果たすべき役割は、高度医療、救急医療、地域の医療再編が中心です。

地域医療を再編するためには、改変した地域の医療機関と魚沼基幹病院がそれぞれ地域医療、急性期医療および医師の育成という役割を分担し、一体となって医療体制を作る仕組みが必要とされます。

たとえば、魚沼基幹病院では在宅医療および慢性期医療は行っていませんが、医療再編に伴い新設したゆきぐに大和病院や小出病院には在宅医療の機能が備わっています。魚沼基幹病院とこれらの地域医療に特化した病院が役割分担・連携することで、地域完結型で「ゆりかごから墓場まで」外に出ることなく、医療・介護が受けられるような環境が整いつつあります。

魚沼基幹病院が実現したこととは? 多くの救急患者を受け入れ遠方へ行く人が減った

それではここより、魚沼基幹病院が魚沼地域にどのような変化をもたらしたかをご説明していきます。

実現した点としては、「長岡地区へ運ばれる患者さんが激減した」「98%の稼働率」「魚沼地域初の常勤医の誕生」「地域医療体制の構築」などが挙げられます。

魚沼地域初・常勤医の誕生―泌尿器科、神経内科、心臓外科、呼吸器外科の設置

開院日、医師全員がヘリポートに集合した

これまで、魚沼地域にはあらゆる診療科で大学病院に常勤医がおらず、開業医もほとんどいない状況でした。魚沼基幹病院の開院に伴い、魚沼地域では初めて泌尿器科、神経内科、心臓外科、呼吸器外科の常勤医が誕生したのです。

「地域の一つの病院」としての役割―地域上起こりやすい事故への対応

魚沼地域は地域の特性上、事故が多いと考えられています。具体的には、夏期は登山中の転落、秋期は木からの墜落、冬期は屋根からの落下、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツ中のけがなどが多くみられます。

また、春先から秋にかけては農作業に伴う事故件数も増加します。

魚沼基幹病院は「どのようなケースにも対応する」ことを目指す病院

魚沼基幹病院はどのようなケースにも対応する病院で、救急患者さんの受け入れはもちろん、ドクターヘリが1日6~7件というハイペースで出動し、患者さんの救助にあたっています。

魚沼基幹病院から出動するドクターヘリ

このような仕組みができたことにより、魚沼基幹病院が開院してから、長岡に搬送される患者さんの割合は全体の2.3%にまで減少しました。

(※重症患者さんが重なり、どうしても魚沼基幹病院で対応できない場合は、長岡地域に依頼をして患者さんを搬送します。また冬期はドクターヘリを飛ばすことができません)

魚沼基幹病院が今後目指すもの

冒頭でも触れましたが、魚沼基幹病院の役割は3次救急と高度医療、医療人の育成にあります。

医師や資源が不足している魚沼地域でも救急患者さんに対応できるよう、スタッフの育成や他院との連携を最も重視した運営を目指しています。今後は魚沼地域医療の中核として高度先進医療、救急医療、災害時医療を担うと同時に、魚沼地域が一つの病院となることを目指し、益々地域医療者や施設と連携していきたいと考えています。

また、これを実現するために、優秀な医療従事者の育成にも力を注いでいきます。(魚沼基幹病院による医療従事者の育成制度や取り組みについては記事2『医師不足な新潟県魚沼地域の医療体制を解決する―魚沼基幹病院による総合診療医(ホスピタリスト)の育成』を参照)