記事1『相澤病院の100年』では、親子3代の理念に支えられ邁進してきた相澤病院の100年の歴史をお伺いしました。次に2016年「地域包括ケア」の中心地として新たに作られた「相澤東病院」や今後の相澤病院の展望について、引き続き慈泉会の理事長であり相澤病院の院長の相澤孝夫先生にお話を伺いました。
「相澤東病院」は長野県松本市に2016年2月1日にできたばかりの新しい病院です。「相澤病院」からも徒歩1分圏内に位置しています。「相澤東病院」は「あの病院があってよかった」「あの病院があるから安心」と地域の人に思っていただけるような病院を目指して作りました。これからどんどん増えるご高齢の患者さんを中心に、「地域のどんな人にも広く門を開いて医療を提供したい」という先々代の祖父の思いを受け継いだ病院です。
相澤東病院は、在宅医療・介護を受ける患者さんや家族、あるいは地域の診療所・介護サービス事業者を支える役割として、地域包括ケアシステムの中心を担っています。
例えば、ある患者さんが普段は地域のクリニックの先生に在宅医療で診てもらっているとします。突然具合が悪くなった際、もしかかりつけの先生が不在だったら、今までの相澤病院の仕組みでは入院を提案することしかできませんでした。
しかし地域包括ケアを担う相澤東病院では、患者さんがなるべくこれまで住みなれた自宅で過ごせるように、医療チームが病院から患者さんの自宅へ赴ける仕組みを確立しました。もちろん相澤東病院にも入院機能はありますので、いざという時はぜひ利用してもらいたいですが、地域に密着し、患者さんがより過ごしやすい療養生活を送るために、このようなサービスが求められているのだろうと思います。
また、相澤東病院があることで、患者さんだけでなく、地域の医療に携わる人たちに対しても、安心を提供できると考えています。
相澤東病院を始めて、間もなく1年が経とうとしています。実際に病院を運営してみて、さまざまなことに気がつきました。
まず、思った以上に自然の老衰で亡くなっていく方が多いことに驚きました。入院している患者さんなどを診ていると、急性心筋梗塞や、がんなど病気により亡くなる方を見る機会がどうしても多くなりますが、実際の地域には老衰で自然に亡くなる方も案外いらっしゃることが実感できました。これは入院する患者さんだけを診ていたら気づけないことだったかもしれません。
また老衰で亡くなる方に対して、家族では面倒を見きれないという問題も感じました。老化による死を迎える場合、日常生活の延長線上で、自然にお亡くなりになると思われるかもしれせん。しかし、実際には家族の方々に多大な負担がかかり、時に家族だけでは手に負えないという事態も発生します。こういう場面で、看取りの機能を代替することも、相澤東病院の一つの使命であると痛感しました。
私は相澤東病院で構想するさまざまなシステムを最低2年くらいの間で確立したいと考えています。開院してまだ1年弱ですが、現在、日々工夫し、スタッフが一丸となって切磋琢磨しているところです。働く人たちにとっても、夢や可能性を感じられる、「ここで働いてよかった」と思えるような病院にしたいと思っています。
※画像提供:相澤病院
ご高齢の方が抱えている問題は医療だけではありません。食事、排泄、移動など普段私たちが当たり前に行うことも、支援が必要になってきます。とりわけ地方都市周辺の町や村では、せっかく病気を治して家に帰っても、その後、高齢者は苦労して生活しなければならないという現状があります。たとえば、若い労働者の多くが町を出てしまいますし、買い物に行くにも距離が長く車が必須です。ご高齢者はかなりの不自由を迫られますが、地域にはこうした現状を打破するだけの資金もありません。
そういった過疎地域に暮らすご高齢者の人生を考えたとき、サービス付き高齢者向け住宅の必要性を強く感じました。病院の近くにマンションを建て、移住してきてもらい、訪問看護・介護・リハビリやケアマネジメントの整った状態で生活してもらうというのも、一つの有効な方法かもしれません。
高齢になってくると、医療は生活において身近にあるべきものです。病院を中心としたまちづくりをすることで、先に述べたように、住みなれた地域で安らかに亡くなることができなかったとしても、今まで一生懸命働いてきたご高齢の方々が「いい人生だったな、良かったな」と思える最期を作りたいと思っています。
サービス付き高齢者向け住宅を実際に作ってみましたが、目先では「家賃」が大きな課題です。私の希望としては年金で暮らせる範囲内の金額を提示したいのですが、建築費を加味するとどうしても1世帯あたりの家賃が高くなってしまいます。居住者が家賃から生活費まで総額7万円でまかなえるシステムが理想ですが、今のところ、その実現はなかなか厳しいと感じています。
しかし、最近は松本市にも空き家や空き地が以前より増えたように感じます。これらをうまく生かし、今後さらに多くの方が安価に安心して暮らせる町を作っていきたいと思います。最終的には松本市全体でこのサービス付き高齢者向け住宅の成功モデルを作り、同じような問題を抱えている地域へのひとつの解として提示したいと思っています。