インタビュー

医師不足な新潟県魚沼地域の医療体制を解決する―魚沼基幹病院による総合診療医(ホスピタリスト)の育成

医師不足な新潟県魚沼地域の医療体制を解決する―魚沼基幹病院による総合診療医(ホスピタリスト)の育成
内山 聖 先生

公益財団法人新潟県保健衛生センター 副会長

内山 聖 先生

この記事の最終更新は2016年10月28日です。

新潟県魚沼地域の高度医療、専門医療、および救急医療を担う魚沼基幹病院(2015年6月開院)。新潟県の中でも特に魚沼地域は深刻な医師不足の状態であり、救急患者さんの多くが長岡地区まで搬送されているという現状でした。魚沼基幹病院の開院に伴い、こうした状況は改善されつつありますが、今後継続的に魚沼地域内で安心して医療を受けていただくためには、現在魚沼地域が抱えている医師不足の問題を解決しなければなりません。そこで魚沼基幹病院では、地域医療の充実および高度化を実現するため、地域医療に携わる医療従事者の教育に力を入れているのも大きな特徴です。特に総合診療医(ホスピタリスト)の育成に力を注ぎ、大学病院や地域医療を担う他の病院と連携し、多彩なプログラムのもと研修医や若手医師に教育を施しています。2016年現在は協力型研修病院として6名の研修生を迎え、2018年には独自に受け入れを行っていく予定だといいます。新潟県内で最も医師数が少ない魚沼地域において、魚沼基幹病院はどのような取り組みを行い、この問題を解決しようとしているのでしょうか。魚沼地域で医療に従事する魅力を踏まえ、魚沼基幹病院院長の内山聖先生にお話しいただきます。

記事1『魚沼基幹病院の取り組み―新潟県で最も医師数が少ない地域にもたらしたもの』でも触れましたが、新潟県は医師数が少ない県の一つです。新潟県の医師数は全国で43番目と全国的にみても少なく、なかでもこの魚沼地域は新潟の中で最も医師が少ない地域であり、人口あたりでいえば、全国平均の約半分にとどまっている現状があります。

(地図データ©google)

どこで研修を受けても同じプログラムだからこそ、医学生が皆首都圏に出ていってしまうのです。

勿論新潟県は以前から、研修医の教育において真摯に取り組みを進めてきましたが、それでも研修医の減少には歯止めがかかりませんでした。

では、なぜ研修医が減少してしまったのでしょうか。これは私の意見ですが、これまでの研修制度はいわば「金太郎の飴」状態、つまり「どこで切っても同じ」プログラムの提示があったように感じます。ですから、新潟県で最大規模の医学部を構える新潟大学の研修においても学生が地域医療を十分理解できない面が残り、県外に移ってしまったのではないでしょうか。

現代の内科領域は専門分化する傾向にありますが、研修医には、最初の5年間はしっかりと基礎を積んでもらうことが大事だと考えます。たとえば小児科の場合、研修生はまず一般小児科の臨床経験を積みます。5年間かけて小児系の疾患を診られるようになったところで、サブスペシャリティ(基本領域からさらに専門分化した領域)を選択していきます。つまり、最初の5年間はとにかく一般小児科を経験し、一般小児科診療をマスターしてから専門医を目指すという流れをとることが大事なのです。

現在は新潟大学医学部の卒業生のうち、約60%が県外に出てしまっている現状があります。私はこれを50%に減少したいと考えています。

夜間の魚沼基幹病院。医学生は寝泊まりをしながら魚沼基幹病院で医療を学んでいる

先に少し触れましたが、現代の医学において、特に内科領域では専門分化による臓器別の診療体制が確立されつつあります。しかし、今後魚沼地域の医療を強化するためには、総合診療を担う医療人の育成が必要不可欠です。総合診療医とは、総合的な診療能力を備え、プライマリーケア(身近な医療)を専門にする医師のことを指します。

診察中

このため魚沼基幹病院では、「総合診療医」の育成に注力しています。

勉強に励む若者

魚沼地域の医療に貢献する医療人の育成に力を注ぐため、魚沼基幹病院は2016年4月より新潟大学医歯学総合病院の協力型研修病院として、また2018年4月からは基幹型臨床研究病院として、独自に大学卒業後の臨床研修医の受け入れを行います。

2016年は地域医療教育センターに6名の研修医を迎えました。来春(2017年春)には再び研修医が訪れる予定です。Uターン、Iターンや支援制度を活用し、県外の大学を卒業してから地元の魚沼地域に戻った医師や看護師も増えてきています。

また、魚沼基幹病院が設置した新潟大学医歯学総合病院地域医療教育センター(以下:地域医療教育センター)という医師教育施設には、43名の特任教授が在籍します。彼らと新潟大学、魚沼基幹病院が一体となり、若手医師や医学生に研修や教育指導を行います。

研修生は教員の指導の下、地域医療の第一線である周辺病院等で、保健・医療・福祉と一体となったプライマリーケア研修を受けます。たとえば魚沼基幹病院と連携体制を築いている新潟大学医歯学総合病院では総合地域医療学講座を立ち上げ、講座内では医学部5年生全員が1週間交代で地域医療を学んでいます。

院内イベント(英語教室)の様子

このように、地域医療教育センターおよび魚沼基幹病院では、地域医療の学習に加え、特任教授による救命救急医療や専門医療研修など多彩なプログラムが実施されるため、これら双方の医療の診療能力を身につけられる仕組みが整っているのです。一つの地域で幅広い医療を経験することで、プライマリーケアから重症疾患の対応までを知り、あらゆる事態に対応できる医療従事者へと成長していくことができます。

なお魚沼基幹病院では総合診療医の育成を基本としていますが、勿論、進路の選択は本人の自由です。とはいえ、内科系の総合診断能力と治療技術を持っていれば、無限の可能性が広がることは確かです。

総合診療に重きを置いている魚沼基幹病院では、地域の特性上、プライマリーケアを経験する機会が多くあります。また、病院から少し手を伸ばせば小出病院などが行う在宅医療に手が届き、慢性医療の経験や見聞きができる環境下です。魚沼基幹病院では重症患者への対応も行っているため、若手医師にとっては幅広い医療を経験できる場所といえます。

魚沼基幹病院は在宅医療や慢性医療にも手を伸ばせる環境下にある

また、都内や大学病院に勤務する医師にも一度魚沼地域での医療や教育を体験していただきたいと思っています。医療の循環という意味では、別の病院にポストがあること自体は悪いことではありません。大学にとっては魚沼基幹病院という分院を設けたようなものですし、実習を受けている新潟大学医学部の5年生もここに預けられた形になっています。

実際に、現在地域医療教育センターで指導にあたる教員には、大学病院の外来で臨床を続けている先生から研究に力を注いでいる先生まで様々な方がいらっしゃいます。

なお地域医療教育センターの教員となった先生においては、大学病院の教授クラスよりもある程度給与ベースを高く設定し、さらに魚沼基幹病院の診療を毎日受け持っていただく代わりに、診療対価を追加でお渡ししています。

とはいえ、魚沼基幹病院はまだ医師不足の状態で、特に麻酔科医と放射線治療医が足りていない状態です。我々もこれまで東京都を中心に様々な地域の病院に訪れ、麻酔科医を募りましたが、やはりすぐには集まりません。

魚沼地域は、首都圏で医療に従事することとは違うやりがいや喜び、日々の楽しみをみつけることができる地域です。将来の方向性に迷っているという医師や看護師は、たとえば一年間など期間限定でもいいので、一度魚沼地域にきてみてはいかがでしょうか。

魚沼名産のコシヒカリ

魚沼地域は人口的には過疎地ですが、地域医療や総合診療を学びたい方、幅広い領域を経験したい方、特にコシヒカリや日本酒など魚沼の名産を好きだといってくれる方、冬のスポーツが好きな方には最適な環境が整っています。

魚沼地域周辺にはスキー場があり、魚沼基幹病院のスタッフもたびたび使用している

「地域医療に貢献したい」「地方の高齢者の力になりたい」「一年間だけ温泉巡りやお酒、スポーツを楽しみ、キャリアプランを見つめなおしたい」という医療従事者はぜひ、一度魚沼基幹病院に来て、魚沼地域での仕事と暮らしを楽しんでみてください。

開院式の様子。全スタッフがあたたかく訪れる人を迎え入れている

 

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  • 公益財団法人新潟県保健衛生センター 副会長

    日本小児科学会 小児科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医

    内山 聖 先生

    新潟大学医学部を卒業後、同大学小児科、大分医科大学小児科、新潟大学医学部長、同医歯学総合病院病院長を経て、2013年より魚沼基幹病院病院長。「魚沼地域に多くの医師を集めたい」という熱い思いのもと、新潟大学や他院との連携、研修体制の構築に至るまで幅広く活動し、魚沼地域の医療の充実化を目指している。

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