ニュース

相澤病院の100年

相澤病院の100年
相澤 孝夫 先生

一般社団法人 日本病院会 会長

相澤 孝夫 先生

この記事の最終更新は2016年12月11日です。

長野県松本市に位置する相澤病院は開設64周年、前身となった「相澤医院」を含めれば108周年という歴史ある病院です。地域の中核病院の100年間と、現在迎えている転換期について、理事長・院長である相澤孝夫先生にお話を伺いました。

今の相澤病院は私の祖父・父、そして私自身の3つの理念を根幹に、地域の医療を支えています。

1つ目の理念は祖父によるものです。1908年に「相澤病院」の前身となる「相澤医院」を開院した私の祖父は、医療によってユートピアを作りたいという高い志があり、苦労をして医師になりました。「病気で困っている人には、どんな人であっても手を差し伸べる」という理念を胸に、当時から松本市の医療を担っていました。この理念は今でも、相澤病院の地域医療を支える重要な考えとなっています。

その祖父が亡くなり、父が後を継いだ際には、2つ目の理念として「医療はどんどん進歩するのだから、患者さんの役に立つ質の高い医療機器や治療方法はどんどん取り入れるべきだ」という考えが新たに取り入れられました。長野県で初めてのCTや人工透析を取り入れたり、脳外科をいち早く設立したり、開業医からの紹介制度を整え、病診連携を積極的に行うなど、高度経済成長の後押しもあり病院がかなり大きくなったのがこの時代です。

そして、その父も1981年に亡くなりました。当時私は大学で研究をしていたのですが、おじである院長とともに消化器内科のトップとしてこの病院を支える立場になりました。

時代はちょうどバブルが弾けた頃で、相澤病院も経営・運営面でとても厳しい時期に突入します。1994年に私自身が院長に就任しますが、その当時もどんどん経営が悪化し、ひどい時は看護師が不足して1病棟丸ごと閉鎖になることもあったくらいです。

私たちはそこで立ち上がりました。医療を一生懸命やるためには、継続のための利益が必要です。利益を出すためには今まで追い求めていた「医療の質」だけでなく、「経営の質」を改善する必要があると感じました。それからは医療の質を保ちつつも、経営の質を高めることに尽力しました。

ここで私が3つ目の理念として掲げたいのは「時代の要請にいつでも耳を傾ける」ことです。

相澤先生

医療機関に限らず言えることですが、私たちは何か一度成功体験があるとなかなかそこから抜け出せません。しかし、自分たちが思っている以上に社会や世界はめまぐるしく変わっています。

経営の質を上げるためには、思い込みを完全に排除し、まずはこの変化を察知します。そして、今の時代の要請は何か、この相澤病院ができることは何か、を常に真剣に考え、正しく把握することが必要だと思いました。

次に、課題をどのように実現するか、現状との差を埋めるために何をすべきなのか、といった計画を立てることができます。仮説を立て、それを実行に移す。そこに経営的な視点があってはじめて、それは地に足のついた計画になるのではないでしょうか。

相澤病院のホームページで掲げている「ミッション」「ビジョン」は、その結果です。

・慈泉会は、急性期医療・回復期医療・在宅医療支援の各機能を高めると共に一貫性ある機能とすることで、患者の早期在宅復帰を果たし、在宅療養の質を高める

・慈泉会は、時代に応じた医療の質・病院の質向上に努め、安全で信頼される医療を提供する

・慈泉会は、少子高齢人口減少社会に適合した入院医療・在宅医療・在宅介護の緊密かつ効率的な連携を実現する

・慈泉会は、健康寿命延伸に貢献する予防医療を推進する

・ERの初期救急医療から救急病棟・集中治療病棟における入院医療までを相澤病院における救急医療として一体的に整備する

・相澤病院は様々な診療科を有する急性期病院としての総合機能と専門性の高い急性期医療機能を高める

・相澤病院は地域医療を牽引する中核病院としての病診連携・病病連携を推進する

・急性期治療後の回復期リハビリを充実させ、在宅復帰率を高め、在宅療養者に対する訪問看護・訪問リハビリ・通所リハビリ等の医療を充実し、患者と患者家族のQOLを高める

・急性期治療後の要介護状態患者に対して、生活機能を維持・向上するリハビリを行い、退院後の療養生活がその人らしく行えるように支援する相澤東病院を相澤病院との密接な連携の下に運営する

・医療の質・病院の質の評価と改善の仕組みを適時更新し、重点課題から確実に改善する

・病院QI事業による評価に基づいて改善を図り、結果を公表する

・患者の療養に適した生活の場の確保を推進する

・相澤訪問看護ステーションを調整役とする在宅医療支援を強化・拡大する

・相澤在宅医療支援センターを在宅療養の情報と連携の中心とする24時間システムを確立し、患者と患者家族が安心して在宅療養できる環境を整備する

・健康寿命の延伸に貢献する一次から三次までの予防医療を拡充する

・患者やドック受診者のみならず医療従事者も含めたインバウンドを目指して、医療の国際展開を行う

もう一つ私が経営という観点から重視していることは、人を動かす「マネージャーシップ」と「リーダーシップ」です。

「マネージャーシップ」とは、効率がよく、かつ、正しく仕事ができる仕組みを作り、組織を成功に導いていくことです。規則や手順などのマニュアルがしっかりしていると、効率よく仕事が進み、組織そのものを円滑に回すことができます。しかし、それだけでは心のこもっていない仕事になってしまいます。

「リーダーシップ」とは、率先してスタッフを引っ張り、心のこもったチームを作り上げることです。これは素質ではなく、努力や訓練によって培われるものだと思います。とりわけ私は3つのことを意識しました。

・コミュニケーションの回数を増やす

・ビジョン、ミッションを一度作ったらブレない

・悪い事や人から後ろ指をさされるようなことはしない

このように心がけることで、スタッフから「この人についていきたい」「一緒に仕事をしていきたい」と思ってもらえると考えたのです。実際、このような心がけは、心の通った病院作りに必要不可欠だと身をもって感じました。

相澤病院外観

もともと、相澤病院には地域において全く異なる2つの役割がありました。それは祖父の理念に基づく「困っている人に手を差し伸べる地域に密着した医療」と、父の理念に基づいた「最新医療を用いた急性期医療」の2つです。それまでは1つの病院でどちらの役割も担っていましたが、データや情報を冷静に改めて見てみると、私は機能を分化させる必要があると感じました。

長野県松本市のような地方都市では、総人口が減少しているにもかかわらず、高齢者の数は増えています。このような傾向から考えると「最新医療を用いた急性期医療」が必要なことは間違いないが、想定より規模の小さな器でも十分に機能するのではないか、ということが考えられます。

一方で、地域には高齢者の数が増え、皆がさまざまな疾患を抱えています。たとえ病気が治り退院したとしても、何らかの医療は引き続き必要となるでしょう。しかし、今各地域にそのような器はあるとは考えられません。今後、地域に根ざした医療のニーズは一層高まっていくのではないかと考えました。

この2つの仮説は、それぞれ求められる解が全く異なります。私は1つの病院に2つの機能を集中させることは得策ではないと考えました。むしろ、これを分離し、それぞれの患者さんに対して最高のサービスを提供することが、今の「時代の要請」と考えました。こういった背景から、相澤東病院が誕生しました。

※本記事に使用している画像は相澤病院よりご提供いただいております。